42 『わらべうた』の歌詞を知りたい
通されたのは、調理室とつながっているダイニングルームだった。
「ロザリオさま、このようなお部屋にご案内したことお許しください。このダイニングは、新メニューなどを作った際に、関係者が試食を行う場所なのです。調理室につながっていたほうが、すぐに味を調整できますし、直接シェフやパティシエといった調理人に感想を伝えることができるため、今回もこちらで召し上がっていただき、忌憚ないご意見をお聞かせいただければと思います」
オルビスが額に汗をかきながら状況を説明する。
そしてそんなオルビスの隣には、エプロンをつけた花音が笑いながら立っていた。
「まったく気にする必要はなくってよ」
そうロザリオが言い終わるか終わらないうちに、その言葉にかぶせせるように声がした。
「そうだぞ、オルビス。まったく気にする必要はない。俺だってここにいるんだから」
声の主はサイラス。
「……なぜあなたが……」
ロザリオの声が低くなる。
「なぜって、オルビスからこの予定を聞いて。それなら俺も行かねばなるまいと思ったんだよ」
おりかと莉央は、こらえきれずにクスクスと笑ってしまった。
「サイラスさまっていつも真剣よね。真剣で天然。ふざけていないのに、なぜか笑ってしまう。ふっふっふっ……」
小声で言ったはずだったが、おりかの言葉がロザリオにも聞こえたようで、それを聞いてロザリオも吹き出してしまった。
サイラスには聞こえていないようだ。
「ではみなさま、こちらへおかけください」
オルビスが執事らしく恭しくみなを席へと案内する。
テーブルは十人掛けだがそれほど広くはない。
小皿にのったパスタが運ばれてくる。
厨房からは、にんにくを炒めるいい香りや、トマトソースの豊潤な香り、ほかにもおいしそうな匂いが漂ってくる。
そこにシェフがやってきて、料理の説明を始めた。
「まずは、こちらがにんにくと燻製肉を薄くスライスものをあえたものになります。味つけは塩とこしょうです。どうぞ」
まずはサイラスが口に運ぶ。
「うまいな。うまいぞ。うまい!」
シェフがうれしそうにうなずき、花音と目を合わせる。
花音もうれしそうだ。
続いてロザリオ、おりか、莉央も口に運ぶ。
「おいしいわ。今まで食べたことがない食材だわ。このひものようなもの。これが『パスタ』というものなの? 花音」
「はい。それがパスタです。ただ、厳密にいうとパスタに似たもの、になります。私たちの国でいうパスタとは少し違っていて。小麦粉も一種類しか使っていないし、パスタマシーンはないので、長くは伸ばせず、本当のパスタよりはかなり短くなってしまっています」
「でも、これでも十分おいしいわ」
そのロザリオの言葉を聞いて、シェフは顔を赤くしながらよろこんでいた。
「では二品目のパスタがこちらになります」
運ばれてきたものにはトマトソースがかけられていた。
今度は花音が説明をする。
「こちらはトマトとにんにくを細かく刻んで、塩やこしょうで煮詰めたソースをかけたパスタです。まずは召し上がってみてください」
サイラスは今までみたことがない、真っ赤なソースに少しとまどっているようで、なかなか口にすることができないでいた。
「では、わたくしが先にいただくわ」
ロザリオはそう言うと、まずはスプーンにトマトソースをのせて口に運ぶ。
「度胸あるな。さすがロザリオだ」
隣に座るサイラスが小声で言った。
「……なんて。なんておしいのかしら。驚きだわ」
ロザリオの目が輝く。
その言葉を聞いて、サイラスもパスタと一緒にトマトソースを食す。
「なんと……。これはなんと表現していいのか……。うますぎるぞ」
サイラスは立ち上がってシェフに近づき、肩を軽くたたく。
シェフはまさかここまで褒めてもらえると思っていなかったようで、サイラスの言葉に涙ぐんだ。
「このソースは、こちらのシェフが考えてくださったのです」
「いや。花音さまが花音さまのお国には、トマトを使ったソースがあると教えてくださったので、それをもとに考えただけです」
「私はただトマトを使ったソースと言っただけで、このようにすばらしいソースを考えたのはシェフです。本当にすばらしいソースです。私も最初に食べた時は感動しました」
シェフと花音がお互いをたたえ合っている間、試食の四人は幾度もおかわりをし、満足いくまでパスタを味わったのだった。
試食のランチはおおいに盛り上がり、ダイニングには笑い声があふれ、和やかな雰囲気に満ちていた。
そんな中、おりかが口を開く。
「オルビスさま。お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
「なんでしょうか」
「先ほど階段の下の聞かせていただいた、『わらべうた』のことです」
「あー、私が祖母から伝え聞いていた歌のことですね。なにか気になることでも?」
「あ、その、不思議な歌詞だったなって思って。私が描く階段の絵の中に、その歌詞を書いたらおもしろいかなと思って。もう一度歌詞を教えていただいてもよいでしょうか」
ロザリオは心の中で
「おりか、よくやったわ」
とつぶやいた。
「いいですよ。何度でも言いますよ。つきのー」
「あ。待ってください。今書き留めますので」
おりかは急いで、バッグからスケッチブックとペンを取り出した。
二人の話を聞いていたサイラスは、不思議そうな顔でオルビスに聞いた。
「なんだ。その『わらべうた』とは?」
「サイラスさまはご存知ないと思いますが、我が家に代々伝わる『わらべうた』があり、おりかさまはその歌詞を書き留めたいと」
ロザリオもおりかの意図をすばやくくみ、話をスムーズに進めるために、さらに説明を加えた。
「オルビスのおばあさまが、オルビスが大きくなって王族の誰かの側近として仕えたならば、その『わらべうた』歌う時がくるかもしれないっておっしゃっていたんですって。そしてオルビス、あなた本当に側近になってしまったわね」
ロザリオの言葉を聞いたサイラスは、その話に興味を持ったらしく、
「オルビス。俺も聞きたいぞ。その『わらべうた』の歌詞を。言ってみろ」
とオルビスに命じた。
「そんなサイラスさまに聞かせるほどの歌詞ではありませんが……。なんかはずかしいですよ」
「いいから、言ってみろ」
「では……」
プロローグ的な第一弾完結しています。
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