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The Everest Protocol (ジ・エベレスト・プロトコル)  作者: mayvision
第三章 亡霊たちのパッセンジャー
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透明な執行猶予 

 

 峡谷を抜けた川は、嘘のように静まり返っていた。


「私たち死ななかった」


 穏やかに揺れるボートに背を預けユナがポツリと呟く。

 三人が射殺されるはずの時刻はとっくに過ぎている。

「あの未来のニュース……消えたのかな」

「本来あるべき未来が書き換えられた、と考えられます」

 真田が濡れた眼鏡を拭きながら答えた。

「僕たちが逃げきったことで、あの未来は確定しなかった」

「じゃあ七日後に核戦争が起きる未来も書き換えられる?」

 ユナが言葉を継ぐ。


 ボートはラピスラズリ色の水面を穏やかに進む。

「量子キーをラディーグのHELIX(ヘリックス)中枢に届ければ、と——ラウルは言っていました」

 真田の声は慎重だった。「ただ、あの人は全てを語っていません。量子キーが停止装置だけではないとも言っていた。中枢に届けた時に何が起きるか、分からないまま走ることになる」

「分からないまま、か」

 涼が川岸の雪山を見上げた。

 スニルは黙ってオールを漕ぎ続けている。

 三人の言葉を、川の音と一緒に聞いていた。

 平和だ。あまりにも静かで、あまりにも美しい。聞こえるのは、水を切るオールの音と、四人の呼吸だけだった。

「なあ。もし核戦争が起きても、ここにいたら安全なんじゃね」

 冗談のつもりだった。だが声が、少しだけ本気を含んでいた。

 ユナも岩壁の向こうで輝く白い峰を見た。

「確かに。こんな僻地までミサイルは飛んでこないかも」

「命の危険を犯してフランスまで行く必要が——」

「ダメです」

 真田が鋭い声で遮った。

「行かなければ、僕たちが消えます」

 真田が突き出した右手の指先が、古い映像のノイズのように揺らいでいる。

 輪郭が世界から浮き上がり、向こう側の景色が滲んで透けていた。さっきより範囲が広がっている。

「七日以内にHELIX中枢に届けなければ——僕たちの身体は消滅します」

「量子崩壊……」

 ユナも自分の手を見る。


「執行猶予は七日間」


 涼は拳を握った。透けた指先が、握りしめた掌の中に消える。

 左手が、無意識にザックのQRコードに触れていた。


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