浮遊砲台
「おいおいどうしたんだ、そんなんじゃこっから先へは進めないぜ? ……って言いたいとこなんだがもうすぐ崩れそうなんだよな」
「立て直すっすよ!」
「城壁再建と状況回復を掛けてんのか? 全っ然面白くねぇな」
やいのやいのと相変わらず喧騒の中で聞こえてくるやたら呑気なその声からするとあちらも崩れることは避けられないと考えているらしい。それならば完全に退避されて持ち直される前に突入してしまおう。私はそれまでできるだけMPを温存するため普通に攻撃していたのを止めて技を使う体勢に入る。
「『ジャイアントキリング』……っ!」
この技は自分よりVIT値の高い相手に有効打になるモノだが、対象はプレイヤーに限らずこういった壁など物に対しても有効なのである。そして思いのほかダメージが入ったものだからこれは今後使えっていけるなと思った。何せ攻めることは殆どと言って無いから物にも使えるとは理解していても実際にどれくらい入るかとかは知らなかったのだ。
暫くの間、この技に可能性を感じていた所で後もう壁のHPバーはミリ残りという所まで来ていて、あちこちで『崩れるぞ!』などと焦る声や期待に満ちた声が飛び交っている。
そして次に私が大槌を振り上げた瞬間、大きな音を立て城壁は崩れて消失。上に残された敵兵はそのまま地面に叩きつけられ突入した奴らによって真っ先にトドメを刺された。
城壁が崩れてしまえば後は拠点内に飛び込むだけ、そう簡単に済んでしまえばいいと思うが当然ここも一筋縄じゃいかない。ギルドホーム上、ルーフバルコニーのようになっている場所や尖塔の窓から先程と同じような遠距離攻撃の構えを取っている奴らが見て取れた。更には、もう侵入されたからには城壁など構うなと言うように壁に備え付けられた大砲がこちらに照準を合わせ、今にも発射してきそうな状態になっていた。ローゴゥの方も、姿は見えないが倒した感じには見えないからな。油断はできない。
「団長……」
「ああ、これは前見たいに俺が単騎突撃で落城なんてのは無理だな」
この状況で団長という強力な存在が抜ければジリ貧、最悪全滅は免れない。正攻法でやっていくしかあるまい。
「ならもう一気に行くしかないよな?『イントゥザストーム』」
「えっ、団長……それ……」
「おうとも、こんな状況で出し惜しみなんかするかっての!」
そう言って団長は徐ろに両手の大剣を振り上げたと思えば敵兵の方に向かって地面に振り下ろした。するとその両の剣の先の方から小さく灰色の不定形が轟々と音を立てて現れる。その塊は次第に大きくなっていき、いつの間にかソレは尖塔にも負けないぐらいの高さまで育っていた。そして漏斗状の立派なソレが、敵も味方も入り交じる前方へと図体の割に速いスピードで突っ込んでいく。
『イントゥザストーム』、この技は団長のユニーク武器である両手剣の技の中でも高位のモノで、若干フィルター入ってるかもしれないがそれでも対大人数では最強クラスの技だと思う。この技の何がやばいかと問われれば実際見てみろというのが手っ取り早いだろう。
「あっ、なんだこれっ!!」
「まさかブラストさん……!? なんでこんな、ってあれ?? 痛く、ない?」
「どうなってんだ???」
敵だけでなく味方も混乱させてしまっているが無理もない。団長がこの技を出す機会は滅多になかったことだし、知らない団員が多いのも仕方ない。
この技はなんと言っても敵にダメージが入っても味方にダメージは皆無という点が特徴的で正確には自分のギルドメンバーだけで状況によっては漏れが発生するのだが、それでも嵐に巻き込まれて目の前で敵が鎌鼬に切り刻まれてるのに自分は何ともないという光景を辺りに生み出せるのは強みであるし、もしかしたら唯一無二なのではないか。更にはこの技、十秒の時間制限タイプであるので一連の振り上げ振り下ろしの動きを繰り返せば何度でも出せる。
欠点といえばその分、鎌鼬一発の与えるダメージは低めという所だったり、範囲は割かし広いもののそこそこ速い通過速度も相まってダメージが入る時間が若干短めだったり、強風の中でも動けるようなスキルやステータスの奴であれば抜け出せるなど色々挙げられる。まあそれらを補えるのが時間制限による数量攻めであり、同方向に撃ちまくれば大量キルが可能だし、多方向に撃てばダメージを多くの敵に程よく与えて味方陣営を優勢に持っていける。そういう強力なポテンシャルを持った技がこの『イントゥザストーム』だ。
「るぁッ!!」
そうして団長が多方向に二つの両手剣から竜巻を出した先で弱った敵をぶちのめす。これだけでだいぶやりやすくなった。
とはいえやはり数は数だ。すぐそこのローゴゥも未だにほぼ無傷で味方の援護射撃を行っては、こちら側真っ只中まで浮遊砲台を遣ってきて広範囲に炎を撒き散らし状態異常を蔓延させている。高所からの遠距離部隊も相変わらずウザいし、どうにかしなくては。
「おっとお嬢ちゃん、こんなとこで余所見なんかしちゃ危ないでちゅよぉ?」
「……っ!」
「あちゃあ、避けられちまったぜ」
ふと、思考を巡らせていると正面からちりちりと熱が伝わってきたものだから反射的に避けると、ローゴゥが何故か私一人を狙ってきていた。いざこうして対面すると、言葉遣いにしても見てくれにしてもまったくもって品の無い男だがあの親玉にしてこの子分ありという感じでお似合いかもしれないな。
「お嬢から聞いてるぜ? なんでも、てめぇらんとこに……えぇっと何だったか、『外見幼児体型中身幼稚無口無表情根暗女』みたいな感じの奴が居るとかなんとかで」
なるほどそういうことか、私のことを伝え聞いてると。それでカイアは私をそう呼んだとしてこいつはつまり、
「すると、なんだ……? お前は、そのよくわからない特徴で……私を特定した……とでも言うのか……?」
「ああ怖い怖い。お嬢の言う通りだぜ、キレやすいとかなんだって」
殺す。
「まあまあ、そんな殺気立てんなって。俺はあんたみたいなのも嫌いじゃないぜ? お嬢はああ言うけどよ、こうして見りゃ割と良さそうだしなあ」
キモい。殺す。
舐め回すように私の顔や身体を見てくるそいつの目が本当に気色悪くて寒気がする。なんにしたってこいつはどうにも気に食わない。もう殺す。殺す他ない。元よりカイアの腹心というだけで罪だ。殺っても問題無い。
「とりあえず……死ね……ッ!」
そうした衝動に駆られて対面から先手を取ったのは私だった。
「おぉっと、これもお嬢の言った通りだぜ。キレるのもそうだが挑発にも乗りやすいってな」
飛び上がった次の瞬間、それは迂闊だったことを理解する。ローゴゥの両肩隣に浮いているハズの一対の浮遊砲台が見つからないことに気付いたのだ。
「『ラビットスタンプ』……!」
私はハンマー技の最初の方で習得できる『ラビットスタンプ』で跳び上がった流れのまま逆方向、後ろ斜め上に更に飛び上がる。すると直下を浮遊砲台が大きく火を吹き上げて通り過ぎていった。
この技を使用すると槌を振り下ろした後自らを大きくノックバックさせる。空中で使用しても同じような動きになるかはわからなかったがやってみて正解だった。
「まあそう簡単に当たっちゃくれねぇか」
「当然……」
「だがな、俺のこの『バーニット』はただ動いて火を吹くだけじゃないんだぜ?」
すると浮遊砲台改めバーニットはお互いを引き付け合うように回転し始めてくっ付いたかと思えばガシャガシャと変形し、一つになった。しかし同時に浮遊していたソレは地面に鈍い音を立てて落ち、何も言わなくなった。
「おぉ? なんだなんだよ相棒、また故障か?」
「……」
思いっきり隙が生まれたが、これで突っ込んだら何か起きそうな気がして踏みとどまる。奴は暫く『大丈夫かぁ』などと軽くこつこつと拳で浮遊砲台、否ただの砲台……ですらないかもしれない塊を叩いていたが、私が動かないのを見て大きく溜め息を吐いた。
「あぁもうツレねぇったらありゃしねぇ。あんたもそこら辺のなりふり構わず突っ込んでくる馬鹿と同じだったら良かったのになぁ……『インフェルノ』」
次の瞬間、私とローゴゥの間で闘っていた奴らが吹き飛んだ。何が起きたのか理解はできなかったが炎が止み、バタバタと落ちて倒れた奴らの中心には浮遊砲台があった。これに巻き込まれていたら私もかなりのHPを持っていかれていたことだろう。
「でも驚いたろうぜ。こんだけインパクトあるんだからな」
「ふん……」
こいつは今、私達側の人間だけでなく紅蓮連盟側、つまり味方も纏めて吹き飛ばした。私達の団長と違って吐き気がする程最悪な野郎だ。やっぱりこいつはカイアと同類だな。
「ま、避けられちまったがよ。どっちにしろ優位なのはリーチ取れてる俺の方だぜ。あんたは俺に近づいた瞬間、炎の連撃と特レベルの火傷で死ぬんだからなぁ?」
「ほざけ……」
とは言うが実際この状況で奴に近づくのは危険過ぎる。どうにかして状況を打開したいが……そのために浮遊砲台を無力化するにしても近づかなければならないのは同じことだ。
「おうおう威勢が良いことで。とりま慎重に距離取って居てくれるのはこっちにとっちゃ大助かりだぜ」
私が色々思考していると、そう意味深なことを言ったと思えば浮遊砲台を元の双子の状態に戻した。今度は何が来るのか。身構えていると、何やら双子は再び合体し始める。しかし今度は前後ろというか直列に並んでくっ付いた。
「『火球』」
するとより砲らしくなった浮遊砲台から丸く橙色に光った塊が噴出され、放物線を描いてこちらに飛んできた。私はソレをひょいと避ける。地面に勢いよく落下した塊はビシャッと炎をらしくない音を立てて丁度水風船のように辺りに炎を撒き散らして火柱を上げる。
だがこの程度なら簡単に避けられる……そう思うがやはりこの攻撃は連射可能だったようで私が避けた先にも狙いをすましてバンバン飛ばしてくる。幸いさっきの大炎上があったせいか周りの奴らは私達を避けて闘っている為にある程度の空間が開けており、避けるスペースには余裕があった。
しかしまあ避けるだけではジリ貧である。私は次々と飛んでくる球を避けつつ、どうしたらこの状況を打開できるかを考えていた。
今までの奴の動きを見ていて二つ程わかったことがある。それは、奴の浮遊砲台は変形するにも元の双子の状態に戻す必要があるということ、それからその双子の状態の時でしか自由に奴の手で飛ばすのは無理なんだろうということ。
恐らく双子状態がノーマルモードなんだろうが奴にとって変形時が一番の隙になる。そして双子モードで繰り出される攻撃は比較的低出力で範囲も小さい。ならば合体状態から双子状態への変形時、または合体状態の攻撃の隙に接近し双子状態へ切り替えかけた時に攻撃するのが最も低リスクなやり方だと思う。仕掛けるならその時だ。
「おっといっけね、MP切れそうだぜ」
「ん、隙あり……!『グランドプレス』」
と、打開策を模索していたが思いがけず隙が生まれた。確かにこれだけ連発していればMPが切れてもおかしくはない。私は、このチャンスをしまいとダメージの出る技を選び、大振りで一気に叩き込もうとする。
「────なぁんてな」
「……っ!? いった……ぁ!」
……しかしこいつ、何度フェイントを掛けるつもりなのか。MP切れだと思っていたのは間違いだったようで思いっきり胴体に火の塊を撃ち付けられた。
「あぁあぁ、やっと当たってくれたかよぉ! ちっこい上にすばしっこいもんだから、しつこいぐらいでもしねぇと当たらないと思ったんだがなぁ」
「ぅぐ……」
「まあこうなったからにはこっちのペースだぜ。今まで避けてくれた分当たってくれよぉ?」
この火球自体はダメージは低めのようだが如何せん状態異常がヤバい。なんだこの『火傷(特)』って……ゴリゴリ削られるんだが。私がそうして各ポーションを使って立て直しを図ろうとしている内にも奴はこちらに砲口を向け、にまにまと笑っている。
こうなったら殺られる覚悟でギリギリを狙って叩き込むか? いや、この距離じゃ詰め寄る前に殺られるな……クソっ。乱戦で恐らく捕虜になることはないだろうことが不幸中の幸いか。
「おーい! ローゴゥさんローゴゥさん! ギルドチャット見たっすか!?」
その時、前方から兵の波をかき分けて、見るからに間抜けた男がローゴゥに向かって手を振りながら話しかけてきた。
「お前……空気読めねぇよなほんと」
「何がっすか??? それよりも団長のっすよ!」
呆れるローゴゥに対し、ウチのサラにも負けないくらい抜けた大きな声でヤイヤイと喚くように話す。
「あぁ? お嬢がどうしたって……なるほどなぁ、ったくお転婆娘が。色々狂うから大人しくしててくれって言っといたんだがなぁ」
「何を……」
「んん? あぁ! あんたにも教えといてやるよ、まぁだいったい察しついてると思うが……お嬢、ウチの団長サマがもう片っぽに駆けつけたそうだぜ?」




