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X-Dayと演説

その日の午後から久し振りにネズミ駆除の依頼を受けた。


アタシのギルドランクが星二個になった時点で、ギルドは指名依頼を受け付けしなくなっていた。


だからこれは指名依頼ではなく普通の依頼だから貢献度ポイントも通常通りだし報酬も安い。


纏まったお金も手に入ったので受ける必要はまったく無いのだけど、ネズミ駆除は不人気なので受注者がいない。


アタシだって指名依頼をこなしている最中は普通の依頼は受けていなかった。


でも多少のネズミは街を掃除してくれるけど、大量のネズミは街を汚し病気の元になる可能性が高い。


本当に困っている人がなけなしのお金を出しているのだからと思い、依頼を受けることにしたのである。


それに、オークの脅威は無くなった事だし、安心して砦から旅に出ることが出来る。


立つ鳥跡を濁さす。乗り掛かった船。お世話になった砦だしお礼を兼ねて出来るだけやっておこう。


依頼は飲食店と野菜とか肉とかを扱う店舗が多く、どれも生活に密着している。


X-Dayの夕方前まで、ネズミ駆除に励んだ。


その時もアドバイスは忘れない。

ネズミ穴を見つけては塞ぐように促し、生ゴミは貯めずにすぐ処分、食料倉庫には『ネズミ返し』の提案と店舗の実状にあわせて細かく対処法を伝えた。


先日のドラゴン、ゴブリン等の情報提供によりギルドランク星二個半となっていたアタシの話しは、子供の戯れ言とは囚われずに真摯に受け止めて貰えた。


たくさんの人が同じ様に対処法を実践してくれれば、根絶は出来なくともネズミが住みづらい街にすることは出来る。


そうなればネズミ被害が減ることにより、対策分の費用が浮き、回りまわって一般人の生活が楽になる事になるので、良いことづくめである。


浸透してくれればいいな。


今日の依頼完了報告をギルドに提出して報酬を貰い。会場である大広場に向かった。


結果的に冒険者ギルド、商人ギルド、守護騎士団までをも巻き込んでしまったこの依頼は当初ただの宴会であったはずだ。


冒険者ギルドの前の空き地を借りて、商人ギルドに食を提供してもらう。


貧乏パーティが一夜にして大金持ちになると言うサクセスストーリー。

冒険者の誰もが夢を見る話しだ。

夢を実現したパーティが目の前にいる。

「よし。俺達も!」と奮起するパーティが殆んどだと思うが、他人の成功を内心では妬んでいるに違いあるまい。


妬みは時間が経てば恨みに変わり、何かがあった時にどんな事になるのか分からない。


ピンチに陥った時に無視されるならまだましだが、積極的に陥れられたり、罠に嵌めてくることも考えられる。


恨まれたままと言うのは恐ろしいことだ。


そんな負の心を少しでも癒すために宴会を企画依頼をしたのだが。



街を歩くと壁には貼り紙がある、そこには。


企画及び主資金提供者 『青く澄み渡る風』

協賛 『冒険者ギルド』『商人ギルド』『守護騎士団』


ギルドカード所持者は宴会場での飲み食いはすべて自由。

受け取りの際はカードを提示すること。

カード不所持の者は通常料金となる。

一般人の参加も可。但し通常料金となる。

開始は夕方号令のカネとし、食材がすべてなくなりしだい終了。


協賛者からのコメント


冒険者ギルド

オーク、ゴブリンの脅威は冒険者達みなの活躍により去った。

日頃の感謝を含め今宵は飲み食い踊って欲しい。


商人ギルド

たくさんの人が集まるこの場に自慢の料理を提供して欲しい。

アピールするのはいつだ。

今以外にはあるまい。


守護騎士団

屈強にして砦住民を守る未婚の団員が多数いる。

この機会に収入の安定している者達との出会いをして欲しい。




冒険者ギルドはまじめで普通過ぎて面白味がない。



商人ギルドは飲食店の活性化に利用するようだ。

商魂たくましいことは良いことだ。


守護騎士団は嫁不足の解消に利用するようだ。

警備と訓練の毎日であるから致し方ないことだと思うが、この場を合コン会場とする気満々のようだ。




そんな貼り紙が、街のあらゆる場所に貼られていたことを思い出している内に大広場に着いていた。


この後のシナリオは、『冒険者ギルド』『商人ギルド』『守護騎士団』の偉い人達が演説したあと企画者である『青く澄み渡る風』の代表としてアタシが演説をして開催する流れである。


普通はアランさんが代表として演説するところだが、企画の意味を伝えて理解はしてくれたが、どう話せば良いかさっぱり分からないと言う。


はっきり言って目立つ行動はしたくはないが、演説に失敗すれば効果が半減どころが「しなければ良かったのに」となりかねない。


アタシは腹を括り。

今夜は人心を惑わす悪女を演じることにした。


あれこれと元の世界で覚えたプレゼンを思い出して頭の中で構築していく。


考えをまとめ終えた時に『守護騎士団』の演説が終ったようで呼ばれた。



『青い閃光』の四人と一緒に壇上にあがり、アタシだけ更に前に出たあと、軽くジャンプして空中停止した。


これは風魔法ではなく土魔法である。

土魔法は時として重力や引力を無視するような効果を発揮する。

そこに注目してこつこつつと実験を続けた成果の魔法である。


この魔法の特長は空中停止出来ることだが、それ以外は何も出来ない。


しかも当然の事ながら、お尻からしか発動しないので元の世界の人なら誰しも思うだろう。

リアル空気イスだ。

本当に座っているからキツくはないけどね。


風魔法と違って下から丸見えにならないのが最大の利点である。


停止している高さは控え目な五メートル、後ろの方の人までバッチリ見える高さだ。



空中に浮かぶアタシを見て「早く食わせろ」「飲ませろ」と好き勝手に騒いでいた人々が驚き静まり注目する。


掴みはOKのようだ。


「只今紹介頂きました『青く澄み渡る』クラン所属の『白い風』のマッキーです。暫しの間、御静聴頂ければ幸いです。今宵はたくさんの人にお集まり頂きありがとうございます……」


そう前口上をし、内容は。


アタシ達クランの成功はアタシ達の力だけで成せた訳ではなく、

冒険者達が日頃から魔物と戦い倒し数を減らしてくれて、

守護騎士団が砦を守る事で安心感をくれて、

商人達が食材武器を準備してくれて、

砦に住まう人々が癒しを提供してくれた、

その全ての力があったからこそ成せたことだ。


と強調した演説をおこなった。


「最後にささやかながら感謝と共に還元させて貰いたくこの宴会を開催した。

さぁ飲んで食べて踊って騒いで欲しい、宴会開始!」


とアタシの合図と共にカネがなる。



後に、この演説は書物となり『青く澄み渡る風クラン夢の達成とその理由』と題され冒険者の心構えとして残ることになる。


そんな事になるとは思ってもいないアタシは壇上から降りてアランさん達四人と宴会場を巡り回った。


あちこちで呼び止められ、たくさんの人から「演説が心に響いたよ」とか「みんな繋がり合っていることを再確認したよ」と、お礼を頂けた。


そのなかでも冒険者から

「正直羨ましいし上手くやりやがったなと思うがあの演説を聞けば、俺たちとは器がちげぇや成るべく人物が成ったと納得するしかねぇ。」

と言ってくれた事に頬が緩んだ。


いずれ表面化するであろう問題を事前に解決する為にこの宴会を開催した結果。

狙い通りの答えを得られたからだ。



今のアタシは人心を惑わす悪女。

そう思い込んで演じたからこそ、何千人もの人の注目を浴びつつも演説が出来たが、内心は不安でいっぱいであった。


が、これで安心だ。

全ての人が先程の冒険者のように思い直してくれるとは思わないが、少なくとも色眼鏡を掛けて見られたとしてもその色は限りなく薄くなったと思う。


こう言う場で一番厄介事を引き起こす冒険者が、ただ酒ただ飯を与えられているので、トラブルは起こりようがなく。


大広場での宴会は深夜にまで続き、酒や飲み物、食材がすべて無くなり終了となった。


満足顔で引き上げる人の波を見て、胸を撫で下ろすマッキーであった。



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