ルアボ村③
その頃マルーシャはウキウキした気持ちで村の入り口のすぐそばにあったこの地方に生息するツクの木の林の奥にひきよせられるかのようにはいって行った。
木々の隙間から差し込んでくる光がふり積もった雪の上に反射されてキラキラ光っていた。
「サミュ、あなたフィスノダ国には来たことはあるの?」
後ろをついてきていたサミュにたずねた。
「いいえ初めてです。でもすごい雪の量ですね。誰もいないからでしょうか、木の枝にも積もっていて光に反射していてとても綺麗ですね。ですが奥に行くとどれだけ雪が積もっていて深いかわからないですから危険ですよ」
サミュは足元でキラキラ反射している雪を手ですくいながら言った。
「サ・ミ・ュ―・!上」
マルーシャはそう言うなり、アルーシャの声で上を向いた顔にめがけて雪の塊を投げつけた。
「やったわ! 当たったわ! サミュ雪合戦しましょうよ。遠慮は無用よ」
マルーシャはそう言いながらしゃがみ込んで雪の玉を作り始めた。
「やりましたね、僕はこういうのは得意ですよ」
そう言いながらサミュも負けずに雪玉を作りだした。
二人はお互い木々に隠れながら雪玉をよけたりしながら雪合戦を始めた。
あっという間に二人の額からはすぐに汗が吹き出てきた。
「ストップ! ストップ! ごめんなさい僕の負けです!」
サミュは体中を真っ白にさせながら両手を挙げた。
「はあはあ、私の勝ちね。あーおもしろかった」
マルーシャは雪玉をその場に放り投げながらその場に仰向けに倒れ込んだ。
サミュも横にあおむけに寝ころび木々のすき間から見える青空を見上げた。
その時、少し離れた場所に太陽に反射されてきらきら光る何かが視界に入った。
「ねえ、あれ何かしら」
マルーシャはその光るものに吸い寄せられるかのように起き上がると、その場所に向かって歩き出した。
サミュも慌ててマルーシャの後を追った。
マルーシャがその光る場所に着くと、そこは不思議な空間だった。
周りが雪に覆われている林の中で、腰ぐらいまでの高さの屋根が設置されており、屋根の上には雪が積もっていたがその下だけは綺麗に雪が取り除かれ掃除されており、その屋根の下には小さな石が積まれていた。その前には雪の中にもかかわらず雪の中で咲く綺麗な花たちがところせましと植えられていた。
「マルーシャス様、さっき光っていたのはこれみたいです」
サミュは拾った半分雪で埋まっていた金色で刺繍された見事なハンカチを拾い上げると差し出した。
「これはすごい刺繍ね…かなり高価なものだわ。イレイア? このハンカチの持ち主かしら? それにしても……ここは林の中なのに、ここだけは誰かが頻繁に掃除をしにきているようね。みたところお墓のようだけど、誰のお墓かしら?」
「そうですね、普通はお墓には名前が記されているはずですが、この墓標には何も記されていませんね。旅の途中に亡くなられたのでしょうか?」
「そうねえ……不思議な場所ね、でもなんだかとても悲しい感じがするわ」
マルーシャはそう言うと、その墓標の前にひざまずき両手を胸の前でくみ祈り始めた。
「魂をつかさどる全知全能の神よ、どうかあなた様のお力で、ここに眠る魂が安らかに眠りにつけますように、どうかお力をおかしくださいませ」
マルーシャが祈り始めるとサミュも同じくひざまずき目を閉じた。そして祈り終わると、マルーシャはおもむろに立ち上がり、拾ったハンカチを無意識にポケットに押し込みながらサミュに言った。
「サミュもう戻りましょう。なんだかへんな胸騒ぎがするわ」
マルーシャは急いで歩きだそうとしてふと立ち止まった。方向がわからなくなっているのに気づいたのだ。
「サミュ…ところでここどこだかわかる?」
弱弱しい声で後ろにいたサミュに話しかけようと振り向くと、満面の笑顔をしながらサミュが反対方向を指差した。
「マルーシャス様反対方向ですよ。ほらあっちにずっと足跡が続いています」
「あら、本当だわ」
マルーシャは足跡の方に向きを変え歩き出した。足跡を辿りながら林の中を戻り始めて、思ったよりもみんなから離れてしまっていたことに気がつき焦りながら、チラリと後ろを振り返りサミュの顔をみた。
サミュはマルーシャの視線に気がつくと、何も言わずただ笑顔を返してきた。
そんなサミュにマルーシャは質問をしてみたくなった。
「ねえサミュ。一つ聞いていいかしら?」
アルーシャは急いでいたその足を止め、突然立ち止まるとサミュの顔を真剣に見つめながら言った。
「えっ? 僕でも答えられることでしょうか?」
サミュは、マルーシャの質問に首をかしげながらも笑顔をマルーシャに向けながら聞き返した。
「あなたはなぜ兵士になろうと思ったの? ラールシアは軍に入隊するのは強制じゃないし、軍に入らなくてもあなたすごく優秀だって聞いたわよ。成績優秀なら無償で学べるジャルダ学園だったかしらあそこに入学できたんじゃないの? 確か全て無償で生活の保障もあるはずよ。なのにどうして兵士になろうとしたの?」
マルーシャからの突然の質問にサミュは返答に詰まってしまった。
しばらく沈黙が続いてからサミュはどこか遠くを見つめるような目をしながら話し出した。
「そうですね…僕はランシェルド様を少しでも助けになれる人間になりたかったんです」
「ランドの…」
「あっすみません。ランシェルド様は僕の憧れなんです。はははっ今の僕なんか何もお役にたてていませんが」
サミュは頭をかきながらまたいつもの笑顔をみせた。
「サミュ! あなたは十分役に立っているわ。あなたのその笑顔がみんなの力となって勝利の女神を呼び寄せるわよ。そんな気がする。サミュ、そのままのあなたでいてね、頼りにしているわよ」
マルーシャはいきなりサミュをギュッと抱きしめると彼の頬にキスをした。呆然としているサミュの顔を覗き込んで微笑み返した。
「マッマルーシャス様…僕…僕頑張ります!」
マルーシャはサミュのその一言に大きく頷くと、サミュの腕に自分の手を巻きつけながら並んで歩き出した。林の中をきた方角に向かってサミュととりとめのない会話をしながら歩いていると、マルーシャの耳に微かに人の話声のような声が聞こえてきた。
それは木の枝に降り積もった雪を風が払い落とす音に混ざって微かに聞こえてくる。
「サミュ、何か聞こえない?」
マルーシャはどこからともなく聞こえてくる声のような音を聞き取ろうと、両手を耳にあてた。
サミュも耳を澄ました。
「微かですが人の話し声のようなものが聞こえます。マルーシャス様、敵でしょうか?」
「わからないわ。でも敵だとしたら大変だわ。今襲撃されたらまだ武装していない分不利だわ。戻ってランドに報告しましょう」
マルーシャはそう言うとサミュと一緒になるべく音を立てないように仲間の元へと急いだ。




