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第10話

イレイン王国の首都、ルミエール。ここでは今まさに革命が起ころうとしていた。


「天使様ぁ~!!どうしましょう!!わたくし達は殺されてしまいます~!!」


ピンク色のドレスに身を包んだ王妃、アナイスは涙目になりながらある人物へと泣きつく。


「よしよし、可哀想なアナイス。それならば皆の前でこう言いなさい。これは神託よ」


ーーーーー


「パンが無ければ、ケーキを食べれば良いじゃない!」


♢♢♢


「これよりアナイス・ベルジックら王侯貴族の処刑を行う!!」


「ああああ!!!天使様の嘘つきー!!!」


そうしてアナイスら王侯貴族は断頭台にて処刑された。王侯貴族の首と胴体が分断される瞬間、周囲には歓声が響き渡る。


「きゃははははは!!!ちょー面白い!!やっぱり文明管理って楽しいなぁ!!」


ひーひーと笑う天使。その笑顔には全く悪気も邪気も感じられない。まるで無邪気な子供が虫の手足を引きちぎるかのごとく。


「さーて、これでイレインにも市民革命が起きて、絶対王政は終わりを告げる、と。あはは、バッカみたい!王族が支配しようが、市民が政治の主導権を握ろうが、結局操り人形が踊ってるのと何にも変わんないのに!」


「さーて、次は魔法でも規制しようかしらね?このイレインはドロシー様の管轄なんだから。荒廃さえさせなければ何でも私の掌の上ってワケ!」


天使は舌を出し、人差し指くらいの大きさの人形を握りしめてニヤリと笑った。


♢♢♢


イルミナ達の開設した魔術師ギルド、笑顔の魔法スマイル・ソーサリーが展開されて早二週間が経過していた。早速依頼が舞い込み、魔術師達も猫達もチェスらも仕事に明け暮れていた。


「次は火炎魔法を使う工程だよ!みんな、炎撃フィアンマを打つ準備はいい?」


「4番テーブル、カフェオレ入りましたー!」


「キースさんご指名です!」


「任せろ。俺様がお客様の疲れを癒してやる」


魔術師ギルド兼猫カフェ。開店早々、他に類を見ない形態で展開された店は、順調に繁盛していた。


そうして、あっという間に仕事も終わりーーー


「みんなー!今日の仕事は終わりだよー!」


アミーシャが猫達に仕事終わりの合図をかける。ぞろぞろと集まってくる猫達は、人化の術で人間に化けている個体もいた。


「ふぃ~、みんなお疲れ様~」


接客に回っていたマルタンも今しがた戻ってきたようだ。


「やっぱり連続で魔法を使うのは疲れる…接客担当の奴らが羨ましいよ」


「いやいや、接客も楽じゃないよ。人化の術で人間の姿に猫の耳が生えてる姿になってくださいっていうわけわからん注文をされる事もあるんですよ。人間の姿に猫の耳が生えてるのが何がそんなに良いのかな?あれ精密な動作を要求されるから疲れるのよね」


クリーム色の毛並みのメスのケットシーは不思議そうにぼやいていた。


「チェス、お疲れ様!」


「ミルテもね」


チェスとミルテも仕事を終えていた。二人とも人化の術を解除し、猫の姿に戻っている。


「私達はこの2週間で接客も魔法による魔道具製作クラフトもどっちもやったけど、やっぱり大変だなぁ」


「楽な仕事なんてないよ。憂鬱じゃなければ仕事じゃないんだからさ」


「それもそうだね…というよりチェス、あなた大変な役回りを押し付けられても文句一つ言わずにやってるの偉いよね」


「はは、人間だった頃はブラック企業で働いてたもんだから」


「ブラック企業?」


「何でもないよ!忘れて!」


チェスとミルテが話し合っていると、カランというドアに吊り下げられた鈴の音と共に、誰かが入ってきた。


「お客さんかな?今営業時間外…え?」


ドアから入ってきたのは、全身がレッドカーペットのように赤く、金の縞模様がある毛並みの虎だった。


「!!チェス!!」


「うん!!」


チェスとミルテはその虎が魔物かと思い、臨戦態勢に入る。しかし、その虎はなにやら身体のあちこちが傷だらけで、襲いかかってくる意志は感じられなかった。そこから2分ほど経過すると、その虎はその場に倒れてしまった。


「何だろう….弱ってるのかな…」


「とりあえずイルミナさん達を呼びに行こう!来て!」


チェスとミルテはイルミナ達を呼びにギルドの奥の方へ走っていった。


「धन्यवाद」


「…で、この虎を助けた訳だが。なんだ、見慣れない言葉を話すな。やっぱこいつ魔物とか魔獣の類いか?」


「यह राक्षस नहीं है। मैं एक सम्मानित व्यक्ति हूं।」


「イルミナちゃん、この子が話してる言葉、わたし少し理解できるよ。魔物じゃなくてれっきとした人間って言ってる」


「ユーディット!お前こいつの話してる事わかるのか!」


「うん、魔法学校で他国の言語を履修してた事もあるから。この言語は多分ナワト語だと思う」


「ナワトって、イレインからはるか南東に位置する国だろ?あの獣にも獣人にも人間の姿にもなれる半獣人っていう種族がいる」


「!まさか、この子もしかしてその半獣人だったりする?」


アミーシャがそう言うと、その虎はゆっくりと頷き、姿を変え始めた。ゴキッ、バキッという骨が変形する音が周囲に響き渡り、その虎は赤い髪の人間の少年の姿に変わった。


「やっぱり!初めて見たよ、半獣人なんて」


アミーシャは感動で目を輝かせる。

  

「どれ、まずは言語をイレイン語に変換しよう」


ブライゼはそう言うと、少年の頭の上に手をかざし、何かを念じた。ビリッという電流が流れるような音と共に、空気の流れも変わる。


「これでよし。さあ、喋ってみなさい」


「えっと….僕の言葉がわかりますか?」


一同はおおっ、と歓声を上げた。まだあどけなさが残る少年の声は、少し緊張に震えている。


「そう身構えなくても良い。ようこそ、笑顔の魔法スマイル・ソーサリーへ」


♢♢♢


「まず自己紹介からします。僕はベルガ。ナワト王国からこのイレイン王国までこの身一つで来ました」


「そうか、それは大変だったろう。まず一つ目の質問だが、どうしてあなたは傷だらけなのだ?」


「それは….何から話せばいいのか。でも、まず一つ何か話せというのなら、天使に国が支配されているという事をお話ししたいです」


「天使….だと…!?」


ブライゼは天使という単語を聞いた瞬間、驚愕し固まる。


「ブライゼ、どうしたの?」


ボクはすかさずブライゼを心配して声をかける。ブライゼは平静さを取り戻し再び話を続ける。


「皆、よく聞け。これから私が話す事は、この世界の真実だ。取り乱さずに聞いてほしい」


ボクらはその言葉に、息を呑んだ。


「この世界は、初めは何もない虚空だった。やがて時間が経過し、宇宙が生まれ、最初の命が生まれた。その命の名はトゥバン。原初の生命体にして、この宇宙の管理者だ。トゥバンはアカシックレコードというこの宇宙で起きる過去や未来全ての事象が記録された記録媒体を作り、そのアカシックレコードを防衛する機能も作り上げた。その防衛機能こそが、我々ドラゴンなのだよ」


「ブライゼ、前に天界に帰ったとか言ってたよね?天界って何なの?」


「それに関しても説明しよう。天界というのは、我々ドラゴンが暮らす世界のことだ。ドラゴンは可能性の守護者とも呼ばれていてな、この世界をどう管理し、どう育てていくかを任された存在なのだ。チェスには私が世界を作ったドラゴンだという事は説明したが、この世界はいわゆる一つのコンピュータのようなもので、日夜天界に住むドラゴンがプログラムを操作するように微調整しながら管理しているのだよ」


「じゃあ、天使って何?ベルガの話からすると、あまり良い存在ではなさそうだけど」


「ああ、天使というのはな、ドラゴンが世界を管理するようになる前にトゥバンが作ったこの世界の管理システムだ。しかし、人間の命を弄んだり、文明の水準を一定に保とうとするあまり人間達の間に戦争を引き起こすように扇動したり、疫病を放って停滞をもたらすなどの問題行動が起きたが故にトゥバンが負の遺産として廃棄した。が、何故か動き始めている。この原因を突き止めるべく、そして可能なら天使という機能を全て停止させるべく、天界の中でも戦闘力が高い私が下界に降りてきたというわけだ」


「天使って、てっきり人間の守護者だと思ってたんだけど…この世界における天使はそうじゃないみたいだね。もしかして、ブライゼに致命傷を負わせたのも…」


「ああ。天使の中の誰かだろうな。だからこそ、この世界の安寧を守るべくここにいる全ての者達に力を貸してほしい。あらゆる魔術、武力を駆使して天使を打ち倒す術を皆と共に探したい」


一同はシーンと静まり返る。しかし、そんな中、チェスは声を上げる。


「わかったよ、ブライゼ。一緒に天使達を倒そう」


「チェス…」


「アタシもやるよ!天使っていうけど、実際は力の使い方を間違えた悪魔みたいなもんじゃねえか!アタシの魔法もどこまで通じるかわからないけど、やるしかねえって事だよな」


「イルミナ!」


チェスとイルミナの主張を皮切りに、次々と天使を打倒せんとする声が上がる。


「みんな…本当にありがとう!」


「何言ってんだよ、アンタはずっと世界を管理してアタシらを守ってくれてたんだろ?この世界はアタシらの世界だ。アタシらが自ら守らなくてどうすんだって話さ!」


「イルミナ… !そうだ、ベルガの話も聞こう。今ナワトはどうなっている?」


「今、ナワトにはカリって呼ばれる人の悪意から生まれた化け物が跋扈してるんだ。それを操っているのがマクスウェルって天使だよ。僕は王族の生まれなんだけど、家族はみんなカリにやられたんだ…」


「そうか…あなたの家族を救えなくてすまない」


「いいや。これから仇を討つんだ。その為にブライゼにも、ここにいるみんなにも協力してほしい」


「いいぞ。その前に、奴ら天使に対抗する術を教えなくてはな。皆は神性という概念を知っているか?」


「神性?」


「ああ。神霊や天使、管理者といった上位生命体が持つ概念だが、この神性を持つ者は、神性を持たない者からの魔法攻撃や物理攻撃を大幅に軽減するのだ」


「は!?つまり、天使とかには神性を持った奴の攻撃しか効かないって事かよ!」


「そうなるな。そして、神性にもランクがある。最大ランクは神性Aだ。天使達は軒並み神性B以上は有している。これ以上の神性を持ちえなければまず勝負にはならないだろう」


「そんな…!じゃあどうすれば…!」


「一つだけ希望がある。それはチェスだ」


「え?ボク…?」


「ああ。何を隠そう、チェスは外見こそケットシーだがその正体は神霊だ。そして、私の竜眼で神性を測定すると、ランクはなんとEXだ」


「すごい!なら、チェスが天使に攻撃すればダメージを与えられるって事!?」


「が、そこが簡単ではない。今のチェスを例えると、火力の高い銃火器だが、弾丸が入っていないようなものだ」


「どうすれば…」


「その天使達に通用する武器を、我がギルドで作り上げようじゃないか。そして、今天界と通信が入った。対天使用の武器を作りに、天界から1匹竜が降りてくるようだ」


「よし!アタシらにも勝機はあるってことだな!」


「ああ。その竜は私が信頼する実力を持った竜だ。安心しろ。ベルガの故郷もきっと取り戻してみせるからな」


「ありがとう…」


「さ、今日はもう仕事も終わりだ。明日は休みだし、帰ってゆっくり休め」


「おう!でも大変な事聞いちまったから休める気がしないな…」


「それでもゆっくり休め。さて、私もその竜が来るための準備をせねばならん」


「僕はどうしよう…」


ベルガは力無く呟いた。そこにチェスがフォローを入れる。


「ベルガはボク達と一緒に来よう?ちゃんと部屋もあるから!」


「いいの?」


「うん!ミルテもいいよね?」


「もちろん!3人で寝ましょ?」


そして、一同は仕事を終えて、打倒天使を目指して眠りについたーーー  

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