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中身はナニワの男子ですけど、婚約破棄されたので北国の氷を全部「金」に変えてやりますわ! 〜絶世の美女、商売魂で極寒の地を制す〜  作者: 星島新吾
序章:氷売りの令嬢

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10/28

【4/18まで修正中】必勝パターンはサウナとアイスクリーム!

「あづいいいいい! 死ぬ! 溶ける! 業火だ! ここは業火の谷ダァ! お嬢に殺されるー!」


「……元気やなぁ熊公ら。サウナなんやから熱いのなんて当たり前やろ。静にし」


 邸の一階、二階にある第一執務室の真下にある巨大ケロサウナ。


 そこから響いてくるアイスマンたちの断末魔……やなくて、歓喜の悲鳴をBGMに、私はサウナの隣で茶をしばいとった。


 サウナの隣の部屋は、高級な樹脂とか湿気に強い杉で作られたログハウス風の部屋になっとる。普通に湿気とかヤバいから、普通の部屋は隣接出来んかったんやろう。


 配置されてるものも、絨毯とか家具やなくて、あえて「石のベンチ」とか、「編まれたラタンの椅子(スツール)」とかで厳選されとる優遇っぷり。


 この部屋から女用と男用のサウナに分けて入るから、待合室というか、合流地点みたいな場所として機能しとるんやろうけど、力の入れ具合が半端ない。


 おかげでここも食堂みたく、使用人から兵士まで誰でも愛用される共用の憩いの場所になっとるようやった。


 かく言う私も普段はココを利用しとって、ミヤハと一緒に入ってはシャワーで流すまでをセットで利用しとる。


 私は前世(男で過ごした15年間)も含めてサウナを経験したことがなかったから、初めて入った時はちょっと驚いたけど、今はもう慣れたもんや。


 それとこの部屋は脱衣所前の待合室という目的で使われるだけやない。


 他にも購買のおばちゃんや、マッサージ師なんかもおって、ここでハーブとか飲み物を買ったり、マッサージを受けたりする事もできる。


 前にマッサージは一回受けたけど、疲労が溜まってなさすぎて「綺麗なお体ですね~」としか言われんかった。


 気持ちよかったけど、普段重たい荷物とか運んでくださってる使用人の方々とか、兵士の方向けやろうから、十八歳のガキである私が行っても仕方がないというのはある。


 疲れてる人とかにはアリなんかもしれんな。


 ほんで改めて思ったけど、食堂もさることながら、ここでも兵士の英気を養うためにフロストが全力で金をつぎ込んでるのが見てわかった。


 シュガーライクが言うに、サウナはフロスト卿の趣味もあってか、予算を多めに割いているとのこと。彼はよく部下を連れてサウナに入る生粋のサウナーらしい。



 あの人のおらんところでどんどん情報が入ってくるのは変な気分やけど、周りの人が戦争ばっかり言ってるあの人の事を気遣ってくれてるのかも知れん……勘違いかもしれんけど。


「趣味がサウナって……庶民的な公爵様やなぁ」


 そしてそれを教えてくれたシュガーライクは、現在大男たちに連れられて一緒にサウナに入っとる。

 ……なんでやろうな? それはホンマに知らん。


「それにしてもお嬢様、あんな熊みたいな男たちを蒸し焼きにして、何が楽しいんですか? 入るならシュガーライク様一人で良かったのに……」


「ああ、それやと本末転倒やな」


 今回シュガーライクも一緒にサウナに入っとるのは、たぶん大男たちがしっかりとサウナで熱々になるように見張るためや。


 彼が一人で入っても喜ぶのはミヤハしかおらん。


「それにこんなに長時間入れて苦しませる必要があるんですか? 拷問みたいになってますけど」


 ミヤハはそう言うけれども、私はちゃんと水も渡しとるし、(ヴィヒタ)も渡してる。

 上手く使えばもっと長時間粘れるはずや。

 アイスを食うなら、もっと燃えるように体を温めて貰わんとな。


「ミヤハ、あんた分かってへんな。人間、極限まで追い詰められた時に差し出されたもんが、一番価値が高くなるんや。……さて、私はアイツらが茹で上がるまで、溜まってた手紙でも片付けるとしようかしら」


 山積みの封筒の中から、ひときわ分厚い一通を取り出す。差出人はフロスト卿。

 先日、私が領民たちと笑顔で写った白黒写真を送ったお返しや。


「なになに……『サーシャの送ってくれた食料が前線に届いた。兵たちの士気は無類の高さを誇っている。君が兵士の家族に食料と笑顔を届けてくれたおかげだ。君の支援には勝利で報いると約束しよう』……か。戦況を見るにそろそろ終わりそうか……?」


 手紙によれば、戦況は圧倒的らしい。


 蛮族と呼ばれていた北東の豪族をほぼ壊滅させ、周辺の村々はこぞって公爵領の傘下に降った。領地拡大、大勝利といった内容や。


 ……が、読み進めるうちに私の眉間にシワが寄った。


「……なんやこれ。『豪族の長が、領地を押収する代わりに同盟の証として娘を俺に嫁がせたいと言ってきた。部下はサーシャを第一夫人、彼女を第二夫人にするのはどうかと俺に提案してきている。俺の気持は変わらないが、君の意見を聞いておきたい』……はぁ?」


 私は手に持っていたペンを、無言でへし折りそうになった。

 嫉妬? いや、ちゃう。


「そんな婚姻なんて利益の出ない和平はありえん」という怒りや。


「ミヤハ、ちょっとこれ見てみ。フロストのやつ何考えてんねん」


「第二夫人ですか。フロスト様も隅に置けませんね」


「アホか。戦争で山ほど金が溶けてるんやで? それを婚姻一つで利益がでるかっちゅー話や。私もその第二夫人が純金製なら認めるで?」


 そうなったら頭からかち割って、売ったらええねん。


 せやけどこの政略結婚、叶ったとしても全くもって旨味がない。こっちは生殺与奪の権を持ってるんやぞ?


 本来豊かな土地を手に入れるチャンスやのに、嫁一人って。割に合うか!


「……返信はこうや。『閣下のご判断が正しいと存じます』」


 全くブレのない筆致で、私はそう書き記した。


「怖すぎません? ブチギレてるの分かりますよ?」


「別に怒ってないで。せやけど、考えんでも分かることをわざわざ手紙にしてくるから」


「い、いやぁ~……こんな怖い手紙が送られてきたら、私だったらすぐに取り消しますけど……公爵様はどうしますかね」


「フッフッフッ……まあ、送ってみてのお楽しみということで。それよりそろそろアイスクリームを作り始めようか」


 私は流れるような筆致で手紙を書き終えると、それをミヤハに渡して早馬をだすように命令した。


 それから私はアイスクリーム作りを始めるため食堂に向かった。



 ◇




「ミヤハ、準備はええな? ミーミルアイスの冷気を使って、前世……私の故郷に伝わる秘密のデザート『アイスクリーム』を作るで!」


「はぁ、材料は用意しましたが……聞いた感じ混ぜるだけですよね?」


 私は腕まくりをした。


 理論は完璧や。卵黄、砂糖、牛乳、生クリーム。これを冷やしながら空気を含ませるように混ぜる。商売の神様がついてる私に、失敗なんて言葉はない。


 ――十分後。


「……なんで? なんでそうなるん?」


 私の目の前には、ジャリジャリとした質感の、なぜか少し灰色がかった「謎の個体」が鎮座しとった。


 おかしい。私は黄金比で配合し、腕がちぎれんばかりの超高速回転で混ぜたはずや。


「お嬢様……。これはたぶんアイスではなく、力任せに粉砕された甘い氷のクズです。あと、混ぜる速度が早すぎて卵が分離してます。……どいてください、私がやってみます」


 ミヤハが冷ややかな目で私を押し退け、ボウルを手に取った。

 彼女は、鼻歌混じりに、淀みのない手つきで材料を合わせ、適切な速度で優雅にステアしていく。


 ――さらに十分後。


 そこには、雪のように白く、シルクのように滑らかな、見るからに美味そうな「本物」のアイスクリームが完成しとった。


「……、……。おどれは天才やったか」


「はい?」


「あんた、さてはアイスクリームを作る才能に満ち溢れとるな? ええやろう、私の右腕として……」


「いえ、単にお嬢様が壊滅的に不器用なだけです」


「う、うゆっ……」


 そんな酷い。目の前で事実を口にするなんて。クッション言葉をご存知ないんか?


 私は自作の「灰色クズ」を前にして膝をつく。


 こ、この屈辱は耐え難い。計算通りにいかない「現場」の難しさを、私は冷たいデザートに教えられた。


「……お、お嬢様、そんなに落ち込まないでください。人には向き不向きがございます。お嬢様は運動が苦手なだけなんですよ」


「フォローになっとらん……私にはアイスクリームすらまともに作れんのか……?」


 圧倒的な絶望が私の両肩に重くのしかかる。

 

 私の手はアイスクリームを作れるようにはできとらんかった。


 昔から何かと宮廷で教わっとった身やけど、ダンスも下手やし、歌も楽器も音痴で壊滅やったのを思いだした。


 前世ではちゃんと出来てたんやけど……その記憶があるせいか、思い通りに体が言うことをきかんのが原因やと、個人的には負け惜しみを言っておく。


「だ、大丈夫ですよお嬢様。お体は鍛えていらっしゃるじゃないですか!」


 ミヤハが言うように、私はこの残酷なまでに酷い運動神経を克服するべく、幼い頃から筋トレをしとった。ジャンプしたり、プランクしたり。


 それはもう色々やった。


 ……けどそこには締まった体の運動音痴がいるだけやった。


「ミヤハ……私から離れんといてな。私……なんもできんから……」


「あわわわわ……サーシャ様から陰気なオーラが……‼」


 ズーン、と沈み込んどったその時。

 廊下の向こうから、地鳴りのような咆哮が聞こえてきた。


「整ったぁぁぁぁぁ!!」


 ガラリと食堂の扉が開き、蒸気と共に現れたのは、茹で上がったタコみたいに真っ赤なアイスマンたち。

 体からは湯気が立ち上り、水分を欲しがっている彼らの目は、獲物を狙う獣そのものや。


 あかん。このままやと私が食われる。

 慌てて、ミヤハが作った白銀に輝くアイスクリームを高く掲げた。


「さあ、地獄の業火に焼かれた熊公ら! 天国の冷気が欲しかったら、これを口にしてみ!」



さあ次回。アイスマンの反応とフロスト卿の答えがかえってきます。


これはいったい、どうなっちゃうんだ~?

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