第十七話
鋭いひらめきが雲を縫いとめてしまったかのように、頭上には先ほどと同じ空があった。
カーマは視線を、空からナーガへとうつした。
惨めなものだな、ナーガよ―――
心のなかで、彼はつぶやいた。
それから、カーマは手にもっていた宝珠を見た。
ついに。
そう。ついに、手にいれたのだ。
如意宝珠―――。
カーマは満足そうに、口をゆがめた。
彼の掌中の珠が、不気味な紅の炎を噴いていることに、彼は気づかなかった。
ナーガはよろめきながら、広場の中央へ引かれてきた。
二人の屈強な男が、ナーガの両肩をうしろから押さえる。
刑の執行人が、ぬれたように光る剣をもち、近づいてきた。
喚声があがった。
民衆の歓声であった。
蛇王を殺せ!
すべての民に、平等なる天の慈愛を!
執行人が、いよいよ剣を振りかぶったとき。
人々のあいだからまろび出てきた、小さな少年。いや、少女か―――
息をきらせながら、嫣然とほほえんだその者。ガルーダ。
「カーマ」
ガルーダは青年の名を呼び、かけよった。
カーマと。
目を潰されたあわれな男の名ではなく、美しく傲慢な青年の名を―――
青年はガルーダの瞳を見た。
真紅の熾のような―――
天が、裂けた。
雲が逆流する。
轟音が広場をふるわせた。
ぽつり、と。
透明な滴が、おおきく喘いでいるガルーダの肩に、落ちた。
両人のあいだの足もとに、赤黒い染みができていく。
吸いきれなくなり、大量の血液は地面をはい、四方にひろがりはじめた。
それを、降りだした雨がうすめていく。
ガルーダは手にした短剣をにぎりしめた。
だが、つぎの瞬間ぽとりととりおとし、空いた両手をおのれの胸のまえへもってきた。
「おしかったな。ガルーダ」
ガルーダは青年の指ごと、長剣の柄をつかんだ。そこからのびた刃は、一直線にガルーダの胸を貫通している。