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59 サイラスにしてほしいこと

その時、書館の扉が開き、花音と莉央が入ってきた。

入り口の二人を見たロザリオは、イスから立ちあがり、受付の女性に入館を許可するように手をあげる。


二人は、急ぎ二階にあがってきた


「花音、莉央。欲しかった食材は見つかったの?」

おりかが二人を見て、のんびりとした口調で聞く。


「ええ。なんとか。欲しかったものに似たようなものを見つけたわ。それで、それを使った料理を、料理長たちに試食してもらった。おりか、なにを作ったと思う?」

花音が、少し得意げな顔で、おりかに聞きいてきた。


「わかんないよ。……ってもしかして、和食?」


「そう。和食も和食」

花音が得意げな顔でこたえる。


「和食かあ。和食でなにを作ったのか……。和食も和食って、なんだろう……」


おりかが答えを出せないでいると、花音が人差し指をたてて言った。


「お・ちゃ・づ・け」


「お茶漬け? え。お茶漬けを料理長たちに食べさせてたの? お茶漬け?」


おりかは、信じられないという顔で「お茶漬け」という言葉を連呼した。


「あぁぁ。まあ、出汁茶漬けね」


花音は、おりかの驚愕ぶりに、少し引きながらこたえる。


すると莉央が、

「ものすごく好評だったんですっ。料理長があまりにおいしくて驚いていました。さっそく明日の王族の方々の朝食にお出しするって言ってました」

と自分のことのようにうれしそうに報告する。


さらに続けて

「……オルビスさんなんて、あまりのおいしさで、花音さんをぎゅっとハグしてたし……」

と小声で付け加えた。


花音はちらりと莉央の方を見たが、特になにも言わなかった。


座っていたロザリオは立ち上がると、花音の隣に歩み寄り、両手を自分の手でぎゅっと包んで言った。


「花音、すばらしいことよ。外部の人間が提案した料理が王族の朝食に出されるなんて。そんな話わたくしは今まで聞いたことがないわ。しかも明日だなんて。よほどおいしい料理だったのでしょう」


ロザリオの言葉に、花音は少しひざを折りうれしそうに頭を下げた。

そして、上目づかいで、みんなの顔を見ながら言った。


「それで私、料理長からご褒美をいただけることになったんです」


「褒美?」

ロザリオが不思議そうな顔で聞いた。


「そうなんです。料理長が今までに食べたことがない、かつ料理長がおいしいと認める料理を提案できたら、欲しいものを褒美にいただける約束をしていたのです」


「花音、すごい交換条件を出していたのね。おもしろいわ。それでなにをいただいたの?」


「時計櫓にのぼらせてもらう権利を」


花音のその言葉に、ロザリオは一瞬口を手でおさえて、そしてふっふっと笑った。


「さすがね。そういう手を使ったのね」


おりかは、あきれたような顔で花音を見たあとに、莉央のほうを見ながら肩をすくめて小さく笑った。


「ただ、まだ時計櫓にのぼれると決まったわけではないんです。のぼるには、王族からの許可が必要なのだそうで。あ。サイラスさまは、許可を出せないそうなんです」


花音は残念そうな顔でロザリオをちらりと見る。


「そうね。確か時計櫓の管轄は、国王直轄のはず。許可を取るのに第二王子のサイラスなんてまったく役に立たないわ。でも……」


「でも? でもなんなんですか?」


莉央にしてはめずらしく前のめりな口調で、ロザリオを急かすように質問した。


その質問には、ロザリオが言葉を発する前に、花音がこたえた。


「でも、王族の朝食には参加する。そこで、褒美の話が出るわけで。サイラスさまが、私が提案した料理がどれほどおいしいのか大げさなほどリアクションしていただければ……。そして、褒美の話が出た時に、時計櫓にのぼらせてあげようと推していただければ……、ですよね。ロザリオさま」


ロザリオは無言で花音の言葉にうなずいた。


「でも、サイラスは正直だから、料理が驚くほどおいしければ、こちらからなにも言わなくても、おいしさに見合ったリアクションをしてくれると思うわ。協力してほしいのは、櫓にのぼる許可のほうよね。花音」


花音は笑顔でこくりとうなずく。


「王族にこの料理が朝食としてふるまわれるのはいつって言ったかしら?」


ロザリオが真顔に戻って花音に聞いた。


「調理長は、明日にでもとおっしゃっていました」


するとロザリオは後ろ振りを返り、早口で言った。


「セイラ。今日の午後からのサイラスの予定を調べて」


ロザリオの言葉を聞いたセイラは「かしこまりました」と言うと、さっと書館から出ていった。

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