第67話 伝説の杖と空を飛ぶ敵
「……念話?」
セレナさんが。
俺を見た。
「……はい」
「……声を直接、相手の意識に届けるということ?」
「……そうです」
セレナさんの。
目が。
また。
大きくなった。
「……そんなことまでできるの?」
「……はい」
『……ふははは! 当然だ!』
……ああ。
また。
調子に乗った。
「……普段は俺にだけ聞こえるようにしてるんです」
「……なるほど」
「……でも、アストラが相手を選べば、みんなにも聞こえます」
リゼさんが。
身を乗り出した。
「……本当に?」
「……はい」
「……じゃあ、あたしにも聞かせてよ!」
『……ふむ。よかろう』
……おお。
素直だな。
『……ただし、小娘は礼儀を覚えよ』
「……聞こえてるわよ!!」
……まだ。
普通に喋ってるからな。
◇
「……アストラ」
俺は。
杖を見た。
「……みんなにも、念話を聞かせてあげて」
『……ふむ。よかろう』
アストラが。
淡く光った。
そして。
小さな魔力の波が。
広がった。
俺。
ヴァルドさん。
リゼさん。
セレナさん。
ダリオさん。
五人の周りを。
撫でるように。
通り抜ける。
「…………」
……あ。
懐かしいな。
レオたちと。
遺跡から帰ったときも。
こんなことがあった。
『……では、聞こえるか?』
「…………」
「…………」
「……えっ!?」
リゼさんが。
辺りを見回した。
「……何これ!?」
セレナさんも。
驚いた顔をしている。
「……本当に、頭の中に直接……」
ダリオさんが。
にこりと笑った。
「これは便利だね」
ヴァルドさんも。
感心した様子で。
頷いた。
「……戦闘中にも使えるのか?」
『……当然だ』
「……それなら、敵に聞かれずに合図を送れるな」
……おお。
もう。
戦いでの使い方を。
考えてるんだ。
……やっぱり。
経験が違うな。
◇
「……でも」
セレナさんが。
首を傾げた。
「……私たちからも返事はできるの?」
『……できるぞ』
「……どうやって?」
『……我に話しかけるつもりで、心の中で言葉を発すればよい』
「…………」
セレナさんが。
少し考えた。
そして。
目を閉じた。
「…………」
『……ふむ。聞こえておるぞ』
「……えっ!?」
セレナさんが。
目を開いた。
「……本当に返事ができたわ!」
……おお。
さすが。
すぐに使いこなしてる。
「……ねえ!」
リゼさんが。
アストラを見た。
「あたしにもやらせて!」
『……よかろう、小娘』
「……だから小娘って呼ぶな!!」
「…………」
……あ。
また。
始まった。
ヴァルドさんが。
小さく息を吐いた。
「……リゼ」
「……何よ?」
「……念話を使ってまで喧嘩するな」
「…………」
『……ふむ』
……本当ですよ。
◇
「……ところで」
セレナさんが。
俺を見た。
「……ノアは、自分でも念話が使えるの?」
「……いえ」
「……そうなの?」
「……アストラがつないでくれてるだけです」
「……なるほど」
「……だから、心の中でアストラに話しかければ返事ができます」
「……じゃあ、考えていることが全部伝わるわけではないのね?」
「……はい」
『……我も心まで読めるわけではないからな』
……そうそう。
『……ただし、ノアの場合は別だ』
……え?
『……お主は顔に出すぎる』
……そんなに?
『……ああ』
「…………」
……嫌だな。
セレナさんが。
少し笑った。
「……随分と仲がいいのね」
「……そうですか?」
『……我が面倒を見てやっておるのだ!』
……はいはい。
『……何だ、その返事は!』
……やっぱり。
うるさいな。
◇
「……さて」
ヴァルドさんが。
手を叩いた。
「アストラのことは分かったな」
「……ええ」
セレナさんが。
頷いた。
「まだ聞きたいことは山ほどあるけれど」
『……ふむ。いくらでも教えてやろう!』
……やめてくれ。
話が。
終わらなくなる。
ヴァルドさんが。
テーブルの上に。
一枚の依頼書を置いた。
「……それじゃあ、次の仕事の話をしよう」
「……はい!」
……お。
いよいよ。
新しい冒険か。
◇
「……俺たちが向かうのは、さらに東だ」
ヴァルドさんが。
依頼書を指さした。
「山岳地帯にある都市へ向かう」
「……山岳地帯?」
「ああ」
「最近、その都市へ続く街道で魔物の襲撃が増えている」
「……魔物ですか」
「特に問題になっているのが、ワイバーンだ」
「…………」
……ワイバーン。
空を飛ぶ。
竜のような魔物。
……だったよな。
『……ふむ。飛竜の一種だな』
……知ってるの?
『……当然だ』
……そうですか。
セレナさんが。
依頼書を見ながら。
口を開いた。
「……本来は山の奥に生息している魔物なのだけれど」
「……はい」
「最近は、街道にまで現れているそうよ」
ヴァルドさんが。
頷いた。
「しかも、数が異常に多い」
「…………」
……数が多い。
嫌な予感がするな。
◇
「……それで」
ヴァルドさんが。
続けた。
「ワイバーンの襲撃で、都市へ向かう物資の輸送が滞っている」
「……物資ですか?」
「ああ。食料や薬も含まれる」
「…………」
……それは。
困るな。
ダリオさんが。
口を開いた。
「このままだと、街の人たちも大変だからね」
「……そうですね」
ヴァルドさんが。
俺たちを見た。
「今回の依頼は、山岳都市へ続く街道の安全確保と、ワイバーンが増えている原因の調査だ」
「……なるほど」
「まずは現地へ向かい、状況を確認する」
「……はい!」
ヴァルドさんが。
四人を見渡した。
「……この依頼、受けようと思うが、どうだ?」
「……異論はないわ」
セレナさんが。
頷いた。
「……面白そうじゃない!」
リゼさんが。
笑った。
「僕も賛成だよ」
ダリオさんも。
頷いた。
そして。
ヴァルドさんが。
俺を見た。
「……ノアは?」
「……もちろん、行きます!」
「……よし」
ヴァルドさんが。
依頼書を手に取った。
「……決まりだな」
「…………」
……いよいよ。
新しい仲間との。
初仕事だ。
『……ふむ。楽しみではないか』
……そうだな。
『……我の活躍も期待しておれ!』
……うん。
頼りにしてるよ。
『……おお! 珍しく素直ではないか!』
……だって。
ワイバーンって。
空を飛ぶんだろ?
『……うむ』
……俺の魔法。
届かないし。
『…………』
「…………」
『……お主、まさか』
……頑張ろうな。
アストラ。
『……また我を振り回すつもりではあるまいな!?』
……さあ?
『……ノア!!』
……さて。
どうなることやら。




