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認め合った日

作中にて同性愛者、異性愛者について話している場面がありますが、これは、特定の人物や団体を指すものではありません。並びに、同性愛者や異性愛者を否定するものではありません。

そのことをご理解下さい。

「ゆかり。朝よ、起きなさい」

 暖かな光が目に射し込んでくる。

「もうちょっとだけ・・・」

 まだ眠っていたい。良い夢が見れたから、もうちょっとだけその夢に浸っていたい。

 大好きな人が私を起こしてくれる夢。

「起きないと・・・」

 抱きしめて、キスをして、そんな夢。

「キス、するわよ」

 目を開くと大好きな人の顔が。

「まな!」

 ガバッと起きる。少しだけ見慣れたベッドの上、なんという夢を見ていたのだろうと恥ずかしくなる。それを私が望んだからだろうか?嫌な気分じゃない。どころか、嬉しくもある。

 夢でもまなと一緒に。

 私の隣には、1人の女性が静かに寝息を立てている。

 黒く長い髪はさらさらとしており、肌は白く、まつ毛も長く、胸も大きい。私より大人っぽい女性。

 ある時から私を悩ませてる女性。

 それが今、隣で眠っている。

 あなたを思ってドキドキしてるのに。 

 だから、いたずらをしてみよう。

 夢であったように。

「まな。朝だよ、起きて」

 反応はない。よく眠りについているようだ。ちょっと違うけど続ける。

「起きてくれないと、いたずらするよ」

 その柔らかな唇にそっと触れて、顔を近づけて、

「どんないたずらかしら?」

 飛び退いた。

「わぁ~~!お、起きてたの!?」

「そりゃ名前を呼ばれれば起きるわよ」

「起きてたなら言ってよ!」

 顔が熱くなっていくのを感じる。夢に見てたより恥ずかしいことになった。

「だって、面白そうだったんだもの」

「だってじゃないよ~」

 子供っぽい、いたずらな笑みを浮かべる女性。

 櫻井まな。昨日告白され、隠してた思いをぶつけあった人。

 そう、昨日こんなことがあった。


 

「ラ、ラブって、どういう・・・」

 思わぬ告白に混乱していると、

「そのままの意味よ。私はゆかりのことが好きだわ」

「ゆ、ゆかりって」

 自分の名前を呼ばれただけなのに動揺してしまう。

「だめ?名前を呼ぶのって、友達同士でもすると思うけど」

「そうだけど、そうだけと」

 願ったり叶ったりだと思う。

 私はまなが好きだ。最初は叶わないと思ってた、その相手からの告白。嬉しくないわけがない。

 でも、急すぎる。なんといっても数日前の話だ。

「私は一度失敗してるわ。気持ちを伝えられずに、話も出来ずに、逃げるように離れたわ」

 真面目で、悲しそうな顔。

「だから、伝わらなくても話さなきゃって思ったの。ごめんなさい、あなたに言うついでに自分を奮い立たせてたの」

 まなは伝わらないと分かっていても言った。

 私とは違う。叶わないと思って諦めてた私とは。

「だって、おかしくないですか?女の子同士って」

 その常識が私を苦しめてた。日本ではレズビアンはほとんど認められていない。一部の人が好きってだけだ。世界的にみても少数だ。でも、いる。それはわかってる。でも。

 まなは、叫ぶように言った。

「おかしくなんかないわ!」

 ゆかりはビクッと肩をすくめる。

「あ、ごめんなさい・・・」

 まなはテーブルに置かれたジュースに一度口をつけ、気分を落ち着けてから話を続けた。

「ゆかりは、天動説と地動説は知ってるわね?」

 いきなりなんだろう。

「うん。空が地球を中心に動いてるか、地面が動いてるのか、って」

「そう。プトレマイオスの考えた天動説と、コペルニクスの唱えた地動説よ」

 まなは、簡単に説明してくれた。

 皆も聞いたことはあるだろう。

 昔、地球は宇宙の中心にあり、太陽や星は地球の周りを回っているという話を多くの人が信じていた。これはコペルニクスの地動説、地球は太陽を中心に回っている、と言う説に否定されるのですが、当時は観測機器もなく人々を納得させることは出来なませんでした。その後、ガリレオ・ガリレイやヨハネス・ケプラー、アイザック・ニュートンなどの多くの学者によってその正しさは証明されました。

「それがどうかしたの?」

 まなは目を伏せ語り始めた。

「天動説は、決して宗教的な理由で認められてた訳ではないわ、その当時はそうだと思われていたの。多くの人からみれば、大地に立つ私たちの周りを太陽が東から出て西に沈むように見えるもの。でも、私たちが見えている物が必ずしも正しいものではない、というのをこの天動説と地動説から知ったわ。

見方を変えてみれば、物事は大きく変化するの。

それはきっと異性愛者と同性愛者でも同じことだと思うの。どんな理由があっても、多くの人は異性愛者よ。男性が女性を愛し、女性が男性を愛する。それはきっと、どんな世の中になっても変わらないわ。

なら、同性愛者だっておかしなものではないわ。

人にはいろいろな好みがあるもの。犬が好きな人がいれば、猫好きもいる。虫が好きな人がいれば、嫌いな人もいる。大人が好きな人もいれば、子供が好きな人もいる。当然、犬も猫も好きな人だって、どちらも嫌いな人だっていると思うわ。男性が好きな人も、女性が好きな人もいるはずよ。

主語はどっちだって同じなの。人の好みを否定する権利はないわ。義務はあるはずよ、してはならないことはあるからね。

男性で、男性が好きな人も、女性が好きな人もいるはずよ。

女性で、男性が好きな人も、女性が好きな人もいるはずよ。

だから、異性愛者も同性愛者もおかしなものではないわ」

 そこで、一度言葉を切った。

 彼女の熱弁を遮ることなど出来ない。静かに次の言葉を待つ。

 まなは、まっすぐにゆかりを見て続けた。

「なにより、ゆかりを好きな私がいるもの」

 それが、どんな言葉よりも胸に刺さった。その棘が心にぽっかりと空いた穴を塞ぐようにとけて広がってゆく。

「だから・・・」

 まなは、なんとか言葉を出そうと必至になっている。

 もう、言葉なんて必要ない。

「まな。今日は一緒に寝よう!」

「え。ね、寝る?」

「うん。それで、明日デートしよう。そしたら分かるよ。言いたいこと。伝えたいこと。ね?」

 まなは驚いた表情のまま固まっている。

「あれ?おかしなこと言ったかな?私」

「ううん、おかしくなんかないわ。そうね、そうしましょう」

「うん!」

 

 そして私達は、一晩過ごし、次の日デートした。

 行き先は駅前の複合商業施設。

 ここなら、服や本、日用品から食べ物まで買えるし、映画も見れるし、ゲームセンターもある。1日じゃとても回りきれないだろう。

 まず行ったのは、洋服の店。

「似合うかしら?」

 恥ずかしそうな表情のまなが着ているのは、膝上までのミニスカート。

「わぁ~!似合う!かわいいじゃん」

「そうかしら。少し恥ずかしい・・・」

 丈を気にしているのだろうか。

「長さは制服と同じくらいじゃない?」

「ゆかりはこっちね」

 そこには、どこからか持ってきた子供用のスカート。

「履けないよ!」


 次に来たのは本屋。まなさんが来たいと言っていたので来ました。

 私も少し本を読んでみたいと思っていたので、こんな機会でないと来ない本屋にこれて良かったです。

「まな、オススメどれ?」

「そうね、これはどうかしら?恋愛もので、最近ドラマ化されたりしたわ」

「あ、見たよ、ドラマ。これならみれるかな?」

「話を知っていると、場面が想像しやすくて見やすいと思うわ」

「それからこっちも。あ、これもいいわよ」

「いや、そんなに読めない・・・」

「大丈夫よ。私がいるわ」

「意味わかんないよ!」


 映画は見たいのがありませんでした。

「また今度だね」

「そうね」



 ゲームセンターでは、プリクラをとりました。

「どうするの?これ」

「ここをこうして、こうすると」

 アナウンスが流れる。少し待つとカウントダウンが始まる。

「ほら、ここ見て。撮るよ」

「え?え、あ」

 パシャ!

 何枚か撮り終わり、外に出ると出来上がった写真が出てきた。

「これが私?」

「うん。最近のプリクラって面白いよねー」

「なんか、微妙ね」

「あはは・・・」

「普通にしてたほうが可愛いわ」

「まなはきれいだね」

「どっちが?」

「え?」

「これと私、どっち?」

「そ、そりゃあ、まなのほうがきれいだよ」

「そう」

 嬉しそうでした。


 

 いろいろと回り、気付けば夕方に。

 流石に2日間、家を父と弟に任せっきりにするわけにはいかないので、今日の夜には返らないといけません。

 まなが、私の家まで送ってくれました。

「それじゃあ、ゆかり。また学校で」

「うん。また学校で、まな」

 言いたいこと、伝えたいこと。

 言わなきゃ伝わらないけど、今だけは必要ないと思う。

 でも、言いたい。

「ゆかり」 「まな」

 2人の声が重なった。

 手を出して、まなに先を譲る。

「ゆかり。私はゆかりが好きよ」

「私も。まなのことが好き」

 2人は短くキスをした。


 いつかきっと、2人でどこかの家に住んで。

 それで、幸せな日々を過ごす。

 まだ、周りには認められないけど。

 

「もっかい」

「まなからは初めてかな?」


 それでも、一緒に。

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