番外編 ナニワの皇后は皇帝とデートをするそうです。part1
今日はとーっても珍しく、私もフロストもフリーな一日。
次を逃すと次に同じ日に休みを取れるのが半年後ということが分かると、早速私たちはデートを決行することにした。
そして同日、ミズガルズ王国はなんと建国記念日。国中で大規模なお祭りが開かれる一年で騒がしい一日に、私たち二人は部屋でスライムみたいに溶けていた。
「なぁ、これ絶対にさぁ……」
「そう言うことだろうね」
私はフロストとベッドでゴロゴロしながらカレンダーを見る。この休みの重なりと、お祭り開催日は偶然ではないことは百も承知。臣下たちの計らいは明らかに思えた。
「外行く? 行ってそれっぽいことしてまう?」
フロストとデート的なものを全然していなかったので、『ちょっとぐらいは思い出作りをしておいた方がよろしいかと』、というミヤハの諫言を思い出して、誘ってみる。二人とも久しぶりの休みやし、部屋でゴロゴロするのも良かった。
けど……たぶん私より疲れてるはずのフロストは、
「行こうか。せっかくお互い休みだし」
なんて、体に鞭打って快諾してきた。絶対寝てたいやろうに、こいつの精神力はどうなっているのやら。
「あそうだ……どうせだったら、ちょっと趣向を凝らしてお忍びで行ってみようか?」
あれ?……コイツもしかして、意外に元気だったりする?
皇帝の公務でバリバリ十四時間以上働いてるから、結構負担ヤバいと思うんやけど。体力無限か?
「いや、アンタは変装しても百パーセントバレるって。いくら何でもデカすぎるわ。護衛に隠密部隊使うのはどう? そしたら安全面も確保できて、息抜きできそうじゃない?」
「ああ、いいね。何人か引っ張ってこよう」
てことで、私たちは初めてのお祭りデートへ、支度をして出陣する運びとなった。
◇
王都行きの蒸気機関車に乗り込むと、車内はヨトゥンヘイムから王都へお祭りに行く人で、二等客席から三等客席まですし詰め状態になっていた。一等客室も子連れの貴族が大勢乗り込んでおり、人の熱気が大変凄まじい。
「マジ一等客室でよかったわ……。アレに巻き込まれるのは勘弁やで……」
座席からはみ出て、通路までぎっしり立っている乗客たちを、私は一等客室の四人席から見て絶句する。ゾンビみたいにこっちの車両にも溢れてきそうな人の、潰されて引き延ばされている絵面は、向かうお祭りの熱狂を暗示しているかのよう。
そこまでしてお祭りが楽しみか、と冷笑気味に彼らを見ながらも、自分もそのお祭りに向かっているため、小馬鹿にはできんかった。
「サーシャは何か頼む?」
厚手の高級紙に縁が金箔化工されたメニュー表と、フロストはにらめっこしながら訊いてくる。私たちの座ってる机にはすでに事前にヨトゥンヘイム駅のホームで頼んでおいた紅茶とかが、バスケットで届いているし、一体何を頼む気かと思って覗いてみたら───
「アンタ、これから歩くのに酒はないやろ」
フロストが頼もうとしてたのは、ウォッカのボトルやった。
「チョッとだけ……。ウォッカ一瓶だけ。……ね?」
たぶんそれだけ飲んでも、全く酔うことはないんやろうけど。さすがに、汽車の中やし悪酔いせんとも限らん。
「ビールにしとき? ウォッカは流石に度数高すぎるわ。これから王都に行ったらまた、ちょっと暑くなるし。涼しいのは今だけやから」
「ビールか……ふむ……」
目立たないように彼はビールを口にしながら外の景色を見るフロスト。目立たないつもりかも知れんけど、凄い周りの視線が刺さっていた。
というのも、お祭りを楽しむために、私たちは現在一般的な王国民の服装を着ている。そんなのが一番いい席に座って、ビールをラッパ飲みしているのだから、異質という他ないやろう。
しかしそれから二十分ぐらいすると、噂が回ったのか、一等客室の貴族や商人たちはこちらにやってきては無言で一礼し、自分の席に戻っていくという謎の儀式を始めた。
声をかけてこうへんのは礼儀というか……私たちがお忍びって分かったんか、放っておいてくれた。無言の一礼は、彼らの最低限の譲歩やったんやろう。ホンマやったら皇帝に、是が非でも顔売りたいって奴らがいっぱいいるはずやからな。
「やっぱバレてるわ。アンタデカすぎ」
「でもみんな黙ってるじゃないか。偉いよね」
そうやって二人でクスクス笑っていると、通路の後ろから、汽車の中を冒険しに来たんか、ちびっ子たちが五人、バタバタと走ってやってきた。
どっかの貴族の子供やろう。身なりのいい服着てるキレイなブロンド髪の子供達や。きっと礼儀作法もしっかりした未来ある優秀な子供達やろうと思って微笑んでいると、子供達と目が合った。
「おっぱいながーい!」
と、こっちを指して子供の一人が行ってきた。
「ブッ……」
あまりに下劣な発言だったので、私は吹き出しそうになったけど、真正面に座ってる人が怖かったので、笑ってる口元を扇で隠すことにした。
その代わりに目線でこいつらに、隣を見ろと視線誘導をすると、ガキたちはものの見事に、フロストを見て体を硬直させることとなった。
「こんにちは。冒険中だったかな」
私の向かい側に座っていたフロストと子供達の目が合った瞬間、彼らは一瞬言葉を失った様子で、手に持っていたアイスを床に落とす。明らかに子供達がフロストを見る目は、私を見る目とは違った。
「でっか……」
子供の一人がそう漏らし、狭い通路を一歩後ろに下がる。他のガキも身を引き始めながら、フロストから視線を外さないようにジリジリと後退し始めた。
彼らも北国の子やから、森でヘラジカとか熊に遭った時の対処法を親から教えてもらってるんやろう。とにかくデカい動物がいたら、こうしなさいってマニュアル通りの動きが身に沁みているようやった。
「ブフッ……」
堪えきれなくなり、私が噴き出すと、一瞬子供達の視線が私の方に向いたけど、すぐに首を振って、自分たちの命を優先する。私の胸を見るより、フロストから自分達の安全を買う方に注力したようやった。
「大丈夫。なにもしないよ」
大きなフロストの手が、子供たちの頭上へ伸びた瞬間。
「ウゥゥゥ、ガウ゛!ガウ゛ッ!ガウ゛ッ!」
貴族の子供たちは大きな獣のような怒声でフロストを威嚇し、ゆっくりと足取りで後ろへ引き下がりながら、フロストと目を合わせたまま一等客室の後ろの方へ逃げて行った。
「クククッ……あの子ら、最後まで走って逃げへんかったで。アンタのこと熊かなんかと思ってるんちゃう? 逃げ方まで完璧やったやん」
通路をみると、さっきの子供たちがまだこっちを警戒して見てるのに気づいた。アレはたぶんもうこっちには来てくれへんやろう。子供ながらに険しい顔をしとった。
「子供はどうにも苦手だ……どうやっても怖がられてしまう」
トホホ……と、悲しげに溜息をつく皇帝。けれども仕方のないことやと思う。
だって、笑顔のまんま人を圧倒できそうなデカい手の男が迫ってきたら誰だってビビるやろ。私はビビる。
「ふふっ。でも、おかげでおもろい思い出が一個できたわ」
「子供に逃げられたのが面白い思い出?」
ちょっと拗ねたように、フロストは二本目のビールに手を出す。それを見て、また一つ私は思い出のシャッターを切った。
「子供にやきもち焼いてる大人げない誰かさんの顔。怖かったわぁ~」
「やきもち? ……してないよ? 全然」
「別にフロストの事とは言ってへんで」
「怠いなぁ……」
そういうとフロストは、ちょっとムスッとして汽車の景色に目をやった。
怒らせたかなーと思って彼の顔をジーっと見る。そうしたら魔法にかかったみたいに、彼の機嫌は直った。
「ズルいよ、サーシャは」
「えへへ。もうちょっと怒っててもええんやで。私、見てるから」
「まったく、馬鹿馬鹿しい……」
苦笑してフロストは向かいの席に座る私の頭を今度は撫でようとしたから、私は笑顔でその手を払いのけた。
「オイこらっ、これからお祭り歩くのに髪が乱れるやろがい。ヤメろ」
「えー……」
「撫でるなら帰りにせい」
そうこう話をしていたら、あっという間に機関車は王都の駅について、私たちは雑踏の中に放り込まれた。
「サーシャ、こっちきて」
手を引かれながら、駅のホームを何とか抜け出して道に出ると、さり気なくフロストが私の手を握っていることに気づく。……コイツ手慣れてやがるな。なんて感想を抱きながら、彼の作戦に乗ってやることにした。お祭りデートの開始である。
1話でデート回も終わらせるつもりだったんですが、これ……あと2話追加します。
それが終わったら結婚回やって、この小説は終わりです。
果たして宣言通り終われるのか……。
とりあえず書き終わるまで、責任もってやらせていただきます。
がんばるゾー (-ω-)/オォー




