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ラブ・レゾンデートル -幻想戦国恋物語-  作者: 由岐
現代編 1章 可愛い子供達
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16.気を許してしまいましたな

 梵天丸様と共に数百年先の日ノ本──瑠璃という女人の屋敷にやって来て、早いものでもう五日が経過した。

 私達以外に佐吉、重治、忍の鎌之介という少年らも同じようにこの時代に来てしまったらしい。

 私や皆が生きる戦乱の世と比較し、とてつもなく便利で清潔、そして戦もなく平和になった彼女の時代。これが本当に日ノ本の姿なのかと、毎日驚きと発見に満ちた毎日である。

 特に、初日に味わったあのいんすたんと味噌汁という代物。用意された具と味噌を湯を注ぐだけで、手軽に一品用意出来てしまうとは……衝撃的だった。


 私はふと窓の外に目をやり、街の様子を見る。

 平らに整備された道の上を、高速で駆け抜ける様々な色の箱。確か自動車だとか言ったか。あれに魔法の技術が何も使われていないと聞かされた時には耳を疑ったものだ。

 そもそもこの時代、というか仮定ではあるがこの未来の世界かもしれぬ土地には、魔法そのものが存在していないらしい。

 物語の中には登場することもあるそうだが、実際に魔法を扱える人間は見たことが無いと彼女は言っていた。

 瑠璃嬢が言うには、もしかするとこの時代は『魔法が存在しなかった未来の日ノ本』で、私達が居たのは『魔法が存在した過去の日ノ本』という、別々の世界なのかもしれないらしい。

 全く、何がどうなっているのやら。

 この時代に来てしまった何らかの原因があるはずだが、それをこの魔法の無い世界でどうやって突き止めれば良いのだろうか。


「景綱くんと梵天丸くんって、奥州(おうしゅう)って所に住んでたんだよね?」

「ええ。梵天丸様は奥州伊達家十六代当主、輝宗(てるむね)様のご長男にあらせられます」

「それでねー、かげつなは父上のこしょーなんだよ!」

「こしょー……?」


 皆で昼食を済ませた後、部屋でくつろいでいると瑠璃嬢からそんな話題が出た。

 彼女は小姓(こしょう)が何か知らないのか、小さく首を傾げている。この時代ではもう無くなった文化ということなのだろうか。

 瑠璃嬢は元々この屋敷に一人で暮らしていたそうだが、それはこの時代では珍しいことではないらしい。彼女の父君から生活資金を援助して頂いているそうなので、私達の常識からしたら姫並みの扱いを受けてもおかしくない。

 しかし彼女には世話をしてくれる者も護衛も居ない。それが今の常識なのであれば、この時代に女中も小姓も居ないのも納得がいく。

 まあ、今となっては鎌之介が炊事や護衛を勝手にしているのだが。


「小姓というのは、主君の身の回りをお世話させていただく者のことです」

「ほえぇ、そうなんだ。凄いね景綱くん、だからそんなにしっかりしてるんだね」


 そう返事をしながら、彼女は薄い板──すまほとか言ったか──を手に取った。

 何度かそれを指先でつつき、すまほに浮かんだ文字列を眺めながら言う。


「奥州っていうと……今で言う宮城県のあたりなんだね。うーん、日本全国色んな所から集まってきてるねぇ」

「同じ土地から来た者は私達が初めてなのでしたな。しかし、この先もまた人数が増えるやもしれませぬな……」


 本来ならば出会うことも無かったはずの者を、こんな細腕の女人が何人も世話しているこの状況。

 出来ることなら私が金を稼いでやりたいものだが、この時代ではそれは難しいのだろう。

 これだけ様々な技術が発達した未来なのだ。身元がはっきりしていなければ、何の仕事も出来ないはずだ。

 私が過去から来た人間だと知られれば、彼女の身も何らかの危険に晒されるやもしれない。それは避けなければ……


「でもね、景綱くんが来てくれて助かったんだよ」

「は……?」


 私が何か彼女の助けになるようなことをした記憶が無い。

 料理も掃除も、ほとんど彼女や鎌之介が済ませてしまう。私はただ空になった皿を運んだり、洗い終えた衣服を物干し竿に引っ掛けたりする程度だというのに……


「私ね、今後の為にもそろそろ働きに出ようと思ってて。景綱くんみたいなしっかりした大きい子が来てくれたから、安心して皆にお留守番してもらえるからさ」


 ああ、そういうことか。

 私は彼女より一つ年下らしく、その上もう元服を済ませた身だ。

 屋敷の留守と幼子の面倒を任せられる、そういった存在を必要としていたのだろう。


「その程度のことならば、私がいつでも引き受けましょう」

「そう言ってもらえるとありがたいよ~! 保護者が増えれば、全員で出掛ける時も子供達に目が行き届くだろうしね」


 すると、隣の部屋で重治と鎌之介の口喧嘩が始まった。てれびのちゃんねる争い、という奴だったか。

 確かにこれでは一人で不安だったろう。納得だ。

 しかし、元服した男を平然と屋敷に置いていて、彼女は何とも思っていないのだろうか。私が万が一変な気を起こしたらどうするつもりなのだろう。

 何となくだが、もしもの時は鎌之介に包丁を突き付けられるような気がする。いや、そもそも私がそんな気を起こさなければ良いだけなのだが。

 そんなことを考えていると、向こうでてれびを観ていた佐吉がやって来た。


「るりおねえさん、そろそろ約束の時間じゃないですか?」

「えっ、本当!?」


 彼女は佐吉の言葉に慌てて、壁に固定された円盤に顔を向けた。

 あれはこの時代で時間を知る為の道具だったか。長い針が真下を、短い針が真上から少し右にずれた位置を示している。

 あれの見方を習わねば。時間を把握出来るのは何かと便利だからな。

 彼女の留守中に鎌之介にでも聞いてみるか。


「うわあぁ! 急がないとやばいかも!」

「面接とやらに向かわれるのでしたな」

「そうそう、バイトの面接! 私を雇ってくれる人に会いに行くの!」


 急いで荷物を纏めている最中だというのに、きちんと説明をしてくれる瑠璃嬢。

 ご両親の教育の賜物(たまもの)か……と思ったが、約束の時間に遅刻しかけているのは評価を考え直さなければならないな。

 この騒ぎに気付いた犬猿の仲の二人もやって来た。


「時間教えてくれてありがとね、佐吉くん! なるべく早く帰ってくるから、それまで皆留守番宜しくね!」

「はい、るりおねえさん!」

「いってらっしゃーい!」

「おかしなヘマして恥かかないようにねー」

「竹中とは違うのだから、そのようなことがあるはずがなかろう。それでは姫様、道中お気を付けて」

「鎌之介お前ほんとぶん殴るよ!?」

「フン、殴られる前に避けるわ」


 何故だろう、俺の次に年長者のはずの二人が梵天丸様と佐吉より子供に見える。


「留守は任されました。貴女のお帰りを、皆でお待ちしています」


 幼子も、少年も、そして私のような男にも分け隔てなく接する彼女。

 知らず識らずの内に、彼女の存在が私達の心に入り込んでいる。

 元居た時代に帰還するその日まで、この恩を返す為に貴女を支えたいと、そう思うのです。



 彼女が外出してしばらくして、鎌之介の姿が無いことに気付いた私は大きな溜息を吐くのだった。



 

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