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ラブ・レゾンデートル -幻想戦国恋物語-  作者: 由岐
現代編 1章 可愛い子供達
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13.鎌之介の野郎と留守番することになった

 瑠璃の両親がここを出て行ったのは、なんだかんだで朝の九時過ぎだった。

 ボクは頭が良いから、瑠璃の世話になるようになってすぐにこの時代の時間感覚や時計の見方を覚えた。

 (かわや)の使い方や風呂場の使い方だってもう完璧だし、瑠璃に頼まれたことは何だって出来ると自負している。

 ただ、今回はいつもより難しい事を頼まれた。

 何を隠そう、あのクソ生意気で陰険で人が気にしてることを何の躊躇いもなく口に出せる無神経野郎のあいつ──鎌之介と二人っきりで留守番だなんてさ。


「竹中、すぷーんが皿に擦れる音が耳障りだ。もう少し品良く食事が出来ないのか」


 ボクらは今、昼餉を兼ねた『ぶらんち』として出掛ける前瑠璃に言われた通りに、冷凍のちゃーはんをれんじでチンして食べているところだ。

 佐吉が瑠璃と夕餉の買い出しに行ってるから、仕方なく……本当に仕方なく鎌之介と二人で睨み合いながらちゃーはんを咀嚼していたところで不満が漏れた。

 だってさぁ、何でか知らないけどこいつボクにだけ酷い当たり方するじゃない? そんな態度取って来るヤツに優しく出来る? 出来ないでしょ?


「ボクは米粒を最後まで残さず掬おうとしてるだけだろ! いちいち神経質なんだよお前は」

「無駄にカチャカチャカチャカチャと……どれだけ米を広範囲に散らばらせながら食べればそこまで皿のあちらこちらに米粒が残るのか、不思議でならんな」

「逆に終始無音で食べ終わるお前の方がどうかしてるわ!」


 すぷーんが皿に当たる小さな物音や、しっかりした米粒の食感のあるちゃーはんを歯で噛み潰す音。それを飲み込む時だってこいつは何の音も立てずに食事を終える。


「私は瑠璃姫様の忍びだからな。当然、日常生活において余計な物音など立てる訳がないだろう」


 いつも通りの憎たらしくて涼し気な顔で、平然とそう返答する鎌之介。

 ボクらが居た時代ではこんな風に忍びと同じ釜の飯を食うなんてことは無かったし、忍びの食事風景なんて見たことも無かったから比較材料が無い。

 だけどいくら修行を積んだ忍びだからって、食事は勿論、扉の開け閉めの時や衣擦れの音すらさせないなんて気味が悪いっていうか。

 まあ、こいつが人形みたいに無表情なのが多いから余計にそう感じるのかもしれないけどさ。


「ごちそうさまー」

「ご馳走様でした」


 使った食器はすぐに洗う。それが鎌之介のいつもの姿であり、この瞬間も早速それを実行に移していた。

 鎌之介は完璧主義の忍びみたいで、掃除・洗濯・料理にゴミ出しと、瑠璃の役に立てるなら何でもこなそうとする。

 実際、それら全てを一度習えばその後は完璧にこなせる実力を持っている。

 だから、いまいち料理の才能が無いボクはわかりやすい形で瑠璃を喜ばせてやれないんだ。

 何でも素早くこなせて、美味い料理で瑠璃の舌を喜ばせる鎌之介。

 つたない手つきでも、誰かがやっていないことをすぐに見付けて色んな手伝いをして褒められる佐吉。

 この屋敷に住まわせてもらっている中でボクが一番年上だ。

 まだ幼い佐吉は簡単なことでも褒められるし、瑠璃と同じかそれ以上に家事をこなす鎌之介に今から追い付けるとは思えない。

 こいつが来てから、ボクが瑠璃に何かしてやれる機会がめっきり減ってしまった。ボクの歳ならそろそろ元服(げんぷく)、つまりは大人になる頃合いだっていうのに、一番の役立たずに仕立て上げられてしまったんだ。

 ああ、なんて忌々しい!


 洗った皿を拭いて片付けてやろうと思ったら、厨に足を踏み入れる前に「お前の手など借りずとも、私の風魔法で皿を乾かす。邪魔でしかない」と一蹴された。

 ボクと違ってうねった髪質の癖に生意気だ!

 ボクだって炎の熱で水分を蒸発させられるってーの!

 あー、やっぱりこんな頭の堅いヤツと留守番なんて不愉快だ。瑠璃と佐吉、早く帰って来て、頼むから。


「……あ、そういえば」


 居間に戻る途中、ボクは風呂場を覗いた。

 確か今日は湯船の中身を入れ替える日だったはずだ。巻物のようにぺろんと丸まる蓋を開けると、冷め切った乳白色の水が残っている。

 ボクにもやれることはまだあった。鎌之介に気付かれる前に栓を──抜こうとした時だった。

 ちゃぷん、と腕を浴槽に伸ばした次の瞬間、何かがボクの腕を掴んだのだ。


「うわあぁぁぁぁ!!」


 手だ! 人の手だ!

 慌てて引き抜いた腕には、手形が付くほどきつく掴まれた赤い痕が残っていた。

 すると、バシャバシャと水面が跳ねながら何本かの手脚が飛び出して来る。


曲者(くせもの)か!?」


 ボクの声を聞いて鎌之介が飛んで来た。

 忍び道具は瑠璃が預かっていたせいか、あいつは包丁を持って風呂場に駆け付けている。

 何が起きているのか、鎌之介もボクもいつでも魔法を発動出来るよう警戒した。

 そして、何者かがまるで溺れているかのように水中で暴れて数秒──


「……ボゴッ……た……けっ」


 宙を掻くその丸々とした小さな手と、子供のような声。


「……っぱぁ! ご無事ですか梵天丸様!」


 そして、その子供を抱え上げて立ち上がった男が湯船から現れたのだ。

 ボクや鎌之介よりがっしりした身体の若い男が身に纏うのは、白い稽古着。

 少し水を飲んだのか、子供の方は何度も咳き込んでいた。その子供もボクらが着ていたような着物を着ている。

 どうしたものか、よりにもよって犬猿の仲であるボクと鎌之介の留守番中に新たな同居人が来てしまったらしい。



 

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