第38話 両親への道2
「あぁ‥‥そうだ、ここはカエデ村と言ったな‥‥そういえば10年も前に1度来たきりだった。」
「10年前‥‥? シリウスその時いくつだったの?」
「14だったな。親父や兄貴に世話になるのが嫌でね、飛び出して冒険者の駆け出しをしてた時だったな。」
シリウスは目を瞑り、思い出しながら私に教えてくれる。
冒険者として生計を立てるのはとても難しかった事、1日1回どこかで食事を取れればよかったこと、命かながら魔物達から逃げていた事、頼れる人が居なかったから自分でどうにかするしかなかったこと。
「‥‥その‥‥私が言うと安っぽいかもしれないけど、大変‥‥だったんだね?」
「いや、そんな事はない、確かに大変だったけど‥‥俺にとっては今に至る為に必要だった事だったのかなって思う。それにな、アラン?」
「‥‥うん?」
シリウスは一呼吸置いて、言葉を続けた。
「誰にでも大変な時期が必ず来るんだ。その来るべき大変な時期のうちに何をしたか、何をしようとしたか、考えるだけでもいい、どれか一つでも出来たなら、それが成長の一つとして積み重なっていくんだよ。」
「でも‥‥考えるだけじゃダメなんじゃないかなって思うんだけど。」
「そんな事はないよ、考える事を放棄したら世捨て人になる、それは悲しい事だぞ。俺の‥‥冒険者仲間だった奴らのうちにそうなってしまった奴も居るんだ、きっと疲れてしまったんだろうな‥‥何もかもを捨て去って、何も考えずに、しようとせずに、食事をして、眠るだけ。世捨て人になってしまえば誰でもこうなるよ。」
「‥‥私、世捨て人になる寸前だったのかな。あの時。」
オジサンから逃げ出した後、もしシリウスに見つけてもらって居なかったら、どうしていたんだろうか。
魔物に食べられていた? どこかに歩き出して、シリウスの言った世捨て人になっていた?
どちらもろくなものじゃない‥‥奇跡という言葉は嫌いだけど、シリウスに助けてもらったのは紛れもない奇跡何だと思う。
彼が居なければ、私は‥‥
「君が世捨て人になる訳ないだろ」
「‥‥え?」
「君がどんな人になっても、どんな姿になっても、俺は助けに行く。」
「‥‥死んじゃってたらどうするの?」
シリウスは笑った。
私は彼が笑う意味がわからなかった。死んでしまったら会う事なんか出来ないのに。
「死んだら確かに、俺が生きているうちは会えないだろうな。」
「そうだよ‥‥」
「でも、死んだら会いに行けるだろ? 君がどこに居ても、俺は君の所に行くよ。」
シリウスはさも当然のように言う。
どこからそんな自信というか‥‥根拠が湧いてくるんだろう?
「どこからそんな‥‥」
「どこからでも湧いてくるさ。根拠とか自信じゃない、不思議とそう思えるんだよ。」
曇りがない真っ直ぐな瞳でそんな事を言うんだから、私はどう言葉を返したらいいかわからなくなってしまう。
「アラン、君は現実的な女性だからね、感情よりも今を優先する賢い人だ。そんな君だから、死んでしまったらとか考えるんだろう? それはハッキリ言って無意味だ。」
「無意味‥‥」
「死んだときの事考えても、その後を考えても、なってみなきゃわからないと言えばそうだけど、理屈では片付ける事の出来ない事や想いが多いのは、俺達人間だけなんだよ。」
人間は進化の歴史の中で、火を使う事を覚え、言葉を覚え、作ることを覚えていく。
そのどの歴史の中でも、理屈で解決できることは多いがそれをしてこなかった。想いというものがあったからだ。
多少ではあるけれど、知識はある私の考えられる事は、シリウスの言って居る事を理解することが出来た。
「シリウスって、哲学的なんだね?」
「こんな男は嫌いか?」
「‥‥別に。」
「ハハッ、そうか。」
嫌いとか好きとかの問題じゃないし‥‥やっぱり私はこの人の事が少しわからなかった。




