【4/18まで修正中】脳を焼くアイスと、魂を削るラブレター。――特級呪物(手紙)を運んできたのは隠密部隊でした
「あ、頭がお、おかしくなるッ! キンキンするゥ!」
「うゥ美味すぎるッ!! 」
「ピャー!」
「なんだこれは、冷たい雲を食べているような……舌の上でとろける!」
アイスマンたちはアイスクリームを食うなり、その美味さに悶絶してペロリと平らげよった。
滅多に甘いモノが食べられないからか、しばらく食べた後アイスの冷たさに頭を抱えつつも幸せそうに口元を緩める大男たちに私は勝利を確信した。
「コレは……売れるでぇ……」
もう絶対にこれは間違いないと、首にタオルを掛けたシュガーライクにもアイスクリームを渡す。……ん、でもなんかこれ粒々入ってないか? 大丈夫かこれ。
「シュガーライク様には、ナッツ入りをご用意しました」
頬を赤らめながらミヤハは私の背中に隠れてそう答える。
……アンタ今さら可愛い子ぶんの? ……いや、まあええけど。
本人は仏頂面でむしゃむしゃ食べてるし。
男やったから分かる。コイツ全くミヤハのことなんて眼中にないぞ。
せっかく愛情込めて作って貰ってんのに、ナッツアイスクリームのカリカリ感に魂奪われとる。
……好物なんかも知れんけど、もっとちゃんとリアクションとってあげてや。
何黙々と食べとんねん、アイスクリームマン。
「悪くありませんね……。で、これは原価いくらで、どこに卸す予定ですか?」
私らが睨んでいるのに気づいたんか、ワザとらしく咳払いしてビジネスモードに入るシュガーライク。
風呂上りの恰好で眼鏡カチャカチャしても全然インテリに見えへんで? 髪もいっつも整えとんのに今はボサボサやし。
「シュガーライク様……尊い……」
ミヤハは大興奮で、ハンカチ使って鼻血止めるぐらいには幸せそうや。
こう見せつけられるとフロストに会いたくなってくるな。……手紙出してからかなり経ったけど今どのあたりやろ。
「アレクサンドル様?」
「ん? ───あ、ああ。卸先の話な。邸の風呂前におるおばちゃんおるやろ? あそこで使用人とか兵士達に売ってみようと思ってんねん。原価もかなり安いからいくつか試作品作って、今度は城下町でも売ってみようかと思っとる」
そんな慎重な私を嘲笑うかのように、シュガーライクは計画を前倒しするように要求してきよった。
「段階を踏む必要はないでしょう。邸と城下町、両方で売り始めましょう。そこで試作品を完成させ、すぐに領地の外に売り出すべきです。この味は」
風呂敷をいきなり広げんのは怖いけど、今の味でも十分に売れるポテンシャルがあるってことやろうか?……確かにここにいるメンバーには好評やけど。それはあくまでサウナから出たばかりという環境に限る気がする。
「俺たちもこのアイスクリームはもっと売り出すべきだと思うぜ! 家族にも買って帰りたい味だ!」
アイスマンたちも自分達で作ってアイスを食べとる。そんなに気に入って貰えたなら何よりやけど、問題が一つある。
「城下町の人は寒いのにアイスクリームなんて食べるんか?」
すると、みんなの顔が私に集まった。
な、何やみんなして。
世間知らずなお嬢様を見る眼でこっちを見てくる。
「……アレクサンドル様、ご心配なさらずとも一応どの家にも暖炉ぐらいはあります
」
シュガーライクの冷静なツッコミに、私はポカーンと口を開けた。
(……あかん。俺の脳内イメージ、江戸時代の農村で止まってたわ。ボロ布着て重湯すするお爺さんとお婆さんどこにおるねん)
煙突がある家は高級品……なんていう前世のファンタジー脳と、王宮暮らしの弊害がここで爆発してもうた。
「……そ、そうやな。薪割りはキャンプファイヤー用やないもんな。知っとったで。ちょっとしたジョークや。おほほ」
「お嬢様、顔が真っ赤ですよ。……まぁ、そんな浮世離れしたところもサーシャ様の魅力ですけど」
ミヤハ、あんたは後で表出な。
◇
それからしばらくアイスクリーム屋のデザインとか氷を入れる袋の話なんかを話していると、時間は溶けるように無くなってしもた。
食堂が賑わい始めたのを見て、私達は時間を確認するともう夕食を食べていてもおかしくない時間で、外は青一色に染まっとる。子供はお家に帰る時間になっとった。
「もうこんな時間かいな。ほら、今日は解散するで。もう青の時間や」
食堂の採光窓からは暮れなずむ空から青い光が差し込んどった。
「んおー、そんな時間か?」
アイスマンの親方は食堂の壁に掛けられた時計をみて、頭を掻いた。終業時間はとっくに過ぎとる。
雇用主の婚約者として、バイカル家の経営理念として、不当な残業は認められん。
「さー仕事はもう終わりや。とっとと家に帰りなさい」
上気した顔を覚ますように、私は食堂の外にでた。
外は全てが青一色に染め上げられていて、城下町の家々の窓や街頭には灯りが煌々と点灯し始めとった。
子供の姿はなく、街には労働を終えたばかりの人々が行き交い、酒場に集まってお酒を飲んでいる風景が遠目に見える。
そんな昼と夜の狭間にできた素敵な時間。
私は吐く息を白くさせながらアイスマンたちを外まで見送り、邸に戻ろうとしたところで、一頭の駿馬が私の下へと駆けてきた。
「急報! 急報!」
私の前で止まった騎士は、急いだ様子で手紙を私に差し出してきよった。
「無礼者! 止まりなさい! この御方が誰か知っての狼藉ですか!」
「失礼しました!」
ミヤハが馬に乗った騎士にピシャリと言い放つと、兵士は馬から転げ落ちるように邸前の雪に落下して、息もたえだえで一通の手紙を渡した。
「何事や?」
私は兵士からの手紙を受取ろうとしたら、その手をミヤハに止められた。
「サーシャ様、毒物が塗布されている可能性があります。私が先に確認しますので、シュガーライク様の後ろに隠れてください」
ミヤハに言われた通りに私は、シュガーライクの後ろに隠れる。
そこまでする必要があるかとも思ったけど、そう言えば王家から恨みを買ってるんやった。
「自分の部隊名を言え。早馬を出す部隊は事前に決められている」
シュガーライクは兵士に向かって、少し怒るように言い放った。
「わ、ワシは……ヨトゥンヘイム閣下直属、『氷鴉隊』、第一伝令班の者です! 至急、閣下よりこの書状を……アレクサンドル様に直接手渡せと……っ!」
その言葉を聞いた瞬間、シュガーライクの警戒がわずかに解け、代わりに「やれやれ」という呆れ顔になった。
「……『氷鴉隊』。フロスト様が最も信頼を置く、暗殺と斥候を兼ねた隠密部隊ですね。そんな暗部の貴重な人員を伝令に使うとは。……ミヤハ、確認を」
「かしこまりました」
ミヤハが中身を盗み見た瞬間、怪訝な顔でそのままシュガーライクに渡し、シュガーライクが「……フロストの頭は、一度ミーミル湖に沈めてきた方が良さそうですね」と、背筋が凍るような微笑を浮かべて呟いた。
いったい何が書かれとったんや……?
「アレクサンドル様、フロスト様から貴女宛てです。……どうぞ、至急の伝言です」
シュガーライクの無駄に圧のある言い方に驚きながらも、差出人に更に驚いた。
フロストから? 馬を出したのが昼前やから……そんなに経ってないと思うけど、速すぎんか? 一体何が起きたんや。
「えーッと……どれどれ」
『俺は今回の件、海よりも深く反省している……』
書き出しから重いなぁ⁉
……てかなんかあれ、落ち込んでる?
羊皮紙を貫通するほどの筆圧で書かれてるし、インク溜まりも凄い。
これ、一文書くのに将棋の対局並みに長考したやろ。
こんだけ悩んで、書いてる内容は「二六歩」並みの序盤の序盤やけどな……。
んで……熟慮に熟慮を重ねた結果どういう答えに至ったんや?
新しい婚約者でも増えるんか?
『他国の娘は俺の弟を代理に立てることで解決させてきた!』
解決してへん⁉
それ弟君を身代わりにしただけやないか。
ていうか、それ弟さん許してくれるんかいな。
大体アンタ目の前で、この特級呪物運んできた壮年兵の気持ち考えたことあるんか?
私の想定と違って、「閣下のためになれた……!」と感極まって泣いとるで。
私やったらブチギレるけどな。…まあ、本人が喜んでるから無粋なことは言わんけど。
まったく……オッサンの目がピュアすぎて、手紙の中身なんて口が裂けても言えへんやんけ。
「……ご苦労さんです。こちらは閣下のお命を救う手紙でした」
私は涙で口髭まで氷ついた兵士の手を取って、立ち上がらせた。
この手紙を届けるために、それこそ命がけのルートを通ってきたのだと、兵士は年甲斐もなく涙で顔を濡らしとるから、私もどんな顔をしていいか分からん。
……アンタこれで死んだら、死に切れんで?
「今日は暗いので、サウナでゆっくり休み下さい。あとのことは私がしておきます」
「ハッ! 承知しました!」
敬礼をビシッ、と決めて去っていく壮年兵士を見送りながら、私の口からは大きな溜息が漏れ出た。
「フロストはほんま……トラブルメーカーってああいうやつのことを言うんか?」
……でも怒る前に戦争帰りなんやから労ったらなアカンよな。
みんなよく頑張ってくれたみたいやし。領地全体で公爵様の凱旋を華々しく飾り立てようか。
最後はもちろん、サウナとアイスクリームでお出迎えや。
てか───これで領地が順調に繁栄に向かいつつあるの、やっぱりなんかのバグやろ。
次回:フロスト・ヨトゥンヘイムの凱旋




