38、森の家と王都の学園
「ミラは、王都の王立学園に行くべきだと思います」
オルさんとエンリさんが用意してくれた、たくさんの料理を食べて、お祝いのプレゼントを貰って、ひと息ついたところでマール様がとんでもない事を言い出しました。
待ってください。
王都の学校に私が?
「あの、私は成人してますが…」
「関係ありません。オルは十八で行ったそうですし」
「あれは任務だったからなぁ」
「待ってください!マール様!私はマール様の教えを……」
「私は薬学に強いけれど、それだけです。学園のように多岐にわたり知識を深めることは、ミラにとって良いことですよ」
「何言ってるんだかもぐもぐ」
「天才なんでしょむぐむぐ」
クラウス様とエンリさんが、リスのようにほっぺを膨らまして食べています。特にクラウス様は、何年もまともなものを食べてないかのような形相です。
「結局、クラウスの姉姫を洗脳した奴は見つからなかったが、王都から出たかどうかは分からねぇ。俺らはしばらく王都で情報を集める」
オルさんは難しい顔をしてますが、「俺ら」って言ってますね。エンリさんとの式には呼んでほしいのですが……。
「オル、ミラも連れて行くと……」
「ミラはお前が守るんだろ?それとも俺がやっていいのか?」
「ですが、王都で一人は……」
「ちょっと待ってください!!」
あまりにも理不尽なやり取りに、私はつい大声を出してしまいます。だって私は……マール様と一緒に居たいのに……。
「私は王都に行きません!!マール様のそばで……ずっと、一緒にいたい、のでしゅ!!」
「……噛んだ」
「……噛んだね」
「……そこで噛むか」
「……噛んでも可愛いです」
顔が赤くなっているのが分かります。皆さん耐えきれず笑っています。もう!ひどいです皆さん!
私ったら……私ったら肝心な時に……っ!!
「じゃ、こうしたら?私に良い考えがあるんだけど」
エンリさんは豊かな胸をそらし、英雄三人を黙らせたのでした。
「……というわけでエルトーデ王立学園では、身分の差なく年齢問わず、才能のある人間が入れる知識の泉なのです。では今日のオリエンテーションはこれで終了。明日から授業に入ります」
皆が礼をする中、私は少し曲がった制服の胸元のリボンを直し、ほうっと溜息をつきました。
結局私は十六の春から、エルトーデ王立学園に通うことになったのです。
「あ、いけない、急がなきゃ!」
「ミラちゃん、王都に行かない?」
「ごめん!バイトなの!」
クラスメイトの誘いを断り、私は駆け足で寮の自分の部屋に行きます。階段を駆け上って、部屋に入り鍵をかけます。
部屋の奥にある、もう一つの扉をノックすると……
「はい、大丈夫ですよミラ」
大好きな人の声。扉を開けると、森と薬草の香り……まるでこの空間全部がマール様みたいです。
「マール様、ただいま戻りました」
蕩けるような笑みを浮かべ、私を抱きしめるマール様。
この腕が私の居場所、この世の唯一です。
エンリさんの反則のような付与魔法で寮に扉を作り、空間魔法で森の家と繋いでくれたのです。
私は学園に通い、終わってから森の家でマール様に薬学を学ぶ、そんな夢のような生活が送れるようになりました。
「クラスの人と仲良くなれましたか?」
「はい。同い年の人もいて、彼らも良い人です」
「……彼ら?」
「え、はい、男性なので……」
さっきまで甘いマール様の周りの空気が一気に冷えて、木が折れたような音がします。あ、マール様の手に持っていたスリコギが粉砕されてま……す?
「シロ、城にいる精霊使い経由でクラウスに連絡。学園の薬学の教師枠を開けさせるように」
(了解!主!)
「え?え?どうしたんですか?」
「大丈夫ですよミラ、可愛い君が安心して学園生活を送れるように、僕はしっかりと見守りますからね。村の薬は今日中に半年分作っておきましょう。ふふふ…」
マール様がとても良い笑顔を浮かべてますが、目が全く笑っていないです!
こうして、森の薬師様と私は、毎日を森で送ったり王都でドタバタしたり、まだまだ事件は起こるのですが、ひとまずこれでお話を終わりにしたいと思います。
ただ、一つ言えることは、薬師様と私の初恋は実ったということです。
めでたしめでたし…
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ここで一度完結…ですが、教師と生徒のイチャコラ交際とか、番外編か続編かで悩んでおります。
一旦お休みして、他の連載を進めたいと思います。
よろしくお願いします。




