路地裏での出会い
猫、人になりました、ご注意
ユースヴィルに手を繋がれながら、私は顔に熱が集まってしまって路地から出られなくなっていた。
そんな私に笑顔で「ゆっくりで良いぞ」と笑うユースヴィル。
余裕なのが少し悔しい。
私は落ち着く為に深呼吸を繰り返していたが、ユースヴィルと言えば繋いでいるその手にキスを繰り返したりとまた熱の上がる行動をしては不敵に笑みを浮かべるのだ。
そんなやりとりを十分は続けていたその時、猫の鳴き声がして私達は二人して路地の奥を振り返った。
「あ」
「ん?猫か」
とことこ歩いて来た猫は、私の足元に座り込んだ。
そして甘えるように喉を鳴らした。
「この猫……あの、しつこい猫だ」
「なんだと!?」
足元にいた猫をひょいと抱き上げると、猫の方が不満そうに鳴いた。
「遠くに捨ててくる」
「流石にそれは……」
「じゃあ、通りを出て三つ先の魚屋の前に置いてくる」
「放っておいて良いのよ?」
私がそう言うと、猫の方がうごうごと両足を私の方に伸ばす。
元々メスに対して寄っていく猫だったからなのか、それともあの白猫が私だと分かるのか分からないけれど、やはりその猫は私に執着する。
「なあん」
「なあんじゃない、飼い主のところに戻れ」
しっしっと手を払う仕草をするユースヴィルに、さっきまでの余裕は無さそうだ。
思わず笑ってしまうと、ユースヴィルは「なんだよ」とふてくされたような顔をした。
「この子は今猫なのに?」
「それは関係無い、オスだろコイツ」
じっと猫を見るとユースヴィルは「油断ならない」と視線が怖い。
「ひとまず路地を出ようよ、私はもう平気だから」
「……それもそうだな、じゃあな猫、お前は来るんじゃ無いぞ」
「みゃおぉう」
低く唸った鳴き声に、ニヤリと笑うと。
ユースヴィルは私の手を引いて歩き出す。
「確かにコイツは擦り寄りたくなるくらいの美人だが、俺のパートナーなんだ。
残念だが別の猫を探してくれ」
「ユースヴィルってば、大人気ないよ」
「良いんだ」
急に子供っぽくなってしまったユースヴィルの「パートナー」と言う言葉が嬉しくて、私も振り返って「ごめんね」と伝えた。
「私も、ユースヴィルが一番だから。
誰かの隣にはもう一緒に居られないわ」
「ぬぁーん」
ゆらゆらと尻尾を揺らす猫に手を振って、私達は路地を出る。
そして当初の目的通りに役所近くのパン屋さんへ向かって、私とユースヴィルはクリームパンを買った。
たっぷりのカスタードクリームと生クリームが入ったそのパンを食べると、ぶしゅっとクリームが飛び出て来て慌てていると、ユースヴィルが声を上げて笑った。
そんな普通の日が楽しくて、私はユースヴィルと同じく笑ってその日を過ごしたのだった。




