予算は最小、見栄えは最大! 雪像コンテストと内職フラワーで迎える凱旋パレード【準備編】
「勝ったで! 完勝や!」
食堂で伝令が持ってきた朗報を聞いた瞬間、私の脳内レジが「チーン!」と景気良く鳴り響いた。
フロスト卿が北東勢力を完膚なきまでに叩き潰しての帰還を遂に宣言しよった。
「うぉおおおおおおお!」
食堂にいる全ての職員が両手を上げて歓喜に打ち震えた。
私も最高の気分や。
これで負担になっとった戦争は終結して、内政に使える金がさらに爆増する!
それにそれに、これでマーケットは拡大できるし、新規顧客と労働力に加えて、賠償金も金以外の食料や衣類などで解決させたという知らせを受け取った!
しかもしかも、北東には私が欲しくてたまらんかった不凍港もあるという情報も耳にしとる!
うちの領地は北の海に面しとるけど、全部流氷に囲まれてて冬は船が出せんかったんや。それが、今回の戦いに勝ったから私たちの物流は海を越えられることになった!
これはデカすぎる!
つまり365日24時間、手数料を取り放題や! 神様仏様フロスト様、アンタは最高の重機やで!
さらにさらに! 私達は貿易という外交カードを手に入れただけやなくて、ありえんぐらいの利益を未来永劫生み出すことができるランドパワーを手に入れたんや! 沿岸部は経済が成長しやすい特性を持っとる。
凍らなくて、寒くて邸からずっと遠い場所で、尚且つ船で海外から材料を取り寄せることもできる。あまりにも理想の工業地帯をフロストが手に入れてきよったから、私も流石にドン引きした。
しかもヤバいのが、将来的には列車だけやなくて、船で氷を運ぶことも全然できるってことや。私たちの氷を世界に輸出できるようになったら、その富は百パーセント王家を越える。
パワーバランスが崩れた瞬間、他の貴族が伸び盛りの私たちと収奪ばかりする王家、どちらに付くかは見物やな。
「かね、かね、カネや……湯水のようなカネが私の懐に……ケケケッ……笑いが止まらんわ……」
「お嬢様、顔が完全に『悪徳商人のそれ』になってます。一応、婚約者の無事を喜ぶフリくらいしてください」
ミヤハの冷たいツッコミを右から左へ受け流し、私はペンを走らせる。
「あーはいはい、フロスト様マジ神一生お慕い申し上げますマジ大好き。それよりミヤハ、凱旋パレードの準備や。予算は最小、見栄えは最大。私流のヨトゥンヘイムでしかできない『おもてなし』を世界に見せつけたるで!」
「ちゃんと心配しないと、せっかく新しい婚約者を見つけたのにまた───」
クワッ! と目と目の間に力を入れて睨み、ミヤハの言葉を遮る私。
「……おい、その先を言ったら私たち絶交やで」
アンタは自分の恋がええ感じやからって調子乗り過ぎや、と釘を刺す。
アンタとシュガーライクを引き合わせたのは誰やと思ってんねん。
……少しは恋愛がクソ雑魚な主人を労わらんかい。
「一つ訊いてもよろしいですか? 本当にフロスト様を好きでいらっしゃいますよね?」
不思議なことを聞くもので、私は当然のように答えた。
「好きやで。それはマジや」
女の体としては、あの甘い顔で迫られるだけですぐに頭がチカチカする。
せやけど、15歳で死んだ『俺』の意識からすれば、フロストは「最高にカッケー兄貴」なんや。
あんなデカい鉄塊振り回して、領地を守って帰ってくる。そんなん、男やったら誰でも憧れるやろ?
なので、今の私の心境は「乙女心60%、アニキへの憧れ40%」の付近で変動しとる。
下着姿を見られるとかは全然大丈夫やけど、……キスとか、その先の「夜の内政」はまだ勘弁や。
こっちからからかうことはあっても、男としての矜持が薄れんうちは、そこにある「一線」は、万里の長城より高くそびえ立っとる。
「コホン……失言が過ぎましたね。凱旋パレードですか? どのようなものをお考えでしょうか」
ニヤニヤしながらミヤハは「パレードならお花など飾りますか」、なんて訊いてきよる。
……実際それはイイ案やけど、生花なんて使ったらどえらい維持費がかかる。
これからアイスクリーム屋とかして、小遣い稼ぎするつもりやから無駄な出費は押さえたいところや。
「お花はお花でも紙と木の花や。普通の花を使ったら凍ってまうやろ?」
「ああ。それにパレードが終われば、全部燃やしてしまえば後片付けも楽ちんですね」
……。なんやこのメイド。始まる前から焼却処分の話してんのか。
「ミヤハ、あんた、ちょっとは余韻とか風情とかを大事にできんか?」
「余韻でお腹は膨れませんよ。それより、その紙の花……。終わった後に薪代わりに配れば、城下町の暖房費が浮きますね。名案ですわ」
アカン。こいつ、私以上に合理主義の権化になっとる……。
「それにしても紙の花か。言うてみたけど、作るってなったら結構大変そうやな」
数は千とかやったら、城下町の長い大通りを飾るだけでも足りんと思う。
大人数が必要になりそうや。それに作り方も調べんとあかん。
「それでしたら、王宮伝来のペーパーフラワーとか作ります? 私作り方知ってますよ」
わーお、なんて好都合。流石私のレディースメイド、なんでもできるわ。
……ん?……そういや、舞踏会の晩餐とかにある花の飾りつけとかにペーパーフラワーとか一部で使われとったな。
直ぐに交換できる場所やったり見えたりするとこだけ本物使って、天井とかに飾るのは枯れて落ちてこないように紙製にしたりするって、他のメイドが言ってた気がする。
王宮で作られてたものなら、見劣りせん、豪華な花が作れそうやな。
「おっ、じゃあ頼むわ。数は貧困層の女性を内職で雇ってくれる?」
「貧困層の雇用創出ですか……素晴らしいお考えですね、サーシャ様。木の花はどうされましょうか?」
「木の花のアーチは木工ギルドに発注しよか。そう言うのも請け負ってくれそうかな?」
「はい、それなら城下町の木工ギルドで問題ないかと。しかしそれだけだと飾りつけには物足りなさが出てしまいますね」
確かに花と木のアーチ、それに楽器隊も呼ぶつもりやけど、それだけやとちょっと派手さが足らん気もする。大勝利したんやからもっとドドーンとパレードは盛大にしたいよな。
もちろん出費はなるべく抑えて。
てことで思いつきました第二の秘策。というか、雪国きたら一回やってみたかった事リストにあったことを一つ、ココで消化させておこうか。
「そこで第二の秘策や。ココには無限の雪がある。それを使って雪像を作る祭りを開く。開催期間はフロストが帰ってくるまでや。ランキング形式にして、一番ええ雪像作った奴から順番に褒美を与えたるわ。例えば上位十組は小麦粉一袋とか、あるいは一位には極上の肉を進呈する! とか」
それを周りで密かに聞いてた食堂のみんなは、「私たちも出て良いですか?」「オレもなんか急に雪像が作りたくなってきたなぁ」とわらわらと湧いてきよった。
……あんたら食うのには困ってへんやろ。
「いや、まあええけど。みんなが勝ちすぎたら流石に八百長疑われるから、アンタらは厳しめに見るで……?」
「ハンデはそれだけですか」
「ちょ、ほんまに参加する参加する気ぃか⁉」
使用人達が次々と肩を回して食堂を出て行くのを私は茫然と見送った。
「みなさんお肉目当てで雪像を作りに行ってしまいましたね」
「別に買って食べればええやん……?」
「流石お嬢様、極上の肉をいつでも買って食べれるお方は言うことが違いますね」
ミヤハにそう言われる前に、今のは自分的にもどうかと思ったけど。
やっぱり刺されたか。
「……相変わらず鋭い言葉のナイフやな」
「はい。主人に正しき道を示すのも、レディースメイドの務めです」
「後ろから主人を刺すのが仕事であってたまるか。あったとしたらアンタの天職やろうけど」
「過分な評価をいただき恐縮です」
「……褒めとらんわ」
準備に思ったより時間が掛かってしまった。けど内容は重要なので分けました。
次回はパレード編。サーシャが帰ってきたフロストを遠目から見ます。
フロストを中心に、ヨトゥンヘイム軍が邸に辿りつくまでの、ながーい城下町の道を凱旋パレードをしながら練り歩きます。




