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葬礼の儀①

ラールシアの勝利から百日後、戦死者の葬礼の儀が執り行われる日がやってきた。

ラミド城の目の前に広がるドルタ平原の一角に30センチぐらいに切り分けられた長さの木材が高々と山のように積み上げられていた。南東にあるスシュル湖がある森の方角に向かって祭壇が設置されていた。


その積み上げられている木材には、戦死した兵士の名前が刻み込まれていた。そしてその一つ一つに命を落としていった兵士達の遺品の品がくくり付けられ、その木材の山の前には白い布をかけられた祭壇の上には、目の前に積み上げられている木材よりは遥かに小さなイクーリア神像の彫刻が置かれていた。


そしてその周りを囲むようにして水をふくんでいそうな泥のような土や乾いた砂のような土など何種類かの土が小高い丘のように周りに箇所盛られていた。


四方の角には巨木が地面に突き刺さっており、人五人分ぐらいの高さはあろう巨木の先にはラールシアの国旗が掲げられていた。葬礼の儀が高々と積み上げられている木々の前で執り行われようとしていた。


その場所には数多くのラールシア人が参列していた。皆一様に頭をたれながら手には一輪の花を持ってたたずんでいた。その最前列には、王族と貴族が並び、その後ろに重臣達がそれぞれたたずんでいた。そしてその後方の左側は軍の関係者が整然と列を作り、右側には一般の人々がたたずんでいた。


ここに参列している者達は、義務や義理で参加している重臣や貴族を除けば、その殆どが軍の関係者と、戦争で家族を亡くした遺族達が占めていた。


兵士達は全員軍服を着用していたが他の参列者は皆黒の服を着て参列し、女性は頭に黒いベール付きの帽子を被っていた。


ランド達も兵士達と共に参列していた。ランドの後ろにはマルーシャも軍服を着用して一般の兵士に混ざっていた。彼女は本来ならば最前列にいるべきだが彼女が頑なに拒否したのだ。


マルーシャは王族としてではなく共に戦った一兵士の仲間として神の元へと逝く仲間達を見送りたかったのだ。そんな思いで葬礼の儀に出席している彼女にしてみれば貴族や重臣達の冷ややかな視線など気にもならなかった。


トルベル国王もあえて反対はしなかった。兵士達も共に戦った仲間達の魂を見送ろうと多くの兵士達が参列していた。


やがて城の方から鐘の音が鳴り響くと、重臣の列の中にいた一人の司祭らしき人物が一番前に出てきた。頭に長く大きな台形帽をかぶり、両胸のところにラールシアの国章が縫い付けられている白くゆったりした祭服を着ていた。右手には先端を白い布で巻かれた筒状の棒を持っていた。


司祭は祭壇の神イクーリア神像の前で一礼すると、棒を両手で持ちもう一度深深と頭をさげながら大きな声で言った。


「我らが神イクーリア神、御身と共にあります我らラールシアの民はあなた様の教えを守り今日までまいりました。このたび、ここに刻みし多くの子らが天に戻ります。どうか彼らの魂を御身のお力で天へとお導きくださいますようお願い申し上げます」


司祭が言うと、手に持っていた棒を像の前に置いた。それと同時にそこにいた一同全員が頭をさげた。そして司祭はゆっくり頭をあげると後ろを振り向き、視線を祭壇のすぐ後ろにいるトルベル国王に向けた。


「ではこれより葬礼の儀を執り行うにあたり、まず最初に国王陛下からのお言葉をいただきます」

そう言うと司祭はトルベル国王に向って一礼すると、祭壇の右端まで移動した。司祭の言葉でトルベル国王は一歩前に出ると、祭壇の前で一礼し、胸のポケットから白い紙を取り出し読みあげた。


「我らが神イクーリア神、こたびの戦いで命を落としていった数多くの勇士たちの魂が無事天の神の元に召されますよう、お導きいただけますようここにお願い申し上げます。また…」


トルベル国王は重臣が用意した紙を途中まで読んでいたが突然その紙を綴じ、少し間をあけてもう一度話はじめた。


「我々は長く辛い戦いを経て、ラールシアの勝利と引き換えに、多くの若者達の尊い命を失ってしまった。失ったものは計り知れない。だが、生き残った我々は、これから先の未来は二度と戦争を起こさない世の中にしてゆかねばならない。ここに彼らの勇士を刻み、後世まで語りついでゆくことを誓うものである。我らの神イクーリア神、彼らの魂を無事天へとお導きくださいますようお願い申し上げます」


そう言うと国王は大きく開いた両手を天に向け仰ぎ、深深と頭を下げると、また元の位置に戻った。それを見届けてから司祭が再び祭壇の中央に歩みよると一礼し、司祭は祭壇の上に置かれた神イクーリア神像を手に持つと、それを頭上高く持ち上げ頭をさげながらその像を祭壇の前の高くつまれている木々の前まで持って行くと、その像を木々のすぐ前の土の上に置き、頭をさげながら後ろにさがり祭壇の前までくると再び頭をあげ両手を空に向けた。


「ではこれより、葬礼の儀式を執り行います。ラールシア軍総帥ダムダス・スエル殿お願いいたします」


スエル総帥は軽く頷くと、前に歩み出て司祭に近づき祭壇の前で一礼すると、祭壇のすぐ近くまで歩みより静かに言葉を発した。


「フィスノダ国との戦いにおいて勇猛果敢に戦い、惜しくも命を落とした者達へ哀悼の意を表して敬礼!」


スエル総帥はそう言うと敬礼した。その言葉と同時に参列していた兵士達もいっせいに足並みを揃え敬礼した。


辺りは静寂の中風がそよぎ、まるで今にも空から神が舞い降りてくるかのような澄んだ柔らかな空気が漂っていた。長い敬礼の後、司祭は祭壇の上に置いていた白い布が巻かれた筒状の棒を手に取るとスエル総帥に渡した。


スエル総帥はそれを受け取ると受け取った筒状の棒を司祭の前に掲げ、司祭が火打石でそれに火をつけた。勢いよく燃えはじめた。


その棒をスエル総帥は大きく上にかかげると、ゆっくり木材の山に向けて投げ入れた。火は瞬く間に広まり、積み上げられた木々は黒い黒煙を上げ勢いよく燃えはじめた。

それを合図に兵士達以外の参列者が前列から順に一人また一人と、手に持っていた一輪の花を祭壇に投げ入れ、順に火の粉のかからない場所までさがって行った。全ての参列者が花を捧げ終わると、司祭は追悼の言葉で締めくくった。


「我らが友よ、子らよ、もう一度生まれ変わってそなたたちに再び会えることを祈り待とうぞ」


司祭が言い終わると、参列者の人々はやがて一人また一人とその場から去って行った。最後までその場に残っていたのは戦地で共に戦った仲間の兵士達だけだった。


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