第三十四話 精霊祭の準備
明日はこの村の精霊祭だ。しっかりと準備をしなければ、と村長は考える。
あと何回精霊祭が見れるか分からないこの老体が嘆かわしい。準備の協力をしたいのに動かないこの節々が気に入らない。
だが、愚痴なぞ溢してる暇なんて無い。出来る事をする、それが役割分担だ。
村長は指示を出す。次何をするか、何をしたら良いかの指示を。冒険者パーティーには、村周辺の森の安全確認をしに行って貰った。
あの様な悲劇が…まだ幼い子供が亡くなり、豚人なんぞの脅威にビビる様な事はあってはならない。平和に平穏に、皆に楽しんでもらい、精霊達を迎えるのだ。死者の魂を慰めるのだ。
柵の点検も厳しく行う様に指示した。明日は灯りも炊いて周囲を交代性で警戒する。
なんとしても、この祭を成功させるのだ。
冒険者パーティーの皆様は、良く眠れているだろうか。村の奥に案内したのは、亡くなった子供の友人や両親の泣き声を聞かなくて良い様にとの配慮だった…。
彼等が悪かった訳では無い、間に合わなかったのは誰の所為でも無い。
肩車されに来る子供を叱れる親がどれだけ居ようか。仲睦まじい光景を求めて、無事を信じながら子を内柵から出した門番をどうして責めれようか。何も出来なかった子供に、何を言えるというのか。
冒険者さん達もだ、判断は迅速だった。彼等は優秀なパーティーだ。
ならば、誰が悪いか?豚と儂だ。いや、儂だけかも知れん…。
豚は腹が空いたのだろう。飢えている時目の前に食べられるものがあれば、食べたくなるのが普通だ。
なら、儂はどうか?
悲劇を未然に防ぐ方法はいくつも思い付く。
だが、平和や安全が儂の判断を誤らせた…。昨日大丈夫だった。だから今日も大丈夫だと。
日常の平穏は、非日常によって破壊される。何度も何度も見てきた筈なのに…。気付けば手が震えていた。
厳しくしていれば良かったのだ。柵を強化していれば良かったのだ。監視塔を作り、危険をすぐ柵付近に知らせる設備を作れば良かったのだ。
儂は無能だ…。後になってから対策をする愚か者だ…。可能性は昔からずっとあったのだ…。
上から垂れる水を服で拭い。指示を飛ばす。
だからせめて、明日の為に今日を頑張るのだ。
日が落ち、冒険者さん達が帰って来るとようやく今日の準備は終わった。
村長は冒険者さん達にお願いをする。明日の精霊祭に参加して欲しいと。
冒険者さん達は、喜んで参加します。と答えてくれた。
村長にはまだやる事がある。やれる事がある。
村の為に、若者の為に、未来の為に。
村長は疲れた身体に鞭を打つつもりで、冒険者さん達の食事やお湯や新しい布を届けさせるのだ。
少しでも、少しでも長く皆に平穏で居てもらう為に。
村から遠く離れた森では、異音がしていた…。この数日間、仲間の死体を食い千切り、胃の腑に落とし込み自らの糧としていた怒れる愚鈍なオーク。
同族を喰らい、奥を目指した豚人は身体の大きさも風体も変わっていた。
全ては復讐の為に。食べたものから力を得て、意志の力で前に進み。オーク・キングにいつの間にか進化していたのだ。
ゴブリン達は見守る。豚の王の行方を。
森は見守る。豚の王の行方を。




