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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
序章:氷売りの令嬢

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北の魔女の甘い呪い。──ナニワの令嬢、アイスクリーム頭痛をハッタリに使う

「……ほら、お座り。ハー……やれやれ、騒がしいホールにいたせいで、耳の奥まで脂っこいゼニの匂いがこびり付いとる気がするわ」


 私はフロストの太い腕を引っ張って、誰もいない食堂の厨房へと連れ込んだ。

 戦場から帰ったばかりの英雄公爵は、大人しく私に従いながら、疑いの欠片すらない目でこっちを見てくる。


 ……ちょっと距離感おかしいけど、一々言ってたらキリがないから無視や。


「サーシャ、さっきの『見せたいもの』というの一体……? もしや新作の拷問器具とかか⁉」



「あぁそそ、ここで捕虜を痛めつけてそのまま料理鍋にポーン……って、なワケあるかァッ!! 厨房で何する気やおどれ⁉ 猟奇的過ぎるやろ!」


 私の婚約者様は私のことをレクター博士やと勘違いしとる節がある。

 ほんま……王都から流れてきとる変な噂に影響受けすぎやで。


「ふーん……じゃあ何するんだ?」


「厨房に来たんやから料理に決まっとるやろ。デザート作ってん」


 うちのミヤハがな。


「デザート? サルミアッキでも作ったのか?」


 俺は好きだぞ、とポケットから小さなサルミアッキを取り出して口に放り込むフロスト。

 たぶん婚約者のためにサルミアッキをわざわざリコリスから作るような人は、アンタのこと嫌いやと思うで。


「いるか?」


「……いらん」


 ………なんなら、今ちょっと食べさせようとしてくるアンタのことさえ嫌いになりそうやもん。

 別に個人で消費してくれる分には私もなんも言わんけど。

 食わせようとしてくるのはナンセンスや。


「ていうか私がそんな悪魔に見えるんかおどれは……。作ったんは普通に甘いお菓子や」


 そういえばこいつは私が料理を作ったら、どんな悲劇を起こすんか知らんかったな。


 ……一回めちゃマズな料理を作って反応をみるのもおもろそうではあるけど……。


 ───いやいや、今はそれよりもアイスクリームや。


 フロストは暇でも、ホールの人間は暇やないからな。

 毒見を公爵(フロスト)にさせたらホールの人間にも食べさせなあかんのや。


「……ほら、これや」


 私は、雪室でキンキンに冷やしておいたミヤハ特製のアイスクリームを、フロストの前にドンと置いた。


「冷凍の白子か? ……油で揚げると美味いよな」


「白子の天ぷらな。アンタ通やな~……って、ちゃうわ! アイスクリーム!」


「アイスクリーム? シャーベットみたいだな」


 この国には既に氷を削ったシャーベットの方は、上流階級で流行っとる。

 フロストが口にしたことがあってもおかしくはない。


 けど、この舌触りとミルキーな濃厚さは、シャーベッドでは絶対味わえん。

 アイスクリームならではのものや。おったまげるに違いない。


「いいや、これは『アイスクリーム』や。私の故郷……じゃなかった、私の秘蔵のレシピで作ったお菓子や。毒味させてやるから、ありがたく食え」


「……おぉ、なんだか凄い自信だな。……それにしても、よもやこの俺が毒見をする日がこようとは……」


「まあ、普段は毒見される側やもんな」


 私はギリギリ大丈夫かもしれんけど、フロストは銀食器が手放せへんやろうな。

 あらゆる国とか地域を対象に『蛮族』って標的にしては、戦争しかけとるような男やから。

 こうやってデザート一つ受け取ってくれるのも、彼が私を信用してくれとる証やった。


「───おぉ、真っ白だ。楽しみだな……!」


 私は無言で銀スプーンを彼の口に突っ込んだ。


「ん……、んん!? ――ッ!!」


 一口食べた瞬間、フロストが彫刻のような顔を劇的に歪ませた。


 目を見開き、スプーンを咥えたまま固まっとる。

 おまえリアクション芸人か。

 餌の作り甲斐があるやっちゃな……。


「……どしたんや。不味いか?」


「………………美味い。……美味すぎる。なんだこれは……口の中で旨味が爆発したぞ! サーシャ、君は料理の天才だ!」


 あまりの感動に、フロストが椅子を鳴らして立ち上がった。


 これを作ったミヤハが聞いたらきっと喜ぶやろうけど、今ミヤハはシュガーライクをストーキングしとるからおらんかった。


 代わりにアイデア担当である私がその称賛を素直に受け入れてやって、彼を椅子に座らせる。


「まあまあまあ、ちょっと多く掬い過ぎたからゆっくり咀嚼して……って、もうアンタ全部食べたんか⁉」


「……え? ああ。あ……? あれ……?あ、あいたたた……。あれ? なんだこれ。サーシャ、急に頭が痛くなってきたぞ! 俺の食べたことのない種類の毒か……いや、呪いか!?」


 一変して、フロストがこめかみを押さえて苦しみ出した。


 ……あぁ、知覚過敏からのアイスクリーム頭痛やな。


 大の大人が、頭を抱えて大型犬みたいに「くぅ〜ん」って唸っとる。


「温かいもの飲んだらすぐ直るわ。……そんでネタバラシやけど、急に冷たいモノ食べるとそうなるんや。不思議やろ……って、聞いてへんな」


 私の説明を聴く気はないようで、フロストはすぐさま近くにおったメイドにホットウイスキーを頼んどった。


「ゴクッ……ふぅー……やるなサーシャ! というか、これお酒かけても美味いんじゃないか」


 フロストはそういって、手に持ったホットウイスキーのボトルをアイスクリームの入った器にぶっかけよった。


「お、オイこら!」


「ウマー」


 幸せそうな顔をしとるけど、サルミアッキを美味そうに食べてるやつの味覚は信用ならん。

 

 それに何より行儀が悪い。


「なんちゅう食べ方しとんねん……アイスと酒なんか合うんか?」


「意外に合う! マリアージュってヤツだ!」


 それに頭も痛くならない! と当たり前の事を言ってくる。


 私も酒は嗜む程度に呑むけども、フロストみたいな蟒蛇(うわばみ)やない。


 せやからあんまりお酒に詳しいわけやないけど、フロストが言うようにアイスと相性がええなら、酒飲みの意見も大事にせんとアカンやろうな。この領地の人も殆ど酒飲みで、私の周りもほぼ全員酒豪やし。


ミヤハもシュガーライクもお酒は水のように飲み干してまうから、アンケート調査するのもいいかもしれん。



 まあでもそんな酒飲みたちの代表みたいな男が美味しいって言うなら、万人受けすること間違いなしやろう。


 ホールの皆さまにはこのバニラ味の試作品を実食してもらうことにした。


「……よし、自信ついたわ」


「また何かするのか? ……イタタッ……なんかまだ痛いな」


「まあな。アンタのその『キーン』となってる間抜けな顔、商売に活用させてもらうわ。ええか、フロスト。今からホールに戻るで。……アンタは私の隣で、適当に苦しんでおけばええからな」


「サディスティックだな⁉ ……だが、嫌いじゃない」


「お黙りなさい。商売人はな、使えるもんは苦悶の表情でも何でも使うんや!さあ、『北の魔女』の御出陣やで! 準備しなさい、フロスト!」


「君はたまに俺が公爵なんだと忘れていそうで困る」


「忘れてへんわ。敬語で話して欲しいならそうしますよ。閣下」


 ブルブルブルと焦った顔で、拒否するフロストを見てクスリと笑い、私は食堂のおばちゃんたちにアイスクリームを人数分用意してもらうように頼んだ。





 ◇






「おっ! バイカル子爵令嬢だ! 今度はどんな話でホールを冷やすんだ~?」


「「「ハハハハハッ」」」」「「「ホホホホッ」」」


 会場は私がホールに再び現れたことによって、変な盛り上がりを見せとった。

 全員顔見知った中やけど、この弄りは若干私の精神をエグってくる。

 こいつらの顔……今から絶対ビックリさせたるわ。


「皆様、ご静粛に。……これから、皆様には『禁断の甘露』で冷たくして差し上げようと思います。冷たいものが苦手な方は暖かいモノと一緒にお食べ下さいまし! それでは登場ですわ!」


 私は邸のホールに設えられた演台に立ち、手にした扇子をバサァッ! と広げた。


 プラチナブロンドの髪を光らせ、冷徹な美貌で会場を威圧する。今の私は、王都で囁かれている噂通り「人を呪うのが趣味の冷酷な悪役令嬢」そのものや。


(……くぅ〜! 決まったな!これであってるか分からんけど、イメージ通りちゃう?)


 広間に集まった貴族や商人たちの前に、ミヤハたちが銀の器に乗った白い塊――アイスクリームを配っていく。


「サーシャ様、これは一体……?」


「……ただの氷菓子ではございませんわ。これは、私の魔力を練り込んだ特別な一品。名付けて……『ミーミルアイスクリーム』ですわ!」


 適当な名前をつけたら、会場が「あ、あの聖なる湖の名を……!?」と、予想以上にザワつきよった。


しめしめ、食いつきおったわ。名前なんて看板やからな。ミーミルの名前さえ出しとけば、原価以上のハクがつく。地元のブランド力、知名度アップのために有効活用させてもらいましょか。


「ホホホッ……上品な乳白色だこと、美しいわね。素材がよろしいのかしら」


「スプーンを通した時のこの触感。バターのような滑らかさだな」


 貴族は色味や造形美、それと産地を褒めたたえ、商人達は売り出す宣伝文句を考えながら、自らの体験を言語化して行く。


 様々な角度の視点からアイスクリームは評価されとるようやった。これだけでも私にとっては大きな収穫や。


 せやけど私の宣伝はまだ終わっとらん。


「ただし、ご注意を。このお菓子、『一度に食べ過ぎると脳を締め付ける小さな呪い』をかけておきました。ゆっくり、お上品に味わえば至福の時を過ごせますけど……。がっついた愚か者には、等しく裁きが下りますわ。おほほほほ!」


 ……アホらしいホラ話やけど。

 事情を知らん相手には、どんな嘘だろうとまかり通る。

 何人かカラクリを知っとる様子でクスクス笑っとるけど、それは知ってる人達だけの秘密や。


 この人達の新鮮な体験を奪うのは罪やからな。


 そして哀れにもそんな私の忠告を鼻で笑ったのは、王都との繋がりが深いことで有名な肥満体の男、ポテロン伯爵やった。


「ふん、呪いだと? 脅しおって。こんな美味そうなもんを沢山食べられるのが困るだけだろう。ムガガガガッ」


 なんちゅう強欲な男や。伯爵は大きなスプーンでアイスを掬うと、駆け込むように口いっぱいに頬張りよった。私とフロストはそれを引き()った顔で見てまう。


 ……だってどうなるかすぐに分かるんやもん。



 一秒後。



「……あ、あ、あああああああ!? 頭が! 頭が割れるぅぅぅぅ!!」


 伯爵が器を投げ出し、頭を抱えてのたうち回り始めた。


 会場に悲鳴が上がる。

 その内の数名は面白半分で、会場の不安を意図的に盛り上げようとする天然の演出家の方々による細工やった。どんな場所でも不安を煽るのが好きな人間は一定数いるようで。


「呪いだ! 本当に呪いだ!」


「バイカル家の令嬢は、本当に魔女だったんだ……!」


 など、不安に駆られる人に紛れてそんな事を言って、会場を恐怖のどん底に突き落として楽しんどる人間を数人確認した。


 そう言う人たちが一役買ってくれたおかげで、アイスクリーム症候群を知らん貴族や商人なんかはパニック映画のワンシーンみたいになって慌てとった。


 私も私で、悪い笑みを絶やさん。せっかくみんなが悪乗りに付き合ってくれてるのに、私が投げる事なんて許されへんからな。


 にしてもポテロン伯爵? 娘さんとは仲ええんやけど、あのオッサンも中々にいいリアクションするわ……サクラで雇ったりできへんかな? 


 ───っと、……アカンアカン、悪者の顔をちゃんとせんと宣伝にならんやないか。

 私は伯爵の痛みが引くタイミング(約10秒後)を見計らって、指をパチンと鳴らした。


「───お止まりなさい」


 すると伯爵の顔からフッと苦悶の色が消え、ポカーンとした表情に変わった。


「……あ、あれ? 痛くない。さっきの激痛が、嘘みたいに……」


 完璧や。私のことやない。


 ポテロン伯爵がした天然のリアクションが神やっちゅー話。


 娘の付き添いでたまたま来たみたいやけど、この人はまた実食会に呼ぼ……絶対に面倒ごと起こしてくれそうやもん。


 そこそこ地位もあるし、ええ宣伝塔になってくれる気がする!


「わかったかしら? 焦りは禁物。……私のルールに従う者にのみ、この『甘美な天国』を許しますわ」


 私は扇子で口元を隠し、冷え切ったサファイアの瞳で商人たちを見渡した。


 するとさっきまでの疑いの目はどこへやら、商人たちは「魔女の力、恐るべし!」

 と震え上がり、同時に「こんな魔法のような商品を独占できれば……」と、その目はドルマーク……やなくて金貨マークに変わりつつあった。


 ……これはもう完全に釣れたとみてええやろう。商人共の目が、恐怖半分、強欲半分に染まっとるわ。


 つま、り!……アイスクリーム実食会、大・成・功や~!!



 あとは個別で契約を結んで、流通経路の確保さえしとけば、蛇口をひねるように金が流れ込んでくる。

 商人たちが必死に売れば売るほど、私にチャリンチャリンとマージンが入る仕組みの完成や。


 しかもアイスクリームは冷凍しとけば賞味期限は実質無限!


  在庫リスクはほぼゼロ! 作り置きもし放題や! どんなホワイトビジネスやねん、最高かよ。


 ウヘへ……笑いが止まらんわ。これからじゃんじゃん銭の雨が降ってくるぞぉ~!







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