見えてはいけない刻印
「アマノ様、おめでとうございます。Dランクで登録されました。」
鱗肌の受付女性が律に目を合わせ、にこやかに銅板の付いたネックレスを渡してきた。
先ほどとは打って変わって友好的だ。
【Rango D】
Amano Ricu
(なぜか読めるけど…アルファベット…?ちょっと違うか…)
「そちらは依頼受注の際に、毎回ご提示ください。」
「はい。わかりました。」
とりあえず首からかけておいた。
「あの。ぼく、それ、無くしちゃったんだけど、どうしたらいいですか?」
カナデがおずおずと女性に尋ねた。
「それでは、再発行で銀貨一枚支払うか、新規登録となりますね。とちらになさいますか?」
「銀貨…」
カナデが呆然と呟く。
「どちらでもいいよ。銀貨、出そうか?」
律は不安げなカナデの頭を撫でた。
「…おねえちゃん、ごめんね。お金…いいかな?」
「もちろん」
聞けば、実績で報酬が少し変わるらしい。
カナデは3年かけてDランク。採取物の買取額が1.2倍になっているとのこと。
「それでは、カナデ様のプレートです。今度は無くさないようお気をつけください。」
「うん!気をつける!」
そう言ってカナデがプレートを受け取る直前——
【A-19 ANKOR】
(……アンカー?なんで、そんな単語が……)
カナデの手に触れたそれは、ただの刻印に戻っていた。
【Rango D】
Kanade
「へへ。おそろいだね、おねえちゃん。」
「…あ、うん。そうだね。」
「がんばろうね!」
「うん。」
(見間違い…?)
「おねえちゃん!早く依頼を受けてみようよ!」
「…そうだね。」
カナデは律を引っ張って、掲示板に連れて行く。
アンカーとは、どんな意味だったのか。
とりあえず後で考えようと、律は思考を放棄した。
*****
昼近くというのもあり、掲示板前は比較的空いていた。
良い依頼は早い者勝ちなので、午前中で無くなることが多いらしい。
面倒な依頼が残る午後は、主に子ども達が仕事を探すのだそう。
(うわ。掲示板がめちゃくちゃ…)
木板に紙が乱雑に釘打ちで貼られている。
依頼の書き方は依頼人によって違い、フォーマットは統一されていない。
受注ランク、依頼内容、報酬額の記載はあるが、とても見辛い。
そして、高いところに貼られた依頼は子ども達には届かなそうだ。
低い場所の依頼をうんうん唸りながら吟味する子ども達を見て、律は受付の方を見る。
(死角だし…ちょっとだけ直してもいいよね?)
縦をランク別、横を依頼の種類に見立て、ざっくり分類していく。
必然的に、下の方にランクの低い依頼が貼られるので、子ども達が依頼の紙をどんどん剥がしていく。
「あっ!掃除の依頼ある!よかったー!」
「わ!これ、随分前のだけど、まだ受けられるかな?」
「うーん、今日は買い物依頼ないな…残念。」
「ありがとう!!オネーサン!!」
「見やすくなった!ありがとー!」
集まっていた子ども達が依頼を見つけて受付に流れていく。
「ガハハ!お前、そんなことまでできんのか!」
それを見ていたのか、ドーガが背後から現れて律の肩を嬉しそうに叩いた。
「…並べ替えただけですよ」
「いやいや、俺達には思いつかんかったんだ。すげぇよホント。」
(……嘘だ。こんな簡単なこと、誰もやらないわけがない…)
「……お役に立てたようで…よかった…です」
もう律は、賞賛を素直に受け取れなくなっていた。




