町長の思い
猫が人になりました、ご注意
「大変だ!領主様が……ユースヴィル・ティコードが町に!!」
「なんだって!?あの領主様がっ!?」
ユースヴィルとあんずが町の門を潜ってすぐの事。
町の門番が走って行った先は、町の役所にある町長の部屋だった。
一足早くの到着で領主が町に現れたことを聞いた町長は、複雑な表情を浮かべる。
「……何かあったのか?」
「それが……よく分かりませんが、綺麗な少女と歩いていました」
「少女? あの領主様がか」
「はい……どこに向かうかは存じ上げませんが……」
「あの、領主様が……」
銀の髪が肩からするりとひと束落ちた。
町長は頭を抱えると「そうか」とまた小さく呟いた。
「お前達はその少女の動向を観察しろ、今まで人と関わりを持たず町にも顔を出すことも無かったあの方の重要な変化だ。
私も色々と調べてみる」
「はっ!」
「了解致しました」
敬礼を残し、門番達は部屋から出て行く。
しばらくすると、秘書官が部屋にやって来て領主ユースヴィル・ティコードが現れたとの報告が入る。
話によると、なにやらペットと同居人の登録に来たらしい。
あとで書類を持って来る様にだけ伝えて、秘書官には下がってもらう。
……領主ユースヴィル・ティコードの事は、この町の悩みのタネであった。
彼は15の時に国の王子として王位継承を引き継がずにこの町の領主として王家を出た。
と言うのも、この国の王妃は放浪癖があり、彼はその放浪中に身篭った子供と言う事で、周りからは他所で作った子供だとされていた。
王妃はもちろん否定したが、彼の夫である国王はそれを認める事は無かった。
彼から王位継承権を剥奪し、15歳になった途端にこの町の領主として王家から勘当した。
その結果、人と関わりを一切立って屋敷に引き篭もる領主が誕生する事になる。
仲介しているローゲインス家はこの町の出身で唯一王家に出入りすることを認められていた伯爵家だ。
彼は幼い頃よりユースヴィルと関わりを持っていて、今回の騒動で心を痛め親友の為と行って国を出てこの町に戻って来た。
彼が領主として仕事をして行くのなら、私が町の人間達との仲介をすると言って。
そしてその言葉通り、ローゲインス家のハルトを通して、この町では領主であるユースヴィルの仕事は滞りなく、そしてその関係も変わる事なく流れていた。
町の人間達は知っているのだ。
不憫な運命を生きる彼の事を。
そして案じても居た。
若い彼が領主となり、王家を勘当されたその未来を。
国王の決定は覆る事は無いだろう。
だが、どうか、この町で健やかに過ごしてくれればと町長は深いため息を吐き出すのだった。




