逢魔が時の化身
「まずはレギオンか」
玄室を出て、はじめて外の世界を見る。
街にレギオンが迫っているからか、騒ぎが起きているようだった。
それとは反対に邸の中は静かだ。
見覚えのある部屋に出る。
どうやらここはかつての俺の邸のようだった。
ならば、どこにいるのか、どこに行くべきかは分かる。
カーテンをはがして身に纏う。
生憎と武器も鎧もない。
それでも俺にあつらえたように合うものなんてあるはずがない。
邸を出て、まずはどうするべきか考えようとして、視線に気付いた。
そこにはひとりの少女がいた。
少女がじっと俺を見て、そして口を開く。
華やかとすら見える笑みをたたえて。
「久しぶりね、少年」
かつてフェネクスと呼んだ女だ。
そうと分かるのだが、思わず警戒し、身構えかける。
これは何だ?
俺の前には何がいる?
今の骨身の視界に捉えられている姿は確かに人間なのだが、正体不明の存在としか思えない。
魔物でも、人でもない。
何よりも異様なのは、フェネクスの容貌が変わり過ぎていることだ。
それは子どものそれだった。
顔つきだけでなく、骨格も。
それでも俺には分かる。
この少女の姿をしている何かはあのフェネクスに違いないと。
「まだ俺を少年と呼ぶのか」
俺の言葉にフェネクスは笑った。
「そうよ。良かったわ。貴方に会うことが出来て」
フェネクスは笑う。
俺はその様に苛立つような衝動を覚える。
この女はすべてを知っていたのではないか?
死ぬ前も、死んだ後も。
そうとしか思えない笑顔だった。
俺がこの時、この場所に、この姿で現れるのを待っていた。
まるで測られていたように。
まるで謀られていたように。
もはや人ではないのに、人のような衝動を覚え、それが奇妙だと考えられるからこそ、余計に苛立つ気がした。
「それで?目的はなんだ?」
街には混乱が生じている。
フェネクスと話すのはいつも静寂の中。
こんな混乱で話すのははじめてのこと。
このタイミングしかないから仕方無く、この時を選んだのではないか?
「少年とした約束を果たそうと思ってね」
「約束?」
「そう。忘れたのかしら?」
フェネクスはうふふと軽く声に出して笑った。
どうにも機嫌が良さそうだが、俺はこれが人の姿をした別の何かと判断した。
かつてエキオンは言った。
これには穴が開いているのだと。
その意味が今ならば良く分かる。
コイツはもしかすると、今この場にはいないのではないだろうか?
そんな気すらしてくる。
まるでそこに穴が開いていて、そこからこちら側を覗き込んでいるような、そんな奇妙な存在感なのだ。
手を伸ばしても決して届きはしない。
真っ暗闇の穴の中に手を入れるようなものだ。
それでも視覚でははっきりそこに存在していると判断出来るからこそ、余計に違和感ばかりが強くなっていた。
「ちょっと付き合いなさいな」
そう言って、悠然と人ごみの中へと向かっていく。
俺は迷った。
ついていくべきなのかを。
フェネクスが人ごみの中に消える前に、俺はその背中を追った。
約束というのが気になっていた。
それにフェネクスはビフロンスを嫌っていた。
今更、あのクソババアに組するような真似はしないだろう。
フェネクスが向かったのは墓地だった。
ひとつの墓標の前で、立ち止まる。
俺は思わずフェネクスへと眼窩を向ける。この身体では睨むことができないのが惜しいところだ。
そこにある名前はハルモニア・ナー。
まさか、わざわざ墓参りさせるために、俺を呼んだのだろうか?
「これが約束か?」
俺にはもう彼女に出来ることはない。
約束を守れず、最後まで本当の意味では守れなかった。
祈れとでも言うのだろうか?
ただの一度も祈ったことなどなく、祈る相手を持たなかった俺に。
懺悔しろとでも言うのだろうか?
既に人ですらないこの骨身の魔物に。
「まさか。約束のついでみたいなものね。私はとても機嫌が良いの。だからサービス。ここに少年に必要な物があると知っているから来ただけよ」
どこから取り出したのか、その手にスコップがあった。
それを俺へと放る。
「掘り返せ、って言うのか?」
「そう。何も彼女の遺体をアンデッドにしろなんて言わないわ。約束する」
納得した訳ではないが、俺は墓標をどけて、掘り返し始めた。
見る必要があると思った。
その死を。
実際にこの骨身の視覚で。
「あら、君も来たのね。どうせなら手伝ってもらったら?依り代なんてなくてもきくはずよ。少年の言うことなら」
フェネクスの言葉に、フェネクスの見る先を見た。
そこには1体のスケルトンが俺へと近づいて来るところだった。
見覚えのある鎧。
見覚えのあるヘルム。
スケルトン。
だが、歩く姿は墓地の亡霊を恐れるような、そろそろと、確かめるようなそんな歩みだった。
「お前か」
すべてのスケルトンが滅んだはずだった。
そう思っていた。
実際には1体だけ残っていたのだ。
ダニエルに預け、この街に残り、今もなお。
スケルトンは俺に敬礼する。
大げさで、まるで子どものような真似事の敬礼を。
フェネクスが放るもう1本のスコップを受け取り、元から持っていた方を放る。
スケルトンは受け取り損ねて落とす。
相変わらずのマヌケぶりだ。
「バンザイ、手伝え」
久しぶりに呼ばれたのか、名前を呼ぶ俺を見つめるように眼窩で見た。
表情も何も無いただの空洞が、同じ骨身の魔物を捉えている。
果たして、俺が何者であるかが分かるのか?
そんな俺の懸念を吹き飛ばすように、スケルトンは俺へと走り寄り、そして抱きつこうとした。
「うっとうしい!」
その頭を押さえて言う俺の声は、どこか楽しげで、どこか笑っているような、そんな声の響きを確かにしていた。
露になった棺を開ける。
そこには小さいと思える骨が、ひっそりと、横たわるように並んでいた。
もはやそこに面影などない。
確かに彼女の死がここにあった。
俺の知らないところで、知らないうちに。
それはそうだろう。俺はずっと死んでいたのだから。
俺が死んでいる間に終わってしまっていた。
それだけのことだ。
それだけのこと。
「それで?お前は俺に何を見せたかったんだ?」
フェネクスへと眼窩を向けて問う。
時間というのも、そんなにはないはずだ。敵が迫っている。今もなお。
俺に必要な物とは何か?
別にここに俺の鎧がある訳でもなければ、剣がある訳でもない。
あったとしても、きっと錆び付いて使い物にならなかっただろう。
「何か気付かない?おかしいとは思わない?あの娘から聞いたんでしょう?この娘のことを」
確かに聞いた。
彼女の祖母、ハルモニア・ナーのことを。
ビフロンスから逃げ、失敗した俺のスケアクロウをここまで運びこみ、そして片腕を……。
「両腕があるな」
「正解」
確かにそう言っていたはずだ。
片腕を失ったと。
それなのに、ここには両腕が揃っている。
そう思ってみれば、その右手は左手よりも大きかった。
まるで男の手のように。
「まさか」
「それも正解」
俺の左手と比べてみれば、きっと同じ大きさなのだろう。
そうとしか思えない。
そこに俺の右手があるとしか。
「さあ、取りなさい。それは少年の右手よ」
フェネクスが手を差し出す。
そこから燐光が溢れ出す。
はじめてフェネクスが魔法を使うのを見た。
燐光は右手に集まり、それを宙へと上げる。
俺へと掲げるように。
俺もまた手を伸ばしていた。
引かれるように、右手のなくなったその腕を。
燐光が強い光を放つ。
それは茜色の光だった。
かつてのエキオンを創造した時のように眩しく光る。
そして俺は全身を取り戻す。
確かにこの骨身に右手が繋がっている。
「かつてルーク・ハドモンという少年がいた」
唐突にフェネクスが語り出した。
それは俺の知らないルークの過去。
「少年は早くに家を出て、自ら商売を始めようとしていた。ところが少年は遠出した先で盗賊に襲われる。その身に刃を受け、それでも少年は逃げ続けた」
そうして少年が辿り着いたのは、魔物が蠢く危険地帯、ハーチェク大森林だった。
「そこで少年は一度は死んだ。ところがそれを助ける者がいた。かつてビフロンスと呼ばれ、今は神を自称する悪魔がね。少年は鼓動する心臓を持ちながらも、死したる身体も持ち合わせる、半死半生の存在となった」
ルークの身体を思い出す。
まるでレッドスケルトンのようなその身体を。
「それと同じような技術を娘は見つけた。そして自らの失った腕に繋げ、確かめた。でも、娘には過ぎた手だった。魔力が足りず、望む結果は得られなかった」
「……それは、まさか」
「行きなさい。私が少年とした最後の約束がこれで果たせる。場所は少年なら分かるはずよ」
繋がった右手。
そこに繋がる微かなレイライン。
それが確かに感じられた。
「俺は何を対価に支払えば良いんだ?」
「いつだって言っているでしょう?私はただ、見たいの。私が望む光景を。私が望む結末を」
「そうか。その光景は繋がっているんだろうな?」
かつて英雄になり損ねた男が夢見た未来に。
「勿論。進みなさい。今が少年が夢見た未来よ」
バンザイが俺の手を掴んだ。
熱のない骨身の手で。
ただそっと、包むように俺の手を掴んでいる。
俺が置き去りにした自分。
幼く、弱く、こんな墓地に怯えるような忘れ去った俺自身。
最も古い自分自身が俺を見ていた。
その未来を見るように。
「行くぞ、バンザイ。お前にも見せてやる。未来を」
トレマを後にして、俺は向かった。
取り戻した右手に繋がる先を。
未来を。
最初に創造したアンデッドを俺はやっと思い出していた。
まるで右手と共に失っていたかのように。
それは1匹のカエルだった。
頭の潰れたカエル。
生きているはずのないそれが跳ねたのだ。
それを今は遠くなってしまった傷の痛みに泣きながら、血だまりの中で確かに見た。
それがビフロンスが最初に俺をきちんと認識した瞬間だったのだろう。
そして俺に色々と仕掛けを施した。あまりにも大きすぎる痛みと共に、俺は多くの感情を沈み込め、そして記憶も封じ込めた。
今もその仕掛けが生きているのが分かった。
魔力は十分にある。
この身に心臓などないというのに、魔力が衰えることはなかった。
これならば戦える。
これならば果たせる。
俺が生きていた頃に果たせなかったすべてを。
辿り着いたのはあの岩山だった。
俺がハルモニアに、ダニエルに会ったあの村の近くにある小山。
グリパンとサイクロンの死体を隠した場所。
同じ場所の岩をどかす。
そこには棺があった。
棺を開ければ出てきたのは鎧を纏う茜色の骨身だ。
それに骸骨を思わせる鎧と、俺と同じように英雄になり損ねた男が持っていた1本の魔剣。
「これが約束か」
確かにフェネクスはエキオンに言った。
魔剣はサービスで届けると。
やっとその修理が叶ったと言いたいのだろう。
鎧を見れば、その胸に開いているはずの穴がなかった。敗北のその証が消えている。
確かめるように触れると、骨身の俺でもきちんと着られるように内部も直してあることに気付く。
バンザイに手伝わせて鎧をまとった。
鎧から魔力が流れ込んでくるのを感じる。
魔剣を背に納め、すべてが整ったことを喜ぶようにバンザイが両手を上げる。
魔力を注ぐ。
右手に。
その骨身に刻まれた刻印に。
「応えよ」
茜色の輝く門扉が現れる。
その門扉に魔力が満ちる。
扉と共に浮かび上がるように立ち上がった。
骨身の魔物が。
かつて俺に仕え、そして俺と共に戦った片腕たる存在が。
その名前は。
「エキオン」
骨身となって再生し、その右手は失われていた。
だから滅んだと思っていた。
だが、エキオンはずっと待っていたのだ。
俺がこうして再び呼び出すこの時を。
エキオンが跪いて礼をとる。
「私の名前はエキオン。スパルトイに名を連ねる者のひとりなり。身命を賭して、再びマスターに仕えよう」
エキオンの言葉に俺は頷いた。
「さて、早速で悪いが仕事だ。また死体の山を掃除に行くぞ」
「またアレか?よくもまあ懲りないものだな」
エキオンは立ち上がりながらも、うんざりといった様子で答える。
何も変わらない。
面倒げで、退屈にすぐに飽く。
そんな骨身のアンデッドの姿がそこにある。
「そういえば昔、お前は俺に聞いたな」
「ん?」
「俺がスパルトイを得て、何を目指すのかってな」
死体が死体を操って、それで何を為すのか。
自ら望みを持たない、それでも意志を持った2体の骨身が、何を目指すのか。
約束を果たす?
それは確かにこの身に宿っていると言っても良い、最上の命令のようなものだ。
俺は意識して笑った。
骨身のこの身体に、そんな感情など無くとも、俺は笑う。
「好きにしよう。エキオン。何から逃げることもなく、死を恐れることもない。大森林のすべての魔物を滅ぼしても良いし、俺とお前でブレーヴェに乗り込んで、あの国の軍を打ち倒したって良い。俺たちはどこにでも行ける。何でもやれる」
だから好きにして良いのだ。
もう何も俺たちを縛るものはない。
時間すらももう俺たちには関係ないのだから。
「ならば、ゴミ山を掃除して、あの気色の悪いババアを討ち滅ぼすとするか」
かつての敗北をエキオンは忘れていなかった。
俺もまた忘れていない。
「そうだな。そうするのが良い」
エキオンもまた笑っていた。
表情などない骨身の顔で。
そんな俺とエキオンの様子をバンザイは首を傾げて見ていた。
今の俺にある望み、それはかつてのあの男の残滓みたいなものだ。
それはやがて薄れ、消えてなくなってしまうかもしれない。
永劫の時間に飽いてしまったとしても、俺は忘れない。
エキオンとの新たな約束を。
この契約を。
「相も変わらず馬鹿でかいな」
呆れるようなエキオンの呟きに俺も頷いた。
遠くのはずなのに、はっきりと屍肉が蠢いているのが確認出来た。
群体アンデッドのレギオンがトレマを目指してじわりじわりと進んでいる。
「それで?どうするつもりだ?マスター?」
「骨身のアンデッドがたった2体で殴り掛かるにはちょっと骨が折れそうだな」
大して面白くもない冗談だったが、そもそも冗談としてエキオンには通じなかったようだ。
「折れるどころか、今度は溶かされかねないぞ?」
前回の最初の失敗のことをどうやら気にしているらしい。
見事にアカツキもエキオンも呑み込まれていたな、そういえば。
「実はな、この身体になって少し出来ることが増えた」
全身のレイラインに巡る魔力を励起させる。
俺がまだ生身の肉体の時にもやっていた強制的な魔力の増幅とそれに伴う肉体の強化。
茜色の燐光が俺の全身を包む。
そして魔力が巡る。
いつまでも、いつまでも。
「……ちょっと反則じゃないのか?それは」
エキオンが呆れたような声を出した。
巡る魔力、その流れによって新たな魔力が生じ、それは全身のレイラインを回り続ける。
もしこれが生身の肉体であれば、全身の血管が耐えられない。魔力の励起によって生じた熱は身体を蝕む。
だが、俺は今では骨身のアンデッドだ。
苦痛などない。
どれだけ発熱しようとも、それに耐えられないなどということもない。
膨大な魔力が俺の骨身を巡っていく。
これこそがあのクソババアが俺の身体に仕掛けたというレイラインの正体だ。
俺はそうとは知らずに、ドラゴンの因子を持ったことで自力で行っていたのだ。
俺の魔力が高まれば、それを共有しているエキオンも同じことだ。
「さて、それじゃあアレはお前に任せるか」
軽く言う俺に、エキオンは応えた。
「是非もない!」
バンザイが敬礼して見送り、律儀にエキオンがそれを返してから走り出す。
その手に茜色の輝きが灯る。
俺の無尽蔵の魔力を得て、刃が生じる。
長く、長く、長く。
地の果てまでも届きそうなそんな魔力刃。
接近するエキオンに気付いたのか、レギオンがいくつものゾンビを束ねて触手のような腕を形成し、襲いかかってきた。
それをエキオンは苦もなく両断どころか、細切れにした。
「お前の方が反則だろう」
見てる俺が呆れた。
巨大な相手に挑むのに、剣では不足。
でもそれに両断するに足る長さがあったならば?
斬撃のひとつで数十体どころか、百を超えるようなゾンビが千切れていく。
どこにリッチがいるかなんて関係ない。
あまりにも簡単にエキオンは削ぎ落していく。
「ああ、あそこか」
やがて小さくなっていく死体の山の頂上に骨身の魔物が姿を現した。
あれもきっとビフロンスの記憶と知識を受け継いだ、まごうことなきビフロンスなのであろう。
エキオンの刃はレギオンの中枢にすらも届きそうなのだ。
そう考えれば、一番てっぺんが確かにエキオンの刃からは遠いかもしれない。
結局は一緒のことなのだが。
リッチが魔法を放つ。
それをエキオンは茜色の燐光を残して躱した。
後ろ盾となっている魔力の桁が違うのだ。
俺が生身の人間だった頃とはその動きもまるで比べ物にならない。
そして跳ぶ。
飛翔する。
一直線に。
骨身の魔物の喉元へ。
まず首が離れ、そして身体が縦に割れた。
一度目の斬撃でリッチは事切れていただろう。
そして二度目の斬撃がレギオンすらも切り裂いた。
バンザイが両腕を振り上げる。
「久しぶりに見たな。それ」
いつまでもバンザイが繰り返し腕を振り上げていると、エキオンが戻ってきたので、俺は拳を差し出した。
そこにエキオンが拳を合わせる。
そんな俺たちの周りをくるくるとバンザイが回る。
「さて、掃除は終わったし、次に行くか」
「そうだな。さて、バンザイ、お前はここまでだ」
俺の言葉にバンザイが両腕を下ろして首を傾げて眼窩を向ける。
どうして?と聞くように。
「お前の依り代を俺は持っていない。お前の魔力はトレマに戻るくらいしかもう残っていないだろう?」
依り代がなくては魔力の補充が出来ない。
魔力がなくては、連れ歩くことなどできないのだ。
バンザイにもそれが分かっているようだった。
駄々をこねたりもせず、ただじっと俺に眼窩を向けてくる。
「お前が伝えるんだ。彼女に。ハルモニア・ナーに。レギオンを倒したと。そしてビフロンスをこれから倒すと。良いな?」
どれだけの間、俺を見ていたのか。
やがてバンザイは俺に頷きを返す。
そしてエキオンに大げさな敬礼をしてから背を向けた。
トレマへと向かって、とぼとぼと歩き出す。
何度か途中、振り返ることもあったが、最後は振り返らずにまっすぐに進んでいった。
「ところで、ハルモニア・ナーってどういうことだ?」
バンザイが振り返らなくなったあたりで、唐突にエキオンが俺に尋ねてきた。
そうか。
こいつはずっと封印状態だったから、何も知らないのか。
「ゆっくり聞かせてやるさ。どうせデストピアまではまだまだある」
レギオンのいる方へ、それが元来た方へと向かって歩き出す。
話すべきことは色々あるだろう。
それを話す時間も十分にある。
なにしろ、俺にもエキオンにも眠るべき夜などないのだから。
諸悪の根源であるビフロンスのもとに、デストピアへと向かって歩きながら語った。
この世界の未来の話を。
レギオンが通ってきた道をそのまま辿ってデストピアへと入る。
大森林を抜け、荒れた荒野を歩き。
魔物の姿はない。
それに人も、動物も、生きるものの姿はどこにもない。
あるのは影だけだ。
おそらくは猛毒であろう霧の中をさまよう骨身の影が。
俺とエキオンは影を見つける度に滅ぼして歩いた。
単なる嫌がらせだ。
これだけ激しくドアベルが鳴り続けたら、ビフロンスも異常を察するだろう。
俺が再び現れたことを知らせるように、スケルトンを滅ぼして歩く。
やがて霧の向こうにひときわ大きな影が見える。
そこはかつては城だったのだろう。
だが、生きていた頃に見たそれとは違って、そのほとんどが今は崩れていた。
きっと戦術魔法が放たれた結果なのだ。
その様子を見ても、俺は城へ、その中へと入った。
霧が晴れる。
無数のスケルトンが、いや、ディガーダーがたむろしていた。
「ちょっとは歯ごたえのあるのが来たぞ」
「それじゃあどちらが多く倒せるか、競争といこうか」
エキオンがその手に魔力の刃を生む。
「いや、お前の方が有利すぎるだろ、それ」
そう言って背から抜いた俺の剣にも光が灯る。
緑色の鮮やかで、艶かしい光が。
「マスターの剣だって似たようなものだろう?」
一斉にディガーダーが剣を、盾を構えて殺到してくる。
俺はその最初の1体を、剣と言わず、盾と言わずに、鎧ごとすべてを両断した。
はじめて使ってみたが、かつてフェレータが俺よりも強い興味を示したのも納得出来た。
「確かにな!」
俺とエキオンは苦もなく押し通っていく。
すべてのディガーダーを倒すのに、どれほどの時間がかかったろうか?
意外なことに、エキオンよりも俺の方が多くのディガーダーを倒していた。
すると、エキオンは両手に魔力の刃を生んだ。
「今度はこれでいこう」
「もう競争はなしな」
もしも人間であれば、仮に汚染を抜けてここまで辿り着けたとしても、その疲労は甚大だろう。外のスケルトンを倒し、そしてこれだけのディガーダーが中に配されていれば。
魔力は尽き、体力は尽き、そしてビフロンスの姿を見ること無く命運が尽きる。
そういう配置だった。
だが、俺にもエキオンにも体力などない。
ただ魔力の続く限りに動くだけ。
上へと上がり、見覚えのある部屋、謁見の間を抜ける。
やがてひとつの部屋へと辿り着く。
玉座の間。
かつて俺が死んだ最期の場所。
そこには空が見えた。
戦術魔法で上にあったなにもかもが吹き飛んだのだ。
魔法でどうにかしているのか、不思議と霧は薄く、星空が見えた。
月はない。
霧と相まって人間であれば不気味な暗さを覚えるであろう、その暗闇の中で俺は対峙する。
玉座に座るかつての敵と。
「……スパルトイ?まさか、坊やなのかい?」
「……こんな骨身になっても分かるんだな」
「おやおや。感動の再会ってやつだね。まさかお互い骨身になってまた会うとはさ」
そこにはビフロンスだけでなく、アーレスがいた。それにルークも。
未だ滅びずに仕えていたらしい。
「俺もまさかと思うよ。今更こんな復讐めいたことをしに来るとはな」
「復讐?それをしたいのはアタシの方さ。こんな場所に押込められることになったおかげでアタシは自由に研究するのも難しくなった。あの時、坊やの身体さえ手に入っていれば、何もかもが違っていたのに」
その言葉には意外なことに本当に悔しさが感じられた。
人間は追いつめられていたようで、実際にはこの魔物のことも追いつめていたのだろう。
アーレスが段上から下りた。それにルークも。
まさか骨身になったから仲間にしてくれなんて言いに現れたとは思っていないということだ。
「それは良かった。本当に。これでやっと終われるんだからな」
「終わる?ずっと前にお前は終わっていただろう?何を今更。アタシを殺したって生き返れる訳でも無し。でもね、坊や。坊やがまた滅ぼされたいと言うなら協力しようじゃないか!」
業火が吹き荒れる。
ビフロンスとルークが同時に放った業火が。
それをエキオンが創造した両手の魔力剣で切り払う。
「エキオン。ビフロンスとルークを抑えておいてくれ。抑えるだけで良い」
「分かった」
俺もまた剣を手にして向かう。
アーレスに。
対峙することすらままならなかったかつての師に。
「大した剣のようだな。だが、剣だけが良くても勝てんぞ」
「そうだな。だからあんたには剣じゃなくて俺の力で勝つよ」
剣に灯る緑色の光が消える。
こうなってはただの剣と変わらない。
「罠か?」
いざという時になってから魔剣に魔力を通そうと?
違う。
「そう思うなら、思っていれば良い」
構える。
正眼に。
アーレスは上段に構え、にじり寄ってくる。
もしも俺がかつての生身であったならば、その姿が一瞬かき消えたように見えたかもしれない。
だが、眼球の動きで相手の動きを追うのは人間のすることだ。
俺は眼窩でもってただ視界のすべてを認識しているだけ。
何も追わず、だからこそ俺はアーレスの剣を受けた。
ずしりと重い。
しかし、きちんと受け、そのまま返せる。
いったい、今の俺はなんなのだろうか?
デスナイトでもなく、スパルトイでもない。
デス?
だが、大した魔法が使える訳でもない。
なんだって良い。
ただのスケルトン。
それで良い。
俺の振るう剣はあっさりと躱された。
受けずに躱したのは魔剣を警戒してか。
躱したついでに剣が差し込まれてくる。
かつて散々見てきた剣だ。
それを懐かしんだりはしない。
これを変に躱すと突きが斬撃に変わる。
剣を戻し、受けた。
なめらかに攻撃が防御へと変じる。
まるでアーレスと同じように。
「ふん。鈍ってはいないようだな」
「いつの俺と比べている」
振り下ろした剣をバックステップで躱された。
俺は水平の位置で剣を止め、突きへと変える。
それも更なるバックステップでアーレスは躱す。
俺が突き出した剣は退がりながらも振られたアーレスの剣に弾かれた。
剣先が天を差す。
その時には既にアーレスは後退から前進へと転じていた。
横薙ぎの斬撃。
それをむりやりに引き戻した剣の柄で受ける。
「訂正しよう。やるようになったな」
「言ってろ」
俺の放った蹴りはアーレスの腹を捉えた。
はじめて攻撃が当たった。
それが例えただの体術でも。
間合いが空く。
どうやらアーレスはその一撃でもって、警戒の度合いを引き上げたようだった。
つい息を吐き出そうとして、この骨身にそんなものはないことを思い出す。
そうだ。
今の俺に呼吸はない。
いつまでも攻め続けられるし、いつまででも受け続けられる。
ここからが本番だ。
デスナイトの剣技の真骨頂は、呼吸無しにずっと打ち続けられる事だ。
それも自身の最も強い斬撃を。
斬撃は軌跡になり、軌跡はいつまでも俺の体中を打ち付け続ける。
どんな剣の達人でも成し得ない、無限の斬撃。
相手の息が尽きるまで。
相手が根を上げるまで。
相手の息の根が止まるまで。
もしも生身の肉体であれば、分の悪い勝負にしかならない。
視界の端では、エキオンが縦横無尽に動き回ってビフロンスとルークの魔法を切り払っていた。
俺の方にはひとつの魔法も飛んでは来ない。
気にする必要すらなさそうだった。
むしろ、どこか楽しげですらある。
そんな気配が確かにある。
その骨身に受ければ必滅になりかねない強力な魔法を相手にして。
好きにしろ。
そう心の内で命令して、俺はアーレスへと斬撃を放つ。
アーレスもまた尽きることのない斬撃でもって俺を襲う。
延々と繋げられ続ける剣閃。
いったい、いかなる達人の肉体の記憶によるものなのか。
アーレスは魔剣を警戒するように、ほとんどの斬撃を躱していく。
受けることなく避け、それでも確実に必滅の一撃を放ってくるのは世界最高の剣技と思えた。
それにただの1体で立ち向かっていく。
焦りはない。
出来ると信じる必要もない。
ただ為すだけだ。
己自身の命令に忠実に。
デスナイトと言えども、その動きに限界が無い訳では無い。
たとえば肩、肘、手首の可動域は決まっていて、それを超えた動きは出来ない。
そんなところは人間と変わらないのだ。
やっとアーレスの斬撃を弾いた。
弾いたならば、少しでも次の斬撃に繋げにくい方へと向かわせる。
アーレスの骨身の負担がかかる方へと。
そこから可動する関節の動きは狭く、そしてそれは容易に次の行動を俺に予測させる。
アーレスの突きをかわす。
追撃のパターンが少なくなり、俺の攻撃のパターンの方が増える。
実質的な剣技はアーレスの方が上のように思えた。
だがそれを魔力で補い、力と速さに変えて支える。
呼吸などない。
好きなように自分のリズムで戦う。
時に崩し、時に早め、守り、攻める。
最初は互角だった。
譲らず、譲らせない。
それが段々とずれていく。
アーレスが段々と俺の斬撃を避けられずに受けるようになった。
俺の斬撃を受ける度に、アーレスの動きに制限が増えていく。
剣戟は加速していく。
いつしかお互いの斬撃を打ち付け合い続けていた。
お互いがお互いの動きに触発され、一瞬の乱れも許されない状況へと到達していく。
俺はそれをどこかぼんやりとするような気持ちで眺めていた。
エキオンもこんな風にして戦っていたのだろうか?
苦しさはない。
ひとり砦へと向かい、攻め落とした時よりも。
どんな大軍に囲まれた時よりも。
ドラゴンに、フェレータに挑んだ時よりも。
かつて生きていた頃に俺を縛り付けていたあらゆるものが消え去っている。
呼吸。
鼓動。
疲労。
体力。
集中力。
なにひとつとしてこの骨身には存在していない。
あるのは純粋な剣の道筋のみ。
もう自分がかつて呼吸をどうやってしていたのかなんて覚えていない。
まるでデスナイト。
まるでスパルトイ。
剣を振る。
唐突に分かった。
そうか。
これが俺という存在のすべてか。
そう確信した時に届いた。
俺の剣が、アーレスに。
「滅べ」
「ミストレスからそんな命令は受けていない」
「そうか」
手にする剣に魔力を注ぐ。
緑色の光が溢れる。
「じゃあな。アーレス」
かつて剣を俺に教え、そしてその生身に恐怖を刻んだ骨身の剣士。
その首が飛ぶ。
これが生きていた頃にできたならば、俺はきっとあらゆる恐怖を克服し、そして進めたことだろう。
未来へと。
彼女と共に。
「アーレス!!」
ビフロンスが叫ぶ。
だが、既にアーレスは崩れ落ち、二度とその鎧われた骨身が動くことはなかった。
「おのれ」
ビフロンスが床に手をつく。
業火が走る。
まるで火柱が迫り来るような、そんな以前よりも強い炎。
それが俺に届く前にエキオンが間に入り、刃を振るう。
床に爪痕が刻まれるように、深い斬撃が炎を断ち切る。
そこに張り巡らされたレイラインごと。
「エキオン、ルークを滅ぼせ。ビフロンスは俺が滅ぼす」
「やっとか。もう少し掛かるようなら私の方で片付けてしまおうかと考えたところだった」
「悪いが譲ることはできんな」
エキオンが走る。
俺はゆったりと歩いて向かう。
骨がきしむ恐怖が記憶にはある。
だが、その記憶を思い出してももう恐怖はない。
ただ、そういう記憶があるなと思い返すだけだ。
「なんだその姿は!?それではただのスケルトンのようではないか!そんなものがアタシの前に立ちふさがるな!」
俺の頭蓋骨、ただの白い骨身をその眼窩でとらえてビフロンスが叫ぶ。
確かにそうだ。
一見すればただのスケルトン。
ただの骨身の魔物。
だからどうした?
魔力をより一層励起させた。
茜色の燐光が身を包む。
魔剣が強い光を放つ。
「恐怖せよ!アタシこそが恐怖そのもの!あらゆるものに死を!滅びを与える神!それがアタシだ!」
業火と雷撃が同時に襲い来る。
それを魔剣で切り払う。
レイラインが断たれて魔法は霧散する。
「なぜだ!?アタシはお前に勝った!それなのに何故今更また現れる!?お前は過去だ!遠い過去!そんなものにどうしてアーレスを滅ぼされなくてはならない!?」
ビフロンスの座る玉座。
それのある檀のすぐ下に辿り着く。
その時にはもうエキオンがルークを追いつめていた。
いくら強力な魔法でも、そのレイラインを断ち切られてはどうしようもない。
「別れの言葉は必要ないだろうがな。一応言っておこう。ガミジンだったか?悪魔を自称するには少々意志が足りなかったな。お別れだ」
エキオンが刃を伸ばす。
長大な刃が放たれようとしていた魔法ごと断ち切られた。
かつてルークという人の名前を持ち、そしてガミジンという悪魔を名乗った1体の骨身のアンデッドが崩れた。
もう残るのはただひとつのアンデッド。
神を自称する、ただの魔物。
「アタシは滅びない!絶対に!かつて存在し、永劫に存在し続ける!アタシは王だ!アタシは神だ!アタシは悪だ!!」
ビフロンスが玉座から立つ。
そのまま身体がふわりと浮いた。
跳んだのとは違う。
膂力でもってではなく、魔法でもって浮いたのだ。
「逃げる気か?」
「逃げる?どうしてそんなことをする必要がある!?滅べ!滅べ!滅べ!!アタシは滅ぼす!すべてを滅ぼす!見るが良い!これが魔法の究極だ!!」
ビフロンスが巨大な発光する魔法式をレイラインで描く。
空に光が満ちる。
すべての星の瞬きすらもかき消して。
それに呼応するように、城に、街に、デストピアすべてにレイラインが浮かび上がる。
「戦術魔法か」
アキュートには他にも戦術魔法があったのか。
どうやらそれが起動しているらしかった。
何が起こるのかは分からない。
だが、こんなにも巨大な魔法式でもって発動する魔法が俺やエキオンの剣で斬り散らせるとは思えない。
そんな魔法がわざわざ完成するのを待つ必要はないだろう。
ビフロンスはどんどんと高く浮かんでいき、空へと消えていく。
巨大な魔法式の一部となって。
「エキオン」
「行くのか?」
「ああ。きっちりと終わらせよう。俺と、お前で」
エキオンが俺から距離を置いて立つ。
俺は走る。
ひと蹴りひと蹴りが床を割り砕く。
エキオンの前で跳ぶ。
エキオンが両腕の刃を消して、待ち構える地点へと。
エキオンの手に足が乗る。
「行け!終わりを!未来を!私に見せてみろ!!」
エキオンが両腕を振り上げる。
俺もまた跳んだ。
力の限りに。
魔力の限りに。
2体の力が合わさって、空高く飛翔していく。
光の尾を引く流れ星となって巨大な魔法式、その中心へと。
「邪魔をするな!」
ビフロンスが魔法を放つ。
こんな状況でも、やはりふたつの魔法を同時に操れるようだ。
なんの魔法なのかを判断するよりも早く、斬り払う。
「無駄だ!」
勢いは衰えず、俺は確かに到達した。
輝く星の他には、並ぶもののない空の高みへと。
「言ったはずだよ!アタシは剣も使えると!」
その手に刃が生じる。
それはエキオンと同じ創造魔法。
俺の刃とビフロンスの刃がぶつかる。
二度、三度と刃を打ち合わせる。
そこで俺の推力は使い果たしていた。
身体が重力に引かれるのを感じる。
まだ落ちるな。
落ちる訳にはいかない。
ビフロンスが笑う。
狂ったように。
その哄笑が夜空に響き渡る。
「落ちろ!それでお前らは終わりだよ!アタシの勝ちだ!勝ちだ!勝ちなんだよ!!」
ビフロンスの哄笑に、俺もまた笑った。
「ひとつ教えてやる。勝ったとは、終わってみてからはじめて言えるものだ。まだ終わってない。そうだろう?エキオン」
「……なに?」
それはビフロンスには死角だったのだろう。
幾ら眼球のない、広い視角を持っている骨身のアンデッドでも、全周が見えている訳では無いのだ。
ビフロンスの身体を貫くものがあった。
まっすぐに伸びる1本の細い槍。
それが確かにビフロンスの骨身を砕く。
その背骨を。
「か……この槍は……」
俺が考える中で、これ以上ない最悪の事態というのは、あらゆる前提が覆る、想像の範囲外からの一手だ。
それをビフロンスが受けていた。
地上で為す術もなくただ見守っていただけのはずのエキオンから。
俺はそれを隠すように、ただここにあればそれで良かった。
ビフロンスを貫いた槍が霧散する。
エキオンの手から離れて魔力がもたなかったのだろう。
かつて彼女が持っていたそれに酷似した魔法は幻だったかのように消えた。
「アタシは……王……アタシは……かみ……」
「そうだ。お前は王だ。だが神じゃない。滅べ。アンデッドの王。その玉座から追われる時が来た」
「お前は……なんだ……?」
デスナイトでもスパルトイでもない。
ひとりの老婆が夢見たデスでもない。
ただのスケルトン。
ただの骨身。
悪魔でもなく、ビフロンスでもない。
人に使われ、人に尽くす。
それだけの奴隷の魔物。
それで良いんだ。
「俺はあんたの終焉。あんたの黄昏。人に仇なす化け物が最期に会う魔物。逢魔が時の化身」
ドラゴン。
フェレータ。
レギオン。
リッチ。
ガミジン。
デスナイト。
そしてビフロンス。
いずれも人に仇なす化け物だった。
それを俺はすべて滅ぼした。
落ちる。
その直前に剣を振るった。
ギリギリで届いた刃がビフロンスの頭部を砕く。
「この身の名はオウマ。ただのスケルトンなり。人の平穏を守り、人の世のために仕えよう。じゃあな、クソババア」
化け物が滅ぶ。
同時に魔法式も霧散する。
空に闇が戻った。
あるのは瞬く星の輝きだけ。
その中を俺はまっすぐに落ちていく。
「この高さで無事に下りられるかは……まあ、試してみるしかないか」
暗闇の中を落ちていくと、不意に光が見えた。
地平線が明るい。
夜が明けようとしている。
朝日がすべてに光を届け、照らし出す。
世界が明るくなっていく。
もう闇は不要とばかりに。
「見ているか?エキオン。ハルモニア。見ているか?バンザイ」
これが未来だ。
今が未来だ。
これから幾らでも照らしていける。
世界を。
グリパン。
リンクス。
ニック。
フィリップ。
バレット。
見ているか?
ハルモニア。
「こんなにも眩しい世界を。見ているか?」
みんな。
みんな。
見ているか?
この後、19時に最終話「あとがきがわりに」を公開いたします。




