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57 魔法の料理「出汁茶漬け」

花音が持ってきた食材を、シェフたちは興味深めに眺めていた。


見習いのシェフのひとりオルビスをよびに行く。


「これがあの市場に売っていたと。私は見たことがない食材だ。この硬い魚、どうやって使うんだ? それにこの緑色のもの。海藻? 捨てるゴミではないか……」


料理長たちの驚きのリアクションに、花音はうれしそうに笑って、莉央の腕をひじでつついた。


「ね。見て。みんなの顔。うれしそうだよね」


「うれしいかどうかは……。でも興味深そうなのは確かですね」


オルビスが遅れてやってきた。


「花音さん! どうしたっていうんですか。この食材なんなんですか。今度はどんな料理を見せてくれるんですか?」


走ってきたのだろう。オルビスの息がはずんでいる。


「みなさんが多分見たことも聞いたこともない料理を披露します。先日、パスタの意見交換会で言っていたでしょう。食べたことがない料理があれば食べてみたいって。そこで、私がそれを用意しました」


厨房に小さな拍手が起こる。見習いの若いシェフたちも興味で目を輝かせている。


「では、まずお鍋にお水を入れて、沸かしましょう。少し大きめなお鍋に水をお願いします。あと、シェフ、ライスは残っていますか?」


「昨日の残りであればありますが、新しいものを用意したほうがよいでしょう」


「いいえ。残りのライスで大丈夫です」


花音は、海藻を十センチぐらいの長さに切り、乾燥した魚と一緒に水をはった鍋の中に入れ火にかけた。


「本当は火にかける前に三十分ぐらい水につけておくといいのですが、今日は時間がないのでちょっと手抜きしちゃいますね」


「これは花音の国の料理なのか?」

料理長が聞く。


「私の国の料理ではなく、遠く異国の地の料理だと聞いています。その国の人が作った料理を母が覚えていて、私に作ってくれたんです。とにかくおいしい料理なのでぜひ料理長やみなさんに食べてほしくて」


花音はそう言いながらまわりの人たちに大きな笑顔を向ける。


鍋の中が沸騰してきそうなところで、花音が海藻を取り出す。

火を弱めてさらに数分間魚を入れたまま火にかける。


「それで、この魚を取り出してアクを取って、と。この魚の身を少しほぐして入れちゃおうかな」


手早く進めていく花音の手元を、料理長たちはじっと見ている。


「塩とライスをください。もう出来上がります」


花音の声に見習いのシェフたちがさっと動く。


「では、みなさん、テーブルについてください。あとは、私と莉央が動きますので大丈夫です」


花音は出来上がった出汁の味見をしながら、塩で味を整えていく。


「莉央、ちょっと味を見てくれない。食材が日本とは違うから、ばっちりという感じにはならないんだけど、まあなんとかいけるかな? どう?」


そう言って、ライスにほぐした魚と出汁を入れた出汁茶漬けを莉央に渡した。

そっと味見をする莉央。


「お、お、おいしい……。おいしいですっ。懐かしい気持ちになります……」

言葉をつまらせながら、うっすらと涙を浮かべる莉央。


「ちょっと、泣くほどの料理じゃないじゃない」


「なんか、日本を思い出してしまって。ずいぶん帰ってない気がして……。すみません」


花音は優しく微笑みながら、涙をぬぐっている莉央の頭をなでる。


「はい。じゃあ、これをみんなに運んで。スプーンで食べてもらおうかな」


料理がオルビスや料理長たちのもとに運ばれた。


「ではどうぞ召し上がってみてください」


花音が声をかけると、みなが一斉に出汁茶漬けを口にした。


………………。


誰もなにも言わない。


花音と莉央は不安な顔でお互いに見つめ合ってしまった。


「やっぱり、出汁はこの国の人たちには合わなかったみたい。また違う料理に……」

と花音が言いかけたその時、オルビスが立ち上がり花音に駆け寄ってきた。

そして、花音をぐっと抱きしめた。


「え、え、え。どういうこと。オルビス?」


次に料理長がすっと立ち上がった。


「なんてことだ。こんな料理食べたことがない。こんな料理……。私が知らない味があるなんて……なんてことだ、花音……。これはこれは魔法の料理か……か……」


そう言うと、花音のほうを見て拍手をし始めた。

それを見たシェフたちも次々に立ち上がり拍手を送る。


「おいしかったということですか……?」


花音を抱きしめたままのオルビスが、深くうなずく。


「じゃあ、よかったです。でもちょっとおおげさな……。オルビス……離れて」


その言葉を聞いたオルビスは、はっとした表情になり慌てて花音から離れる。


出汁茶漬けは、大大大好評だった。


花音から作り方を聞いた料理長は、すぐに市場のあの店から、硬い魚と海藻を買ってくるよう指示を出した。


「明日の王族のみなさまの朝食にお出ししてみよう」


「いや、王族のみなさまに召し上がっていただくような料理ではないかと……」


「そんなことはない! これは革命的な料理だ。花音」


「そうかなあ……。それより料理長、これを宮殿に訪れる観光客のみなさまにお出しするはいかがですか。一階ホールのダイニングで出すとか。それに、この料理、めちゃくちゃコストが安いので……」


「その先は言わなくていいです。花音」

オルビスがまじめな顔で花音の言葉を止めた。


「それでは花音、約束通り、花音にご褒美をあげたいんだが」


料理長が片付けをしている花音のそばに来て言った。

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