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58 時計櫓にのぼりたい

「花音さん、ご褒美って?」


一緒に片付けを手伝っていた莉央が小声で花音に聞いた。


「料理長が驚くほどおいしい、今までに食べたことない料理を作ったら、私が欲しいものをご褒美でくださるって約束をしたの。料理長、覚えていてくださってありがとうございます」


「遠慮せずに言ってくれ。まさかあんな驚く料理を食べさせてくれるなんて。花音が欲しいものはなんだ?」


「では……。ものではないんですが……」


「ものではない?」


「はい……。時計櫓にのぼってみたいんです」


「時計櫓に?」


料理長は、はて? といった顔で花音を見た。


「先日、ロザリオさまの侍女セイラさまから、子どもの頃に時計櫓にのぼったお話を聞いて、それがとても興味深いお話だったのです。その時、私もぜひのぼってみたいと思ったんです。ぜひ、ご時計櫓にのぼらせてください」


そう言って花音は真剣な顔で、料理長を見つめた。


そんな花音と料理長のやり取りを見ていた莉央は、心の中でつぶやいた。

(そういうことだったんだ。花音さん策略家だ)


「オルビスさま、どういたしましょうか。時計櫓にのぼることは今もできるのでしょうか。あそこは、確か今は見学ルートからは外れているかと」


料理長が伺うような目でオルビスを見る。


「そう……ですね。今は軍の警備部から許可をもらわないとのぼることはできないはず……。しかも、王族からの許可も必要かと……。でも、花音さまへの褒美は、なんでも叶えると言ってしまいましたものね。うーん」


「サイラスさまから許可を取ることはできないのですか?」

料理長がすかさず、オルビスが仕えているサイラスの名前を出す。


「できませんね。サイラスさまには、その権利はないかと思うのです。あの場所は、国王か皇太子さまの直轄かと」


オルビスと料理長が話しているのをじっと見つめる花音。


その時、莉央がおそるおそるといった感じで、口を開いた。


「あの……」


「どうしました? 莉央さま」

オルビスが優しく莉央に言葉をかける。


「あの……、これから王族のみなさまにこの出汁茶漬けを食べていただくんですよね……。その時に、料理長さんたちのように、今まで食べたことない、ものすごくおいしいって思っていただけているようでしたら、花音さんへのご褒美の話を切り出すということはできないのですか?」


莉央の言葉に、料理長とオルビスの目が大きく開き、ふたりは顔を見合わせうなずきあった。


そしてオルビスが言った。


「花音さま、すぐにご返答できずに申し訳ございません。時計櫓にのぼる許可を取ることは、我々ではどうすることもできないのです。そこで、莉央さまのご提案のようにさせていただいてもよろしいでしょうか」


花音は、少し考えたふうを装いそのあとに笑顔で言った。

「分かりました……。料理長、最高のお茶漬けを作りましょう!」




書館にいるロザリオとおりかは、テーブル席のイスに座り、そこから天井を眺めていた。


「あの天井の格子、私の国の木片と木片を組み合わせて作る『組子くみこ』というものに似てるんです」


「組子?」

ロザリオが不思議そうな顔でおりかを見る。


おりかは、スケッチブックをひろげて、さっきスケッチしてきた天井の画をロザリオに見せながら説明をする。


「組子は、釘とかネジとかそういうのを使わないで、木片の組み合わせだけで作られているんです。それで、もしこれを意図的にこの天井に取り付けたと考えると、どんな意図だったのか……。私だったら……私だったら、この組子に仕掛けを忍ばせて、どこかとどこかを外すと、秘密の場所が現れるようにする、かな。例えば、時計櫓の床に続く場所が現れてくるとか」


おりかが、天井を見上げながら自分の考えをロザリオに伝える。


「どうかしらね。そんな凝った仕掛けをここの天井に? わざわざ? ただのデザインではないのかしら。書館に合う落ち着いた文化的なデザイン」


ロザリオは、おりかの考えに少し懐疑的なようだった。


「まあ、そうですけど……。でも、この上は確実に時計がある場所ですよね。ギャロファーの収納場所でもある。その真下にこの組子天井でしょう。怪しいんですよね……」


答えが出ないまま、ふたりは天井を見つめていた。

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