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ラブ・レゾンデートル -幻想戦国恋物語-  作者: 由岐
現代編 1章 可愛い子供達
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11.両親が来ちゃいました

 ベランダへと避難した彼らの存在に気付かれないように……。

 私は緊張して大きく脈打つ心臓を落ち着かせようと、深呼吸を繰り返してから玄関を開けた。


「いらっしゃいお父さん、お母さん!」


 なるべく普段通りに、ナチュラルな笑顔を浮かべて。

 久し振りに顔を合わせた自然な親子の会話を意識するのよ、瑠璃!


「元気そうで安心したわー!」

「そうだね。どうだい、一人暮らしの調子は」

「ここ最近は毎日が充実してるよ」


 本当に、佐吉くん達と暮らし始めてから毎日が楽しくてたまらないんだよね。

 それから、お父さん達をリビングへと迎え入れた。

 内心ビクビクしながら、でもそれを表情に出さないようにと必死になりながら会話を続けていく。

 もしこれで二人に皆と暮らしていることが知られてしまったら……あの子達がここから追い出されてしまったら、彼らはこの時代を生きていけるだろうか?

 きっと難しいだろう。だから私が皆をここに住まわせた責任を取って、彼らの居場所を守らなくちゃ駄目なんだ。


 一人暮らしには少し広いマンションだから、こうして家族三人で集まっても窮屈さは全くない。

 カーテンを閉めたリビングのあの窓の向こうには、佐吉くん達が居る。

 窓に気を取られてしまったらどうなってしまうかは簡単に予想がつく。部屋に明かりを入れないと駄目だと言って容赦なくカーテンを開けられてしまうだろう。

 だから私は隣の佐吉くん達の寝室のカーテンは開けておいて、そこからある程度の光を取り入れる作戦を立てたのだ。

 日当たりの良い部屋だから、明るさはなかなか取れているはず。

 そして私は二人の気を逸らすべく、どんどんトークを盛り上げていかなければならない。


「ねえねえ、この間お店で新しい紅茶の茶葉を買って来たの! お父さんとお母さんが来てくれた折角の機会だし、是非二人にご馳走したいんだけど良いかな?」


 ご馳走するとはいっても、これはお父さん達が出してくれている生活費で購入したものなのだけれど。

 それでも二人は喜んでくれているらしい。うーん、ちょっと心が痛むね。


「あら、紅茶なら丁度良かったわ! 久し振りにあなたに会えるからってお母さん張り切っちゃってね、シフォンケーキ焼いてきちゃったのよー」


 そう言ってお母さんは持ってきた紙袋の中から手作りのシフォンケーキが入ったタッパーを取り出した。

 既に食べやすい大きさに切り分けられていて、見た目は売り物のケーキと見分けがつかない完成度の高さだ。


「それじゃあ母さんのシフォンケーキが朝食替わりだな。はは、偶にはこういうのも悪くない」

「じゃあすぐ紅茶淹れてくるね」

「母さんも準備を手伝ってやりなさい」

「ええ! ちょっと待ってて下さいな」


 お母さんと二人で人数分の紅茶とシフォンケーキを用意していると、この前買って来た佐吉くんのくまちゃんのコップが目に入ったらしい。お母さんがすぐさま手に取った。


「あら、可愛らしいコップね。でもちょっとあなたには子供っぽすぎるかしらね?」


 フフゥーウ! まさか食器がこんなトラップになるとは思ってもいなかった!

 おかしな叫びを胸中で漏らしつつ、私は自分で引きつっているのがわかる固い笑顔で答えた。


「そ、そのくまちゃんに一目惚れしちゃって! クリッとした黒目がハートにバキュン! みたいな?」

「確かに、よーく見てみると可愛い目をしてるわね!」


 ああ、何とか誤魔化せた。

 でもこれで私の趣味ががちょっと子供っぽいと認定されたんだろうな。

 まあ、佐吉くんが選んだこのコップが可愛いっていうのは本当だからね! そこまで間違ったことは言ってないよ、うん。


 その後は何事もなく、普通にお茶を楽しめた。

 そろそろ二人が帰り支度をしようかという頃、お父さんが懐から茶封筒を取り出した。


「そうだ、今月の生活費を渡し忘れるところだった」

「ああ、いつもありがとうお父さん。お母さんも今日はシフォンケーキありがとうね」


 すると、ふいにお父さんの視線がカーテンへと移された。


「……なあ瑠璃、実はさっきからずっと気になっていたんだがな」

「う、うん」


 やばい。やっぱりこんな晴れた日にカーテンを閉めてるなんて不自然すぎただろうか。


「お前も色々と考えているとは思うんだが、アルバイトぐらいしてみても良いんじゃないか?」

「……はい?」


 え、アルバイト?


「慣れない一人暮らしで色々と悩むことだってあるだろう。だからこうしてカーテンだって閉めきって……。困っていることがあるなら、いつでも父さんや母さんに相談してくれても良いんだぞ?」


 てっきり部屋の違和感に気付いたのだとばかり思っていたから、ちょっと気が抜けてしまった。


「お前は充実していると言っていたが、毎日部屋に閉じ篭ってばかりでは身体にも悪いだろう。短時間でも良いから、何かアルバイトでも始めて気分を変えてみないか? 社会勉強にもなるだろうし……」

「う、うん……! 考えてみるよ」


 今度は実家に顔を出す、としっかり約束してから二人を見送った。

 お父さんは私が一人暮らしで塞ぎ込んでしまったのではないかと心配してくれていたらしい。

 何だか……実の両親のことをもっと信用しても良かったのではないかと、後ろめたい気持ちが残った。


「……そうだ! 皆に二人が帰ったって報せないと!」


 アルバイト、か……。

 もしかしたらこれからも子供達が増えるかもしれないし、これからの生活の為に真剣に考えてみようかな。

 こうして、突然の両親の訪問は何事もなく幕を閉じたのだった。



 

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