北の魔女の甘い呪い。──ナニワの令嬢、アイスクリーム頭痛をハッタリに使う
※5/26日修正
「……ほら、お座り。戦場帰りの熱い体なら、最高の『被検体』やからな」
私はフロストの太い腕を引っ張り、誰もいない厨房へと連れ込んだ。 背後でミヤハが「主人の扱いが雑過ぎませんか」と呆れとるが、今は無視や。ビジネスにおいて、最高のアセット(フロスト)を検証に使わん手はない。
「サーシャ、この白い塊は……粘土か?」
「アホ。そんなもん、厨房に持ち込むかい。これはな、北国の氷を『宝石』に変えるための第一弾――『ミーミル・アイスクリーム』や」
私は、雪室で熟成させておいたミヤハ特製のアイスを彼の前にドンと置いた。 この世界にあるシャーベットとは違う、乳脂肪分と空気の含有量を極限まで計算した、滑らかさの暴力。
「……毒見は私がしてやる。ありがたく食え」
「あぁ、君が作ったものなら気にしないよ」
(スマンがそれはミヤハの作ったもんや。……私が作ったら『ジャリジャリの泥』になるし)
そんな内心の自虐を隠し、私は銀のスプーンを彼の口に突っ込んだ。
「ん……、んん!? ――ッ!!」
一口食べた瞬間、フロストが彫刻のような顔を劇的に歪め、スプーンを咥えたまま固まった。
「……どした。不味いか?」
「………………美味い。なんだこれは、口の中で甘みが爆発したぞ! サーシャ、君は奇跡の……っ、あいたたたたた!!」
一転して、フロストがこめかみを押さえて悶絶し始めた。 大型犬が「くぅ〜ん」と唸るような情けない声。
「……あぁ、知覚過敏からの『アイスクリーム頭痛』やな」
私は冷徹にその反応を観察した。 急激な冷却による三叉神経の混乱。……これや。この「衝撃」こそが、情報の乏しい連中に『魔法』や『呪い』を信じ込ませるための、最高のスパイスになる。
「フロスト、その『キーン』となってる間抜けな顔、そのままキープや。……今からホールに戻って、商売の『毒薬』を撒き散らしてくるで!」
◇
「皆様、ご静粛に。……これから皆様には、私の魔力を練り込んだ『禁断の甘露』を差し上げようと思います」
私は邸のホールの演台に立ち、扇子をバサァッ! と広げた。 プラチナブロンドの髪を光らせ、冷徹な「悪役令嬢」の表情を作る。
(……くぅ〜! 決まったな! 演技料も見積もりに乗せたいくらいやわ)
戸惑う貴族や商人たちの前に、ミヤハたちが銀の器に乗った白い塊を配っていく。
「これは『ミーミル・アイスクリーム』。……ただし、ご注意を。これには『一度に食べ過ぎると脳を締め付ける小さな呪い』をかけておきました。ゆっくり、お上品に味わえば至福。……がっついた愚か者には、等しく裁きが下りますわ」
「ふん、呪いだと? 脅しおって。ムガガガガッ!」
案の定、最初に釣られたのは、王都との繋がりが深い肥満体のポテロン伯爵やった。 彼が山盛りのアイスを口に放り込んだ、三秒後。
「……あ、あ、あああああああ!? 頭が! 頭が割れるぅぅぅぅ!!」
伯爵が器を投げ出し、のたうち回り始めた。 会場に悲鳴が上がる。事情を知らん連中にとって、この「物理的な衝撃」は、私のハッタリを『真実』に変えるのに十分すぎた。
「呪いだ! 本当に魔女の呪いだ……!」
「……わかったかしら? 私のルールに従う者にのみ、この『甘美な天国』を許しますわ」
私は扇子で口元を隠し、サファイアの瞳で商人たちを見渡した。 彼らの目は今や「恐怖」と、それを上回る「強欲」に染まっとる。
(よし、入れ食いやな。……アイスクリームは、冷凍すれば賞味期限は実質無限。在庫リスクはゼロ。作り置きし放題。……どんなホワイトビジネスやねん、最高かよ)
脳内そろばんが、未来のキャッシュフローを弾き出して止まらん。 これからじゃんじゃん銭の雨を降らせて、この国ごと買い叩いてやるわ!
高評価・ブックマークが執筆の燃料になります。
ブックマークして、次のお話も読んで下さい(強欲)!
それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




