52枚目 混沌も混沌①
「ん〜〜!!やっぱりパン食べたら活力に溢れるな〜〜」
「本当に瞳には感謝だね」
「うんうん!」
ジェニーと桧が太陽の光を浴びながらぐっと背筋を伸ばし有難そうにそう言えば、口を揃えたように菫や萌餅達もオレに感謝を伝える。
皆の役に立てたことが目に見えて分かった事が嬉しく、思わずオレも満足気にドヤ顔を披露する。
そして本日は遂にこの無人島で行われた二週間に及ぶサバイバル合宿の最終日。
初日に魔導式造船機で無人島に辿り着き諸々の説明をされた後、勝手が右も左も分からないまま松本先生に皆と一緒に置きざりにされた。
この文言だけを何も知らない一般人に聞かせれば何ていい加減な方針なんだと言われなくもないが、実を言うとそれはオレ達が一番思っている。
しかしそれも今日で最後。
やっっっっっとこの無人島生活に終止符を打てる。
紆余曲折ありながらも良くここまで皆で生き残ってこれた。
まだ最終日は始まったばかりだが、どうしても後もう少しで学校に帰れると思えば安堵が勝つ。
「皆、最終日だから気が緩むのは分かるけど、まだ安心しちゃダメだよ」
潮風に髪をなびかせたラファが一堂に会したオレ達に忠告するよう呼びかける。
皆それに呼応するように一様に返事を返せば、朝食の後片付けを終え海岸に行く準備をし始める。
今日は最終日という事で、このメンバー全員で海岸へ赴きリゾート気分を味わいながら食料調達を行う。
この二週間で散々食べてしまい何なら飽きかけてもいる魚。
だが、学校に戻ればここで取れる珍しい魚等は殆ど出ない。
そこで最終日の記念に皆で遊びつつ、この無人島で取れる珍しい魚や採れたてが美味しい魚を選りすぐり、魚介類パーティーを決行する運びとなった。
班ごとに海岸に行く事はあってもこうして皆揃って海岸に行くのは、何気にこの無人島に辿り着いた初日以外は初めてなのだ。
そういうこともあって実は内心ワクワクもしている。
「リリィ今更なんだけど、この時期ってなんの魚が旬なの?」
「ん〜?そうーだね〜南部地区の海はちょっと温暖だから王道にアジとかアナゴ、レッドシーとかかな〜レア物だとギョッカイギョとかだね」
「ギョッカイギョ??なんかマヌケな名前……」
海岸組が制作してくれた何本かの釣竿と桧達が共同制作した杜、支給されたナイフと鉈をそれぞれかき集めていた光耀が会話に参加する。
能力は前よりは抑えられている光耀も、太陽の元に出てくればやはりその髪色が相まり眩しい。
「ギョッカイギョは深海に生息する魚でね顔がめ〜〜っちゃ怖いの!!しかも歯がギザギザでね私も実際会ったことは無いんだけど多分結構大きのね」
「えぇ〜〜やだそれ会いたくないなぁ〜」
身震いする己の体を抱くようにぎゅっと身を縮めた光耀が呟く。
確かにギョッカイギョという名前には非常にインパクトがあり、名前からして怖そうだ。
リリィ曰く、ギョッカイギョは釣り上げた瞬間から劣化していくので、所謂漁師の人しか食べれないとされる幻のお刺身らしい。
南部地区に住まうリリィですら煮魚として稀に露天で売られているか、少しお高い料理店で販売しているだけらしく、ギョッカイギョ本体は図鑑の中でしか見たことが無いそうだ。
何それ美味そう。
「じゃあ皆行くよ」
「「「「はーい」」」」
ラファの掛け声に一同反応し、いよいよ最終日、海岸でのバカンス及びレア物魚介類の捕獲をする為海岸へと出発した。
♦◆♦
「瞳君!今日は光耀君とも一緒に素潜りしようよ!」
海岸につき早速今日は何をしようかな〜と悩んでいれば、円城寺の元へ会話をしに行っていたリリィが再び戻って来た。
「光耀と?」
突然の素潜りのお誘いに、既に釣竿を片手に素振りしていた光耀がギョッと驚いたように目を見開く。
「さっき言ってたギョッカイギョ!目の良い瞳君と光源になる光耀君がいれば見つけれる気がするんだよね〜!」
「待って待ってそれめっちゃ怖くない??ね、ね、瞳!」
すかさずオレのシャツの裾を握りしめた光耀を横目に一旦心の中で謝っておく。
すまん。オレは正直どっちかって言うとリリィに賛成したい。
食に目がないオレは先程リリィからギョッカイギョの容姿やどんな料理があるかなどを聞き、恐怖より先に食べてみたいという感情が先行した人間だ。
今回ばかりはお前に肩入れすることが出来ん。すまん光耀………
「ごめん光耀。正直オレもギョッカイギョ捕まえたいよ………」
「なんで!?」
「だってリリィがレア物だって………美味しいんだって………」
「美味しいよ〜私もお刺身は食べた事ないけど煮魚でも充分美味しかったからね〜」
ニヤニヤと悪戯げな表情を浮かべるリリィを見た光耀は、まだ見ぬギョッカイギョへの恐怖と美味しそうという単語で揺れているようだった。
光耀は何に対してでも怖がる臆病者だと自認しているが故に、非常に慎重な行動を取りがちだ。
それは長所であり短所でもあるが総合的に見れば今この無人島においてでは非常に良い事であり、オレが最も見習わなければならない所だと思っている。
猪突猛進に目の前のことしか見えずに成り行きでその後の選択を考えるなど、危険が迫ってきた時にはもう手遅れになるのだから。
「光耀は無理しなくてもいいよ。実際深海ってなったら怖そうだしね」
舞闊の悪六の時や合宿の初日に崖から落ちた時にも思ったが、光耀は恐怖を感じすぎると気絶する節がある。
ここは恐怖を抑え込んだまま無理矢理に潜り、水中でパニックになればそれこそ今までで一番危険な目に合うだろう。
水圧により地上より身動きが取りにくい深海からオレとリリィで無事に浮上できるかどうかどうかなど保証が出来ない。
確かに、と納得したリリィも大人しく光耀に無理言ってごめんねと謝る。
「よーし!じゃあ瞳君は一緒に来てくれる?」
「行く!オレもギョッカイギョの刺身食いたい!!」
「しゃ!決ーまり!」
ニッと嬉しそうに笑ったリリィとガシッと腕を組み、同盟成立の熱いハグを交わす。
一応有事の際対応してくれるよう、書く場所に散らばった級友達の様子と収穫物の監視係を担ってなってくれているラファに一報を入れに行こうとリリィと共に砂浜を歩もうとする。
「まっ………待って!!やっぱ俺も………行くよ!!」
「「え!?!」」
しばらくの間俯き、目を白黒とさせていた光耀が、オレ達を引き止めあろう事か光耀も共にギョッカイギョ捕獲作戦に参加したいと言い出した。
あまりの衝撃にリリィと同時に素っ頓狂な声を上げ、決意を固めた瞳を向けてくる光耀を真っ直ぐに見つめる。
「おぉっ……俺も漢だ!!そ、それに深海だったら俺の発光体質が役に立つもんね!?!」
「「こっ、光耀ー!!!!」」
おうおう!お前は漢だな!!!あまりにもビビり散らかしているようだったら光耀本人が行くと言っていても待機指示をしようと思っていたが、思ったよりも目がキマっていた。
これは本人の意思を尊重して、一緒に行く選択肢を取る他ない。
いつかの時と同じような決まり文句で光耀は自分を鼓舞し、臆病だと自覚しているその性格に鞭打つ。
無人島サバイバル合宿最後のレア物魚介類パーティの食材の一つになり得る"ギョッカイギョ"
オレとリリィと光耀、この三人で絶対大物狩るぞー!!!
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「……………本当にやるの??」
「やる!やりたい!やらせてくださいラファ先生!!」
「…………………」
「私は南部地区の海の民だよ!絶対二人に怪我は負わせないし、ギョッカイギョも取って来る!」
「…………………」
海岸の各地点に散らばりそれぞれが潮干狩りや釣り、交代交代に海で遊ぶ級友達に目を光らせるラファ。
ギョッカイギョ捕獲作戦を学年首席であり、今回の合宿においてでも全体の指揮及び総合的リーダーであるラファに告げれば、眉をひそめた表情でオレ達三人………特に光耀とオレを見つめる。
この二週間の合宿期間の中で恐らく一番やらかしているのはこのオレ。
ラファがこんな顔になっているのも頷ける。
ロイヤルブルーの瞳を揺らし瞳を伏せているその表情はオレ達三人を心配していると捉えられるが、どちらかと言えばあまり好ましくないと言ったような意思表示をしている顔だろう。
「……………はぁ。まぁ、ボクはあまり気乗りしない話だけれど、報告してくれただけでも良しとしようか」
ちゃんと学んでて偉いねと何故かオレ一人にだけ向けてラファが褒める。
なんでオレだけなんだと言いたいところだったが、思い当たる節があり過ぎるのでここは敢えて言葉を飲み込み、リリィと光耀二人からの生暖かい視線を甘んじて受ける。
「まぁ、三人が何をしたいのかは理解したよ。ただねボク、一つ疑問があるんだ」
「「「??」」」
「………その魚が生息している深海まではどうやって行くの?酸素ボンベとか無いよね?」
「あ、」と気付き声を上げたのは、オレと光耀。
確かにオレ達は今何度も言うが、無人島でのサバイバル合宿中なのだ。
支給されたのは地図と鉈とナイフのみで、海に潜るちゃんとした道具などはありはしない。
実際この二週間は素潜りが得意な南部地区出身の級友達が桧達が制作した杜とその身一つで狩りとっていたのだから。
「ふっふっふ〜」
と、そこで両手を腰に当て仁王立ちしたリリィが不敵に笑い始める。
なんだなんだと思っていれば、リリィはオレ達三人それぞれに視線を送り一つ深呼吸する。
「御三方。私、リリィ・スメールチアの能力は覚えてますか?」
「リリィの?」
リリィの能力は確か、初めての合同授業の際に能力制御が出来ず大暴走した光耀の乱れた魔力に誘発され、桧と一緒に魔法を垂れ流していた。
轟々と光耀の発火と桧の抽象的な何かを巻き取り暴風を作り出していた。
浄天の間で見たリリィの能力を思い出す為、瞳を閉じてその時の光景を脳裏に思い浮かべる。
「…………"乱風"だったっけ」
「ピンポーン!瞳君だいせいかーい!」
わざとらしく身振り手振りを大きく正解のジェスチャーをするリリィが、スっと自らの腕をこちらへと差し出してきた。
「私の能力は乱風。私の体の周りは常に風が乱れるように吹きすさんでいる」
「え!?そんな違和感なかったよ!?」
「そりゃあ光耀君……私は魔法が使えるんだ!自分の能力は制御出来るから常日頃、風を垂れ流しにはしてないのさ」
差し出されたリリィの手をぺたぺたと触ってみても、今現在はリリィの体から風が出ている感覚はしない。
恐らく、光耀の様に能力を完璧に抑えるのには、まだまだ難しく若干垂れ流している。
それに対して魔法を扱えて能力制御に長けているリリィは、常時発動状態にする工程もこのチョーカーによる一日一回の魔法使用制限に認識されリミッターをかけられているのだろう。
「そして、驚け諸君。私の周りに乱風を常時発動させ私の体に触れているものを介してそれに触れれば、皆の周りにも乱風の膜が出来る」
「…………と言うと??」
「乱風の膜、それ即ち。体の外側に常に酸素が供給され半永久的な酸素ボンベ代わりになるのだ!!!」
「「すっ、すっげぇええええええ!!!!」」
ドヤ顔を披露したリリィはこれまた名案であろう!もっと褒めてくれてもいいんだぞ!?と誇らしそうにフフンと鼻を鳴らした。
何かを思い出したラファは「なるほど、だからあんなに潜水時間が長かったのか」と納得していた。
確かにこれは、海の申し子。
リリィの魔力さえ尽きなければ、半永久的に空気の膜による呼吸が可能となる。
結論。リリィの乱風による空気供給で共に深海へ趣き、光耀の発光体質で暗がりである深海を照らし、リリィから告げられたギョッカイギョの特徴をもつ魚を地獄瞳を持つオレが中心に探し出す。
コレ、完璧な作戦!!!!!




