ルアボ村②
ランドたちがルアボ村らしい場所についたのはそれからしばらくのことだった。
村はずれに到着した一行は小さな林らしい木々が茂っている場所で荷物を降ろしその場に腰をおろした。
雪は思ったほど積もっておらず陸から来ているはずの仲間がどこにいるのかはまだ分からなかった。
ランドは兵士二人に村の様子を探って来るように命じ、懐からまた古そうな地図を開くと真剣な顔で眺め始めた。
「なあランド、さっきから気になっているんだが、ここは廃村なんだろ? その割にはそんなに荒れているようには見えないんだが本当に人が住んでいないのか? それになんだろうな、嫌な感じがするんだが…なんなんだここは」
ランドの隣に腰かけていたアルが周辺の景色を見渡しながら言った。
そばに立っていたルカも頷きながらランドの言葉を待った。
「なんだお前ら霊感でもあるのか? この村は何年か前に廃墟になった呪われた村だ」
ランドが平然とした表情で言ったがルカはあんぐりと口を開けたまま固まってしまった。
「おっ、おいなんだそれ? 呪われているだと? そんな場所で集まって大丈夫なのか俺達、今夜はここで寝るなんていわないだろうな」
「家はまだ壊れていないし、寒さもしのげる、テントで寝るより快適だろうが。この村は他から見えないし、潜むなら最適な場所なんだよ。ここで今日の疲れを完全に癒してから向かわないと、この先もかなり道が険しいからな」
「はあ? 呪われてるってお前が今いったんだろう。そんな場所で寝ちまったら俺達が呪われるんじゃねえのか? ここは敵国なんだぜ」
「そうだな」
何を言ってもここで一晩を明かすという選択肢しかないという態度のランドにルカがぼそりとたずねた。
「なあ、ちなみにだけど、ここってどうして呪われた村なんだ?」
それを聞いたランドはルカに向って顔をにやりとさせながら話始めた。
「ああ、ここは積雪が厳しく冬が長いせいで、生活するには厳しい場所だったらしいんだが、織物が有名で、村人はそれなりになんとか生計をたてていたようだが、フツ王がクーデターを起こし、実の兄だった前王を暗殺した時、前王の后と王子が逃げ込んでかくまったとして、この村の住人全員が皆殺しにあったんだだそうだ。その時のあまりの惨劇にそれから移り住む人間もなく、今にいたっているってわけだ。そんなに昔じゃねえ、数年前の話だ」
恐ろしい話を眉一つひそめず平然と話すランドにアルとルカは顔を見合わせごくりと唾を飲み込んだ。
他の兵士達も聞いていたのかは定かではないが、いつも休憩ならワイワイと話し声が聞こえる兵士達の間にも緊迫した空気が漂っていた。
もう敵陣に入っているという現実が一段と辺りを警戒させていた。
しかしマルーシャは別だった。
この場所が敵国であることも、呪われた場所だということを聞かされても、まったく恐怖心がわかなかった。それよりも比較的温暖で、雪など冬でもめったにふらないラールシア育ちのマルーシャにとって辺り一面の薄っすらと雪化粧された美しい景色は何度見ても心がときめいた。
「ねえ、周りに人が住んでいないのなら少し散歩してきていいかしら」
「おい、気味悪くないのか?」
ルカが口を挟むと、マルーシャは笑顔で言い返した。
「いいえ何も感じないわ。それにまだ昼間じゃない」
「まっこの辺りは安全だと思うが、ここが敵陣だということを忘れるな。おいサミュ! お前も一緒に行ってこい」
「はい、すぐに行きます」
ランドは仲間達と雑談していたサミュを呼び寄せ、マルーシャについていくよう促した。
サミュはすぐにマル―シャの側まで走り寄るとランドに向かって大きく頭をさげた。
マル―シャはサミュが側までくるのを待つとサミュの顔みてから走りだした。
「わかったわ、行きましょうサミュ」
「いいか、俺達の姿が声が聞こえる範囲だけにしろ!」
ランドはマルーシャを見ずに怒鳴り口調で言った。その様子を見ていたアルがランドに聞き返した。
「おっおいランド、本当にサミュだけでいいのか? 仮にもここはもう敵国なんだぞ」
「ここは大丈夫だ、何か異変を感じたらすぐわかるだろう。あいつにも最終決戦の前に少し息抜きも必要なんだろう。それより陸から向かった仲間達の兵はまだ到着していないようだな」
ランドは付近に偵察に行っていた兵士が戻ってきてアルに報告したのを聞いていたのを見ていたようだ。
「ああ、こことは反対側の外れで、この村からペルトウ平原にでる山道がかなり荒れているようで人がのってきた様子はないようだ」
「そうか、誰もこの村には近寄っていないってことだな。ここもかなり平原よりは高い位置にある村だからな、下から登ってくるだけでも時間がかかっているのかもしれないな。遅くても明日には到着するだろう。今夜はここで待機だな」
「そうだな。しかし、本当に大丈夫なんだろうな。この場所、敵に見つかったりしないのか?」
ルカはまだ心配な様子で周囲を警戒しながら言った。
「ああ、この村に近づこうなんて命しらずのフィスノダ国民はいないはずだ」
「なあ…もしかしてやっぱり本当に出るのかあれ?」
「ぁあ? 何がだ。敵か?」
「ちげえよ、あれって言ったらあれだろうが、惨殺されたんだろう。幽霊だよ幽霊、出てきたりしないのか?」
「はあ…お前なあ、俺達は戦争をしているんだ。幽霊なんてお前の背中に何体も付けてるんじゃねえのか」
「ええっ? まっまじか?」
キョロキョロ自分の背後を気にしだしたルカを放置しランドは立ち上がると、目の前の壊れかけている家に近づくと、木戸を開きそのままツカツカと家の中に入って行った。
それをみたルカが後を追おうとしているアルに囁いた。
「なあ、俺前から思ってたんだけどよ、ランドってバケモンじゃねえか?」
「なんだルカ知らなかったのか? 普通の人間が数年で軍の第一部隊指揮官にまでなれると思うか? 今回は総指揮官だぞ」
「そうだよな…俺今夜はあいつの隣で寝ようかな」
ルカは何か思う所があるのかそう呟くとランドの後を追った。




