ホットも良いけどアイスもね
あの後、魔道具の話しをたくさん聞いた。ピエールさんが引くほどに。
それで分かったことは。
遺跡で見つけた効果の分からない魔道具が既存外の魔道具の場合。
謝礼金は金貨五枚程と発見者として名前が残る名誉。
概知の物なら、相応の評価額のみ。
新たに研究開発した魔道具の場合、効果を示して評価が確認できれば、金貨十枚と開発者として名前が残る名誉。
更に内容を開示すれば、技術情報として購入した登録者から販売利益の十パーセントの金が支払われる。
商人ギルドは不正を許さない、未登録者が同じ技術で生産した場合は厳罰を与えると言う。
勝手に解析、コピーされたくなければ情報を開示した方が得だと言うことだ。
そこまで聞いてアタシは、アタシの開発した新しい魔道具だと言って隠蔽工作をしていない『水』に『、』が付け加えられた魔道具を見せた。
アタシの話しを聞いて目の色を変えたピエールさんは、既存魔道具の一覧表を確認して、カテゴリーはあるが、登録が一件もない事を再確認していた。
昔から商いとしては、冬の山に行き、凍った水を切り出して地下室に保管し、王族や貴族の集まりに高額で販売している。
だから昔から魔術で実現できないのかと、研究され続けていたが、力を指し示す図柄が分からずにいたらしい。
『水』『氷』いくら象形文字だと言っても『、』だけで、コオリになるとは思わないよね。汚れやシミがついただけだと思うのが普通だとアタシも思う。
氷魔道具の利便性は限り無い、それはピエールさんも良く分かっている。
本当にそんな魔道具が作れるなら通商革命である。傷みやすい食べ物も今までより遥かに遠い場所で売ることが出来るのだから。
実演をして欲しいと言うピエールさんの言葉に、大き目のコップに濃く抽出した珈琲を依頼した。
職員さんを呼び届けられた珈琲が二杯。
『氷』の魔道具に魔力を流し、出てきた氷をカップに三個落とす。
熱い珈琲はたちまち冷えて、溶け残った氷が浮いている所を軽くかき回して一口飲む。ピエールさんも真似してかき回して一口飲んだ。
「「これは(も)美味しい」」ピエールさんとセリフが合ってしまったが、アイス珈琲を飲むことが出来て満足である。
苦味と酸味の調和が冷えることにより引き締まりホットでは豊潤な香りが鼻腔を誘惑するが、アイスでは香りが口の中に広がる。
子供なのに珈琲の味が分かるのかと今更のように聞かれたが、それこそ商人ギルド初日から頂いているので今更だ。
ピエールさんは珈琲がとても好きなようで、アタシも好きですよと相槌を入れたら、その後しばらく珈琲ウンチクが止まらなかった。
珈琲を飲み始めれば必ず起こること、一滴残らず飲み終えてしまい残念そうにカップを見るピエールさんを促して登録の手続きを行う。
登録の書類をすべて書き込み、ピエールさんに確認してもらう。但し開発者は非公開とさせてもらった。書類にはアタシの名前を記載せざるを得ないが、極力身バレは避けたい。
これからすぐに商人ギルドで製造を開始するから明日には売り出される事になるという。
あまりにも早い商品化だが、『時は金なり』商売はスピードか命。
売れるかどうか分からないものなら未だしも、冒険者の報酬が霞む程、莫大な利益を産むであろう商品を売らない訳がないと。
ピエールさんの粗い鼻息に今度はアタシが引いてしまった。
最後にアタシ自信も生産、販売しても良い事を確認し、サンプルとして魔道具を預け、商人ギルドをあとにした。
これで一日待てば、大っぴらに氷の魔道具が使えるとニヤニヤしながら夕暮れの中、宿屋に戻った。
宿屋に付くと宿屋の親父、マリアンヌさん、エリーさんが放心していた。
何事があったのか心配になり聞いたところ、われに返った親父から驚きの事実が伝えられた。
早朝にアタシと作ったエグ味のないジャムモドキの美味しさに感動し、さっそく大量生産した。
そしてご近所さんに少量ずつ「新商品です。気に入ったら買いに来てください」と配ったのが午前中。価格は小瓶一つ強気の銀貨一枚。
贅沢品の甘いジャムモドキなので、高過ぎると言うことはない。
そんな小瓶が一つ売れた時には、喜んだらしい。
だがその後、噂を聞き付けた女性客を中心に購入者で行列を作ってしまった。
慌てて増産を始めたが、追い付かない上に元々あまり材料も準備していなかった為完売。
先程最後の客にお引き取り願ったばかりらしい。
その売り上げは金貨一枚を超えたという。
お疲れさまです。
こんな売り上げが毎日続くわけはないし、マリアンヌさんの身体の事もある。
今日は、初日の特売だった事にして明日から少し値増しして数量限定と銘をうち販売した方が良いですよとアドバイスをしておいた。
朝は売り方には口を出さないと考えていた癖に、すぐに首を突っ込んでしまうのは悪い癖だ。と内心反省していたが、この案を採用することにしたらしい。
さっそく親父が看板を作り始めた。
翌日、いつもの体操をしているとエリーさんが呼びに来た。
朝食のパンに塗られたジャムモドキはアタシのそれと遜色ない。
これは美味しいと少し大袈裟に表現したら、エリーさんは喜んでいた。
朝食後に魔道具屋さんに行くと、確かに氷の魔道具を販売していた。
さすがは商人ギルドと感心していたけど値段を聞いてビックリした。
金貨十枚だと。
オークの魔石が使われているから品質としては良いものだと思うが、
最高級の火の玉魔道具と同じ値段設定に購入者がいるのか聞いてみると、
昨晩のうちに新商品の情報が出回っていて、夜のうちに十個の予約がり入荷予定数はすでに完売。
展示してある商品は、サンプルとして商人ギルドから朝一に届いた物で非売品だと言う。
実際に『氷』を出す魔道具があるとアピールするには実物を置く事が重要だからだ と言っても。
販売促進に手を抜かない商人ギルドの意欲には脱帽である。
氷の魔道具の購入は諦めて、次に冒険者ギルドに行き、支店長を呼んでもらい応接室で依頼の話しをした。
商人ギルドも全面的に協力してくれることになったことは、すでに支店長も把握しており。
場所は大広場で行うことで守護騎士団にも話しがついていると言う。
かなり大掛かりになりそうだが、予算的には問題ないそうだ。
いくら『青い閃光』との共同出資とするから金貨十枚の予算があると言っても、
なんだか想像よりも規模が大きくなっている気もするが、二大組織への依頼だからと自分を無理やり安心させて任せることにした。
X-Dayは五日後の夕方からとなった。




