商人と魔石
アタシは帰り際にギルドにある依頼を出した。
一攫千金を実現したならやっておかないと後々トラブルに巻き込まれかねない。それでもトラブルは起きるだろうが、やらないよりよっぽどましだ。
その後、宿屋に行くとキャサリンさん達が連絡していてくれたらしく宿屋の親父、マリアンヌさん、エリーさんが出迎えてくれた。
マリアンヌさんとエリーさんは、おじいさんが迷惑を掛けてしまった事を謝ってきたが、こちらこそ取り乱してしまって申し訳ないと謝り返してしまった。
いくらトラウマに抵触していたからと言っても、普通に言い返せば良かっただけのことだから気にされてしまう方が辛い。
おじいさんにも謝りたいからと伝えて、後で手紙を書いて渡すことにした。
送るときはアタシがお金を出すので、ついでに何か送るものがあったら言って欲しいと重ねて伝えた。
宿屋の親父からマントとホウキと背負い袋を受け取り、更に部屋は同じ場所を空けてあると。
アタシは「色々御迷惑をお掛けしました。ありがとうございます」と感謝の言葉を伝えた。
宿屋は居酒屋を兼ねている、あまり時間を取らせるのは不味いと思い、早々に夕飯を頂き部屋に向かった。
部屋に入り確実に施錠してから、屋根裏に隠しているアタシ手製の背負い袋が確かにあることを確認した。
そして次に今受け取った背負い袋を確認する。
その後、ホウキ、マントと点検したが特に問題は見受けられない。
そこまでやってから、アタシは休むことにした。
蜘蛛糸警報装置の上でゆっくり休んだ。
翌朝、ラジオ体操もどきをしていると宿屋の親父ではなくエリーさんが朝食を呼びに来た。
席に座ると甘い香りがする。
パンにジャムモドキが塗ってあった。
どうやら味見をして欲しいみたいだ。エリーさんは息を止めて見ている。
ジャムモドキが塗られたパンを食べてみると、甘味はあるイチゴの香りもするがエグ味が大きく口に残り後味が悪すぎる。
アタシが首を横に振ると残念そうに首をうなだれた。
これだけ甘味が強く出れば、この世界では甘くて美味しい部類に入ると思うが、どう考えても素人料理の味である商売にするには雑味が多すぎる。
でもあのレシピだけで、ここまで出来たのだから、料理が得意と言うのは嘘ではなさそうだ。
朝食をすべて食べてから、エリーさんと厨房に入るとマリアンヌさんが甜菜を刻んでいた。
刻まれた甜菜は煮物にするようなサイズだ。大きすぎる。レシピに書いていないアタシが悪いのだけど。甜菜を食べる訳ではないのだから、それくらいは読み取って欲しいと思うのは傲慢かしら。
マリアンヌさんに更に刻むように指示をして、エリーさんには湯を沸かすよう指示もした。
鑑定を使った温度調整はアタシにしか出来ないので、沸騰した鍋を下ろしてから数字を数えさせた。
八十度程になった時に細かく刻んだ甜菜を投入、その後断熱材代わりに何重にも布を巻き蓋をする。
二十分程だから百までを十二回数えさせる。
それはマリアンヌさんに任せて、エリーさんは宿泊客に朝御飯を出すため食堂に向かった。
二十分程度でエリーさんが戻れる訳もなく、マリアンヌさんが何時もやっているように甜菜を取り出して貰ったところを見ると甜菜のカスが少し残っている。
話しを聞けば、そのまま煮詰めてシロップを作っているとのこと。これがエグ味の原因であると指摘して全部取ることを指示したが、取り除くすべがないとのこと。
煮込みで浮いた灰汁ならおたまですくい取れるのだけどと言っている。
アタシの包帯を使わせる訳にはいかないので、ハンカチを水で濡らした物でこす事を教える。
ハンカチを鍋底に沈めてその場にあった木切れを削って作った箸でカスを包み込みつまみ上げて、鍋の上で軽く捻って絞る。
絞りすぎるとエグ味まで搾れてしまうから注意だと伝えた。
その後とろとろになるまで煮詰める。出来たシロップを少し残して湯煎していた瓶に流し込み、残りはジャムモドキにするためにイチゴとレモンの搾り汁を入れて煮詰められる。
この辺りの作業は何も問題なく。
アタシは見ているだけだ。
ジャムモドキが出来上がり井戸水で冷やしていたらエリーさんが戻ってきた。
冷えるまで待つ間に、レシピの確認を二人でしていた。
オレンジで作るのも美味しいよと他の果物でも作れると示唆しておく。
アレンジレシピで色んな美味しい物が出来ることを望んだからである。
その後、冷えたジャムモドキをパンに塗り、試食する。
ほとんどエグ味が無いことに驚き、美味しさにうっとりとする二人を見て、安心して厨房を離れた。
商売の方法にまで口を挟む気は元からない。
中途半端だけど、創意工夫の余地はたくさんあるし、この世界オリジナルの物が出来ることを願っている。
厨房を離れ、宿から商人ギルドに向かった。
担当のピエールさんを呼ぶ時に少しざわめいていたようだが気にしない。こんな子供に付く担当が、ベテランであったとしても担当者は担当者。
しばらく待つことになったが応接室で珈琲をゆっくり堪能することができた。
ノックのあと「お待たせしてしまい申し訳ありません」とピエールさんが入室してきた。
冒険者ギルドからすでに入金されていたらしく「いやぁ参りました」と。
それは当然のボヤキであろう。冒険者の分は副業扱いだから金貨六十枚の十パーセント、日本円で六百万円を得ることが出来なかったのだから。
アタシは、その事に関して商人ギルドにも依頼を出した。理由を伝えるとピエールさんは大きく頷き「誰もが得をする良い依頼だ」と全面的に協力することを約束してくれた。
その時に魔石の話しを聞いてみた。アタシの持ち込んだ魔石はどうなるのか知りたいという雰囲気からの流れだから気がついていないと思う。
冒険者ギルド支店に集められた魔石は直接本店のあるセントラル王国に行き、そこで研究に使われたり魔道具に加工される。商人ギルドでも魔石の買取り自体は行っているが、ギルド貢献ポイントやランクアップには還元されないので、冒険者はあまり売りに来ないそうだ。
魔道具の買取りは魔道具屋に持ち込むことが基本であった。
何故なら使用限界が分かる測定装置があるらしい。
商人ギルドにもあるが、対応できる職員がその時にいるか分からないらしい。
どうやら扱いの難しい魔道具のようだ。
昔の遺跡とかから稀に発掘されることもあるらしい。
そんな効用が分からない魔道具があったら使わずに持ち込んで欲しいと。
商人ギルドにも専門に扱っている部署があり、既存外の魔道具が発見されたら発見者にはそれ相応の礼が支払われると言うことだった。
更に研究開発も盛んに推奨されているらしい。
あれ?セントラル王国だけでないのかと聞いたら、それは何十年か前の話しで、今でも一番進んでいるのはセントラル王国だが、セントラル王国で勉強した魔術師が各地に散らばり商人ギルドに加入して魔道具の販売をしていると言う。
ギルドの専門機関もそのような人を招き入れて開発研究を進めていると言う。
どうやらアタシの読んでいた本は書かれたのが昔の本だったらしい。
回りくどく聞いていたのは、新しい魔道具の存在によって商人ギルドが、どんな反応をするのか分からなかったからだ。
最悪、情報を渡したら殺されるのではないかとも考えていた。
でも新種の魔道具に対する対応が商人ギルドである程度マニュアル化しているのなら問題ない。
こうなればもののついでだと、アタシは開き直って聞くことにした。




