地龍と火力と決着と
久々長い。
「いやしかし………………こうして見るとクソデカいなコイツ」
抜刀した愛刀をだらりとぶら下げ、正面から地龍を見据える。
全長が1キロ近くありそうなその巨体が右足を振り上げ。
「あっぶねえぇ?!」
勢いよく叩きつけられた足を、後ろに大きく跳んで回避。
着地と同時に突っ込んで足の上を駆け上る。
肩の上からその首めがけて跳躍、片手でしがみつき鱗の隙間を狙って………………
「【芍薬】!!」
渾身の突きを叩き込む。
直後爆ぜる刺突はしかし……………
「………痛手にならないと思ってはいたが、血が流れるだけとはな」
結果は血が出ただけ。
流石にコレはへこむ。
そんな落胆をよそに、首をふるい俺を振り落とそうとする地龍。
敢えて逆らわずに跳躍、【天歩】で宙を蹴って胸殻に張り付く。
岩盤のような鱗の隙間にブーツの先をねじ込んで踏ん張る。
黒鱗を手で掴み、こじ開けた隙間めがけ─────
「【牡丹】」
渾身の一撃を叩き込む。
鱗が剥がれ落ち、鮮血が流れるが、肉を裂くには至らない。
だからどうした。
一撃で足りないなら。
「【螺鈿蓮彫り】」
二撃目をぶち込むだけだ。
眼を見開き、上体を捻り、鱗の隙間を狙って正確に刃を走らせる。
一拍遅れて爆ぜる裂傷。
間欠泉のように噴き出す血を浴びながら、刃を引き抜く。
さすがに痛かったのか地龍が身震いし─────転がった。
「痛ってぇなぁっ………」
寸前で飛び降り、間一髪挽き肉になるのは避けたが、地べたに叩きつけられたせいで全身がクソ痛い。
ミンチに生まれ変わるよりかはマシか。
ポーション瓶を手に取り立ち上が。
「っ?!」
響く轟音。
再び地面にダイブする俺。
地面との熱烈なキス。
真横に突き刺さる巨石。
あぁ、うん。
「ふっざけんなよオイ」
正面には上体を起こし大きく息を吸う地龍の姿。
…………龍の代名詞と言えば
「くそったれがああぁぁッ!!!」
吐き出された瓦礫交じりの息吹を、ぎりぎりで回避。
思いっ切り跳躍し、左手の握力のみで胸部にしがみつく。
手の皮が切れ血が流れるが無視。
そのまま刀を右手で保持、肩に担いで脱力する。
ブシュッと音がして、更に血が滴るが構うべき場面じゃない。
全身の筋肉を脈動させ──────
「【乱れ牡丹:翔牙】ッ!」
全力で上に駆け抜ける。
胸殻の隙間めがけて斬撃を振るい、振るい、振るい。
じくじくと痛む左の掌を柄頭に叩きつけ、無理矢理切っ先を根元まで突き込み走り抜け、思いっ切り薙ぎ払う。
赤く血に濡れた刃から朱が走り、刀身からピキリと嫌な音。
幾重にも刻まれた斬撃が爆ぜ、爆発音から一拍遅れて胸殻が剥がれ落ちた。
地龍が大きく身震いし、空中に放り出される俺。
ゴウッ、と唸りを上げて繰り出された前足が振るわれ。
衝撃。
鈍痛。
衝撃。
視界がぼやけ、赤く染まる。
全身がひりつくように痛み、喉の奥からせり上がった、赤く鉄錆臭いモノが、口から零れた。
「っ……………あぁっ…………………」
とっさに刀を盾代わりにして防いだが、そうじゃなかったら今頃死んでるな。
根性で手放さなかった愛刀を手に立ち上がろうとした俺の視界に、半分以下の長さになった愛刀が映った。
……………そうか。お前イメチェンしたのか………………折れたな。
折れた。
折れた?
嘘だろ?
嘘だといってよバー〇ー。
眼の前には迫りくる地龍。
どうやらかなりご立腹のご様子。
……………本来ならば絶望的な状況なのだろうが、もう遅い。
なぜなら。
「──────『我は先達の遺せし道標を拾う者』≪始原の種火、その片鱗を望むもの≫『いまだ未熟なれど』≪いずれ破壊と焦熱の根底に至る者≫≪故に≫≪その熾火の群れを≫『螺旋の欠片を欲する』────火炎系上位魔法【陽炎の雫×16連】+撃滅魔法LV1【破砲】─────」
粛々と、朗々と、世界に宣言するように唱えられる呪文。
それはきっと、真に力をもって理を書き換え、捻じ伏せるための祝詞。
アヤメの術に合わせて切り札を使う。
「【白鯨式:戦歌】」
自身の消耗を糧に他者を強化する技。
明滅する視界の中、銀色の輝きがアヤメを包むのを確認。
俺の役目はもう果たした。
チェックメイトだ。
「……………というわけで、後は任せた。バ火力ガール」
「襤褸雑巾は黙ってろ!≪我が意を以て万象を書き換え給え≫──────【緋色の衝動】!!!」
揺れる世界の中、白く輝いていた火の玉。
紅く揺らめきながら急速に膨張したソレが弾けた。
幾重にも螺旋を描く極光の砲撃が、胸殻の剥がれ落ちていた地龍の胴を穿つ。
筋骨を消し飛ばし、焼き切り、蒸発させ───────────────────その腹に風穴を開け撃ち抜いた。
「………ぁぁ~つっかれたあぁ~」
アヤメの呻き声をBGMにポーションを1瓶。
苦い、もう一本。
腹の奥に流し込み、何とか動ける程度に回復する。
ポーションの手持ちがもうないけど。
というか吹き飛ばされた時に殆ど割れてしまった。
「うっぷ、流石にしんどオエェ……………」
グロッキーなアヤメ。
見れば周りに散乱した大量のポーション瓶。
恐らく、無理矢理魔力を回復させながら撃ったのだろう。
そりゃこうなるわ。
「レンさんアヤメさん、無事ですか?!無事じゃなさそうですね?!」
汗だくで駆け寄ってくる、ヒョロメガネの職員さん。
むさ苦しい。
出来ればリリアナが見たかった。
「しかし地龍を討伐されるとは………恐らく特別報酬が出ます。期待していてください。ご自分で起き上がれますか?」
「いや悪い。両手と左足の骨が潰れてるんだわ」
出来るだけ心がけて軽い口調で言う俺。
それすらできずにへたり込むアヤメ。
「取り敢えず、俺よりアヤメを優せ」
轟音。
揺れる視界。
浮遊感と衝撃。
一瞬遅れてきた激痛。
軋む体をこき使い、上体を起こす。
生温かいナニカが手に触れた。
びちゃっという聴きたくなかった音。
ゆっくりと持ち上げた手についていた赤い染み。
上半身を岩に潰され、色々飛び出ているそれのズボンは中央の制服。
「なにが………何があった………………ッアヤメ、アヤメは!」
現状を理解できないまま、混乱した頭でアヤメを探す。
少し離れたところで土埃にまみれて転がっていた。
外傷は見当たらず、生死は不明。
土煙の奥から聞こえてくる、割れ鐘のような咆哮。
それすらも引き裂いて現れる地龍。
奴の腹に空いた風穴が、急速に塞がっていく。
ありえない。
あっていいはずがない。
否定したいができない現実。
奴と目が合う。
嘲笑うような、悪意を帯びた視線。
地龍が目線を俺の後ろに向けた。
地面に付したままのアヤメ。
どうやらアヤメを優先して殺す算段のようだ。
いやに冷静な頭でぼんやりと考える。
腕を振りかぶる地龍。
立ち塞がる俺も限界がきている。
俺を後から潰すつもりか、一緒に潰すつもりか。
出来れば後者がいいが、どちらにしろ俺にできることはもう──────
──────白鯨式LV2【顎盾】──────
ふと脳裏に浮かぶ、例の奇跡。
あるいはこいつの攻撃ならという、打算と諦めの入り混じった心情で。
「【顎盾】」
轟然と振り下ろされた巨爪に対し、呟かれた一つの言葉。
余りにも無力なソレに、必殺の一撃が喰い千切られた。
洪水の様にぶちまけられる血液。
唖然とする俺。
もんどりうって倒れる地龍。
その横っ腹めがけて、虚空から現れた白い鯨の顎が飛び──────一撃で喰い破り、両断した。
真っ二つになって地に堕ちる地龍。
地響きと再びの土煙。
「今度こそ、死んだ、よな?」
頭を折れた刀でツンツンする。
ピクリともしない。
痛む体を堪えて蹴りを入れる。
動かない。
死亡確認、ヨシ。
「ウッシャ、今日は帰って熱い風呂にはいっ…………て?」
ぞぶり、と、自分の肉が裂かれる音がした。
喉の奥から溢れてくる、鉄錆のような臭い。
腹がスースーする。
視線を下に向けると、下腹部が抉れていた。
ごぽりと音を立てて、内腑がぶち撒けられる。
力が入らない。
世界がチラつく。
足がふらつき、立って入られなくなり仰向けに倒れ込む。
あぁ、うん。
…………ダメ、だな、こりゃ。
間違いなく死んだ。
なのに、なんでだろう。
意外に悪くない、むしろいい気分だ。
こんな状況だというのに苦笑が零れ、自身の血溜まりの中に伏して目を閉じる。
「ふわぁ……よく寝たぁ~」
この状況で寝てやがった。
………まぁ、アヤメらしいか。
「寝てないで起きてお兄ちゃん?!ちょっと!しっかりしておに………ゃ………」
暗転する視界と薄れる意識の中誰かの声がして………………………
俺は意識を失った。
クソみたいに中途半端だが第2章完!失踪はしないから安心召されよ!つうわけで!明日も書いていくz「あんた~課題終わらしたんか~?」
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