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ランナ館①

城を出発したランドはまずスシュル湖のほとりにあるランナの住む館に向かった。

ここはいつきても不気味な場所だった。建物の外壁は全てツタで覆われており、建物の周りには昼間でも光の差す場所がほとんどないのではないかと思われるほど巨大な樹齢何百年という木がうっそう覆い茂っていた。使用人が数人いるようだったがランドにも謎だらけの館だった。


「私、スシュル湖は何度も来ているのに、こんなところに館があるなんて全然気づかなかったわ。でもすごいところね…本当にこんなところにサミュがいるの?」


マルーシャは周りをキョロキョロ見渡しながらランドの後に続いた。


「この館の周辺は人が近付かないように道が迷路みたいになっていてその日によって道が変わるって噂があるぐらい、簡単にこの館にたどり着けないよう道が入りくんでいるんだ。俺も何度来ても間違いそうになるぐらいだ」


ランドはそう言うと馬からおり、馬を館のすぐ横にある大きな馬屋らしき場所に馬を連れて入って行った。マルーシャもあわてて馬からおりランドの後に続いた。


マルーシャが馬屋に入ると中にはかなりの馬が飼育されていた。個人が飼うにはかなりの数だった。

「ねえランドどうしてここにはこんなに馬が多いのかしら? 個人が所有するには多すぎないかしら?」


マルーシャは馬達を眺めながらランドに話しかけると、ランドは自分の馬を空いている場所に入れ柵をしてからマルーシャに言った。


「余計な詮索をしていないで早くその辺にリア入れろ。あの婆さんの考えていることなんかこの俺がわかるわけないだろうが、どうしても気になるんなら本人に直接自分で聞いてみるんだな」


ランドの言葉にマルーシャは少し考えて、余計なことを聞くのはよそうと考え直し、急いでリアをダノンの隣に入れ、既に館の方に歩き出しているランドの後を追った。

  

二人が館の前に着くと、ランドは巨大な扉の横にぶら下がっている紐を引っ張った。すると暫くして館の中で呼び鈴らしきものが鳴り響く音が聞こえてきたかと思うと、両開きの扉の右側半分の扉が開き、中から白髪交じりで上下黒い服を着た執事らしき人物が出てきた。


「おまたせいたしました。マルーシャス王女様ならびにランシェルド様でございますね。ご主人様がお待ちです。どうぞ中の応接室の方でおまちくださいませ」


執事は扉の前で扉を支えながら片方の手ですぐ左側の部屋を指差しながら頭を下げた。

「ねえ、今日ここに来ることを連絡してあったの?」

マルーシャはランドの服の袖をひっぱりながら小声でランドに話しかけた。


「いや、あの婆さんの事だ、俺達が今日来ることなんか簡単に予測がつくんじゃないのか」


そう言って驚くそぶりもみせないでランドはスタスタと中に入って行った。

マルーシャも恐る恐るランドに続いた。


中は意外にも明るく清潔感があったのでマルーシャはあっけにとられながら部屋の中を眺めた。応接室の中には見たこともない様々な動物の剥製が飾られており、見ていて気味のいいものではなかった。


とりあえずソファーの椅子に腰掛けて待っていると、ランナが杖をつきながら入ってきた。

ランナは二人の訪問をさして驚いた様子もなくいちべつすると、視線をランドに向け話しかけてきた。


「ランシェルド、お主は近々来るであろうとは思っておったが、やはり王女も一緒であったか…仲のいいことじゃのう」


「こいつが勝手についてきたんだ」

「ほっほっほっ、そうじゃろうな。まあお主一人よりは王女も一緒の方がサミュも喜ぶじゃろう。ついておいで」


ランナは応接室の入り口で言うと向きを変え先に歩きだした。2人は急いでランナの後について応接室を後にした。


マルーシャはランドの後ろを歩きながら不思議そうに家の中をキョロキョロしながら歩いていた。なぜならこの家の中は壁にろうそくなどの炎がいっさいついている気配もないし、日の光を取り込む窓らしいものがないのになぜこんなに明るいのか不思議で仕方がなかったからだ。

「王女よ、この明るさがそんなに気になるかえ?」


後ろを見ているわけではないのにランドの前を歩いているランナがマルーシャの心を見透かしたかのように言うのでマルーシャはびっくりして一瞬息が止まりそうになった。


「わっ私は別に」

マルーシャは驚いてあわてて否定したがランナは笑いながら立ち止まり壁に手を当てながら言った。


「そんなに驚かんでもよかろう。お前様の安定しない足音で何を考えているかぐらい見当がつくわ。一つ教えておいてやろう。この家の壁には弱い光の中でもそれを吸収して数倍の光を発光する液が壁全部に塗り込まれているんじゃよ。まっこの技術はまだこの国にはないものじゃからめずらしいだろうがな、この世界にはお前様がまだ知らないものがたくさんあるということじゃな」


「ランナさん。これって簡単に出来るものなのですか? それはどこで手に入れられたのですか?」


気味悪い気持ちより好奇心の方が勝ってしまったマルーシャは聞きたいことが山ほどあった。

マルーシャはランドの前に割り込むと、目をキラキラさせながらランナに近づこうとしたその時、突然ランナが笑い出した。


マルーシャは慌ててランドの後ろに周り込み、顔だけランナに向けた。

「ランシシェルドよ、お主も大変じゃのう」

ランナは笑いながらまた歩きだした。


「それどういう意味かしら!」

マルーシャはなんとなく馬鹿にされたように感じ腹が立ってきた。


「よけいなことは聞くなって意味だ」

「あっそうですか! 何よただ質問しただけじゃない! 失礼しちゃうわ!」

マルーシャはブツブツ文句を言いながらも逆らっても意味がないとあきらめ、その後は無言でランドの後ろを歩いた。長く曲がりくねった廊下を歩いてようやく突き当たりの扉の前でランナの足が止まった。


「今日はここにおるからゆっくり話すといい、お前さんたちは今休暇中であろう? 急がないのであれば今夜はこの館に泊まっておいき」


そう言うとランナは扉を開けずに向きを変えて来た廊下を戻って行った。

マルーシャが振り向くと、もうランナの姿はそこにはなかった。


首をかしげているマルーシャにすでに扉を開けて待っていたランドの声が飛んだ。

「何をボーッとしているんだマルーシャ、閉めるぞ」


マルーシャは慌てて中に入ってまた驚いた。なんとそこは温室になっていて、いろんなみたこともない植物が所狭しと植えられており、とても空気が澄んでいた。


ここは本当に部屋の中なのか疑いたくなるほど太陽の光が差し込み、とても落ち着く空間だった。これほどの温室はラミド城にもなかった。


マルーシャが驚いていると温室の向こうから声が聞こえてきた。

「誰かそこにいるのですか?」


その声はなつかしいサミュの声だった。

「サミュ! 私よ、マルーシャスよ、どこにいるの?」


「マルーシャス様? 本当ですか? わあーうれしいな。まさかマルーシャス様にお会いできるなんて夢にも思いませんでした。今行きます」


その声のする方に視線を向けていると、その方角から車椅子に乗ったサミュが姿を現した。

「サミュ!」

マルーシャはサミュを見るなり両手を広げ車椅子に座って出迎えたサミュをやさしく抱きしめた。


「元気そうじゃない。ここまで回復しているなんて思ってもいなかったわ」

マルーシャはサミュから離れると、サミュの姿をまじまじと眺めながら言った。


「まだ歩くのは無理ですがほとんどのことは自分でできるようになりました。今はランナフィア様からいろんな薬草について教わっているんです。ここに来ていろんな夢ができました。ランナフィア様や館の皆様もとてもよくしてくださるし、僕もこんなに早く起き上がれるようになるなんて思ってもいませんでした」


「サミュ本当によかったわね。あなたが元気そうで安心したわ。私はてっきりまだベッドで寝たきりなのかと思っていたから」


サミュは笑顔をみせランドに向き直った。

「ランシェルド様、わざわざきていただいてありがとうございます。それにこんな天国みたいなところにつれてきていただいてなんとお礼を言ったらいいか…。こんなに穏やかな気持ちで毎日過ごせる日がくるなんて思ってもいませんでした。僕幸せです本当にありがとうございます」


「礼をいうのは俺のほうだろ。お前は俺の命の恩人なんだから、それにもう様付けはよせ、お前のことはマルーシャももう知っている」


「そうよサミュ、ランドはお兄さんなんでしょ。あなたは兄の命を救ったんだから大きな顔をしてランドって呼び捨てしてもいいぐらいよ。ねえランド」


ランドは返事をしなかったが文句はないようだった。


「そっそんな、呼び捨てなんて…でも…あっあの僕ランシェルド様が許してくださるなら、ずっと呼びたかった呼び方があるんです」


サミュはそう言うなり口ごもってしまったのでマルーシャが助け舟をだした。


「あらどんな呼び方かしら? 聞きたいわ。ねえ、ランドに直接いいにくいんだったら私にこっそり教えて。ねっ!」


マルーシャは腰をかがめ自分の耳をサミュの口元に近づけた。

「あっあの…僕、にっ兄さんって呼んでみたかったんです」


それだけ言うとサミュは真っ赤になって下を向いてしまった。

それを聞いていたランドは返事の代わりにサミュの肩をポンと叩いた。


「マルーシャ、俺はお婆と話してくるからお前はここにいろ」

そっけなく言うとランドは部屋をすぐでて行ってしまった。

その様子を見ながらマルーシャはクスクスと笑い出した。


「やっぱり…ランシェルド様のことを兄さんって呼びたいなんて言ったものだから気を悪くしてしまったんでしょうか?」


ランドの消えた扉の方を見詰めながらオロオロとしているサミュにマルーシャは笑いながら答えた。


「あれはランドの照れ隠しよ、だから心配しないで、こんなに可愛い弟から兄さんなんて言われて怒るわけないじゃない。あなたのこと疎ましく思っていたら、せっかくの休暇に真っ先に会いに来たりしないわよ。自信を持ちなさい。ランドはあなたのことを本心から大切な弟だと思っているわよ。でもあの通りの性格でしょ、私達のように素直に思ったことを口にするのが苦手なのよ」


「マルーシャス様はランシェルド様のことをよくご存知なのですね」


「あら、全て知ってるわけじゃないわよ。ランドは秘密主義だもの、でもあの鈍いランドを振り向かせる方法なら知っているわよ」


「きっとそれはマルーシャス様だけが使える方法なのでしょうね」

サミュはマルーシャの方に視線を移しながら言った。


「あら、そんなことないわよ。サミュは私に似ているもの、兄さんって呼び名に慣れてきたらランドの接し方のこつも分かってくるわよ」

マルーシャはサミュにウインクしてみせた。


「そんなことよりこの部屋素敵ね。ここの中を案内してもらえないかしら?」

マルーシャは部屋の奥に視線を向けながら目を輝かせた。サミュはいつもの笑顔で車椅子を進めながらマルーシャの後ろから一つ一つの植物の名前を説明しながら温室の中を案内した。



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