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リアルサウンド  作者: cline
10/15

六月   仲林 哲司

男が頑張る理由、それはいつの時代も女。・・・だと思う。

 この時期開かれる球技大会。全学年が入り交じってのトーナメント戦。種目は四つ。バスケットとバレーとサッカーと野球。俺達男子は野球とサッカー、女子はバスケとバレーに出る。俺はと言うと・・・

「おう。一回戦で当たるな。でもサッカーなんか授業以来だぜ。」

館と廊下で会って、一緒にグランドに出ることになった。そう、サッカーなのだ。嫌いではないけど、やはりどちらかと言えば野球に行きたかった。だけどそれぞそれの現役はその種目に参加できないことになってる。代わりに野球の審判係をやらされることになったんだ。腕にはすでに審判の腕章。

「ま、夏の大会に向けて肩でも壊されたら困るからな。いっか。」

そう言いながら館は俺の肩をポンっと叩いた。

 夏の大会・・・つまり甲子園。そこへ行くために全国の高校球児達は日々努力を積み重ねている。誰のためでもなく、自分のために。必死になって。何球もの球を投げ、受け、打ち、それを何度も繰り返してあの場所を目指している。俺だってそうだ。

 階段に差し掛かると、まだ制服の前原さんを見つけた。これから更衣室に行くのだろうか?思わず呼び止める。前原さんはこちらを振り向いて駆け寄ってきた。

「なんか久しぶり。」

笑顔で言いながら、俺の肩をポンと叩く。館とは違う小さい手。

 久しぶり、というのは間違いじゃない。同じ高校、同じ学年だけど俺はD組で前原さんのA組とは校舎が違うため滅多に会わない。実際前原さんに会ったのって十日振りくらいじゃないか?

「あれ、二人とも審判するの?」

俺と館の腕章を指す。

「あぁ、野球部なもんで。」

館が答えた。くそ、俺が答えたかったのに。

「あ、そっか。じゃサッカーだ。二人とも頑張ってね。応援行くから。」

そう言って前原さんは階段を駆け下りていった。その姿を見つめる俺。頭の中で繰り返す『頑張ってね』。・・・へへっ。

「反芻してんじゃねーぞ。」

顔に出ていたのか、館がすかさず肘で突いてくる。ほっとけっつの。

「に、しても。」

「?」

「どっち応援してくれんのかな、前原は。」

・・・・・館の言葉はまさしく。だって俺のD組と館のC組は一回戦で当たる。いや、前原さんの『頑張って』『応援』はきっと二人平等にってことだ。そんなこといちいち考えるまでもなくわかってる。わかってるけど・・・やっぱりつい期待してしまう。だって俺は彼女が好きなんだ。だけど彼女にとっては俺も館も同じ友達。仲のいい友達。俺も『男友達』っていうでっかい枠の中に入れられてんだ。・・・はぁ。


 審判をする試合はまだだし自分の試合にも少し時間があったので、俺は女子の応援に体育館へ行った。確かうちのクラスはC組の女子とバスケをしている時間だ。

 体育館へ行くと、黄色い声が響いていた。ただの応援の声だけじゃなさそうだ。至る所から辻本の名前を呼ぶ声が聞こえる。コートに目を移すと、いた、辻本だ。しかし辻本はオフェンスにも関わらず後方ですでに息を切らしている。・・・まだ始まって五分も経ってないようだが?前方では後藤が華麗にシュートを決める。あいつってスポーツ何でもできるんだな。後藤を先頭に攻めまくるC組女子。終わってみれば大差でうちの女子は負けていた。

 自分のクラスよりも先に俺は後藤たちの所へ行った。壁にもたれて座る二人。後藤は清々しく汗を拭いていたが、辻本はぐったりしていた。

「快勝、快勝♪」

後藤はピースして見せる。

「・・・よく・・やるわ・・・クラスマッチ・・・ごとき・・・で・・・」

息も絶え絶えに辻本が呟く。俺はつい笑ってしまった。辻本って運痴なんだな。

「ま、今だけだからね。」

何気ない後藤の一言。それに、辻本の乱れた息が、少し和らいだ。

「・・・今だけ・・・だもんねぇ。」

「そ、今だけ。」

今だけ。高校生の時だけ。制服着てる時だけにしか、みんなで息を切らして走ることなんてない。特に俺達は三年生だ。あと何回、こうやって今の仲間でこうやって一緒に何かをできるんだろう。きっともう片手で数えるくらいしかない。今だけなんだ。今を過ぎたら、大人になって行くから・・・

「・・・そろそろ野球の試合行かねぇと。じゃあな。」

俺は何だか足取りがいつもより軽く、浮かれている気がした。


 野球は運動場の半分で行われている。イニング数は七回まで。サッカーは残りの半分で一試合三十分。俺は二試合目の審判の後、サッカーの四試合目に出る。

 グラウンドを少し行くと、館の姿が見えた。そしてその隣には前原さん。楽しげに何か話している。

「そっか、前原はバレーか。」

「うん。体育館でね。確か館君とこって・・・」

「おう、仲林んトコと対決だぜ。」

パシッと、拳を手のひらに打ち付けてやる気満々の館。それを見た前原さんは笑った。

「楽しそうだね。」

「体育はな。」

そして俺が声をかけようとしたとき。

「ま、Cが勝つでしょ。仲林君っていざっていう時弱そう。」

え。

「だよなー。」

あっはっはっはっはっ。と笑い合う二人。

・・・・・・ショックだ。

三年C組なんて嫌いだ。なんで俺だけD・・・・・


 一塁の審判をしながら、俺はまた前原さんの言葉を繰り返していた。『いざっていう時』・・・完全否定できないところがまた情けない。事実として去年の甲子園が頭を過ぎる。九回裏、一点リードのツーアウトで打たれたサヨナラ。悔しくて悔しくて悔しくて・・・

 カンッ・・・

ハッと我に帰って試合を見ると、一点ビハインドだったクラスがサヨナラヒットを打っていた。ヒットを打った奴がホームへ帰ると、クラスの仲間に抱きつかれていた。あぁ、夏に見たあの風景だ。俺も味わいたい。できれば何度も。できれば最後まで。

・・・いや、するのは自分だ。

 俺はギュッと拳を握った。


 今しかないから。

 だから一生懸命走って、

    一生懸命飛んで、

    一生懸命守って、

    一生懸命叫んで、

    一生懸命笑って、

 今しかないから。だから頑張る。


 サッカーのグラウンドに入って整列すると、目の前に館がいた。

「おう。お手柔らかにな。」

俺はニカッと笑ってやった。

「全力でぶったおす。」

今日みたいに、あの場所でも笑ってやる。


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