story No.3
今夜も藤崎君が家にきた。
『それでね、グッズとか超高いの。あれは詐欺よ。愛美もよくあんなもの買うわ』
「ハハっ。で、コンサートはどうだった?」
『あー、席がアリーナ席でね、ハイタッチしたの。えっとー、あの人。あっ、恭ピー』
「へぇー、すごいじゃん」
『うん。kiss-jはめったにボディータッチしないから、運が良かったみたい。愛美なんか、一生手を洗わない!とか言っちゃって』
「でも、その気持ち分かるな。大好きな人に触れられたとこを洗い流したくないよ」
『でも、一生なんてバカげてる。kiss-jだってただの男じゃない』
「まぁ、そうだね」
藤崎君は笑っていた。
会社でふと愛美のペンケースを見た。
恭平と書かれたキーホルダーが目に入った。
『愛美、これなに?』
「えっ?昨日コンサートで買ったやつ」
『恭平って誰?』
「ちょっと、梨子は恭ピーのフルネも知らずにコンサート行ったってこと?恭ピーはふじさき恭平のことよ。ちなみに、優さまは松田優馬。良い名前よねー」
『ふじさき?って、どんな漢字?』
「だからー」
と言って愛美はメモ帳に藤崎と書いた。
『藤崎恭平ってボクシング選手でしょ?』
「ちがうわよー。あれは役柄よ」
『役柄?』
「恭ピーは今、ボクシングのドラマ出てるの。主演よ。月9だから今度見てみて。てか、梨子も恭ピーに興味持った?…梨子?聞いてる?」
『あっ、聞いてる』
まさか隣の藤崎君…
な訳ないよね。そんなアイドルが隣に住んでるなんてあり得ない。
きっと同姓同名よ。
とは思いつつも、帰ると愛美に1ヵ月以上借りっぱなしのDVDを見た。
セクシーなオーラで踊っているkiss-jの中に、……藤崎君っ!!
そっくり!!っていうか本物!?
急いで藤崎君の家のインターホンを鳴らした…ものの、何て言えばいいか分からない。
変に『あなたアイドルだったの!?』などと言えば、今のこの関係が壊れてしまうかも。
玄関前でもじもじしていると、見知らぬ男の人が出てきた。
「はい?」
『えっと、あの、藤崎君いますか?』
「あー、今コンビニ行った。5分くらいで帰ってくるけど。」
『そうですか…』
「何の用?」
『藤崎君に聞きたいことがあって…』
「何なら伝言しとくけど」
『いえ、自分で直接本人に聞きたいんです』
「あっそ。コンビニ行っただけだから、すぐ帰ってくるけど。中で待ってれば?」
『あっ、すみません。じゃあ、お言葉に甘えて。』
中に入ると、以前この部屋に来た時と同じだった。部屋を見渡すと、kiss-jのポスターを見つけた。
やっぱり、kiss-jのメンバーなのかな。
コンサートの日にメガネ持って行けばよかった。ハイタッチしたときだって、ファンの女の子に押し潰されて、顔を見るどころじゃなかった。
「ねぇ、君もしかして、酔っぱらって恭平の部屋の前に寝てたって女の子?」
『えっ?』
急に聞かれて驚いた。
『どうして知ってるんですか?』
「いや、恭平ってあんまり女の子の話しないんだ。だけど、君のことは毎日のように俺に話してくんだよ。まさかこんな真面目そうな子をねー。恭平らしくないな」
とニヤニヤしながら言ってきた。
『それ、どういう意味ですか?』
「わかんねーの?だから、たぶん恭平は…」
「ただいまー!おい優馬!後だしで俺に買わせに行くとか卑怯だぞー」
藤崎君が帰ってきた。
「おつー!お客来てるよ」
「客?…梨子ちゃん。どうしたの?」
『あのっ、勝手にお邪魔してすみません』
「そんなのいいよ」
「聞きたいことがあんだって」
「何?」
優馬?もし藤崎君がkiss-jのメンバーでこの人もそうだとしたら、
『松田優馬』
口に出していた。
二人が私を見ている。
『…松田優馬さんですか?』
「そうだけど?」
『じゃあ…やっぱり藤崎君は…ボクシング選手じゃないんですね』
「…ごめん」
「あーあ。バレちゃったか」
『やっぱり…』
「Kiss-jだよ。黙ってて本当にごめん」
私はそれどころではなかった。
藤崎君がkiss-jのメンバーだとすると、私は1ヵ月以上、週4回くらいアイドルと一緒に晩ごはんを食べてきたわけだ。
それに、昨日はそのkiss-j本人の悪口まで言ってしまったのだ。
「梨子ちゃん?」
『ごめんなさい。私、知らなくて…アイドルと
…』
「何で謝るんだよ」
『だって、もし私と晩ごはん食べてるなんてファンの人にばれたら…』
「そんなこと気にすんなよ」
『本人の前で悪口も言っちゃったし…』
「晩ごはん?悪口?どういうこと?」
藤崎君が今まで2人の関係を優馬に話した。
「おいおい、俺たちは天下のkiss-jなんだぜ?そんな勝手なことして。週刊紙にでも撮られたらどーすんだよ!?」
『しゅっ週刊紙?私、ほんとに身勝手なことを』
「梨子ちゃんは謝る必要ねぇーよ。俺がじぶんで判断して、梨子ちゃんと会ってたんだ」
『藤崎君…』
「それに俺、ほんとの正体バレたら梨子ちゃんにいいたいことあるんだ」
「恭平、やめろ」
「優馬…」
「おい、お前はこんな女タイプじゃねぇーだろ?一時的な気持ちだよ」
「そんな中途半端な気持ちじゃねぇーよ。たのむ、俺を信じてくれ」
何の話?
「梨子ちゃん」
『えっ?』
「俺、梨子ちゃん好きだ」
『私も藤崎君好きだけど?』
「いや、そういう好きじゃなくて…付き合ってほしい」
『……えっ?何言ってるの?藤崎君、アイドルじゃない。付き合えるわけないじゃない』
「俺らは仕事柄、恋愛とか出来ないんだ。だから今までたくさん諦めてきた。だけど、梨子ちゃんだけは…梨子ちゃんだけは…離したくないって思った」
『藤崎君…』
「だから、俺真剣だから。梨子ちゃんもアイドルだからとかじゃなくて俺と付き合うこと真剣に考えてほしい」
『だけど、アイドルとなれば話は別よ』
「それは十分分かってる。だから、よく考えて決めてほしい」
『…少し時間ほしい』
「うん。」
ひとまず家に帰った。
藤崎君が使ったコップを手に取った。
藤崎君が一般人なら、絶対にOKしていた。
だって、藤崎のこと好きだった。
だけど、アイドルなんて…
その日の夜は眠れなかった。
つづく




