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27 聞こえてきた『誰か』の声

コンコンコン。


部屋のドアがノックされる。


「はい。どなた?」

と莉央がドアに近づく。


「セイラです」


「セイラさん?」


ロザリオが来ると思っていた莉央が少し驚いてドアを開けると、手にバスケットを持ちフードで頭をすっぽり覆いロングコートを着たセイラがさっと入ってくる。


「夜はロザリオさまが来ると聞いていたので……。え?」


セイラと名乗る女性がコートを脱ぐと、そこにいたのはロザリオだった。


「ごめんなさい。見つかるとなにかとめんどくさいから、ちょっとだけセイラに変装して来たの」


「あ、いや。そうなんですね。ちょっと驚いてしまって」


ロザリオからコートを受け取った莉央が困惑した表情でたたずむ。


「わざわざロザリオさまに来ていただいてしまって。言ってくだされば私たちがうかがったのに」

花音がロザリオをソファに案内する。


「今日のことで、街の警備が厳しくなっているの。あなたたちがわたくしの家に来るのは、変に怪しまれると思ってセイラに変装してきてみたわ。なにも気遣わなくて大丈夫よ」


ロザリオはいつもと違い、金色の髪をアップにし後ろでくるっとまとめていた。

そして、ソファにかけると花音を心配そうに見つめて言った。


「今日は大変だったわね。莉央。でもギャロファーは無事格納できたみたいで安心したわ。ただ心配なのは、ギャロファーを格納する時になんらかのエネルギーを発生させてしまったかもしれない」


「あ。だから、あの時衛兵さんたちが地下に来たんだ」

窓のカーテンをしめながらおりかが言う。


「多分。詳しいことはサイラスに聞いても教えてくれなかったし、あまり突っ込んで聞くのも変だから。宮殿の衛兵の様子や聞こえてきた話からすると、莉央がギャロファーを格納した時間帯に、王宮の軍部が地下周辺でなにか大きなエネルギーを探知したらしいの。結局調べてもなにもなかったので、今回は問題なしとなったみたいだけど。ただしばらくの間、宮殿内や周辺の警備が少し厳しくなるかもしれないわ」


「私がギャロファーを箱に入れた時……」

ソファの脇に立つ莉央がその時のことを思い出そうとしていた。


「……一瞬ものすごく光ったんです。音もなく光りました。そのあとも、うっすら赤く光ってました。でも、熱くもなんともなく……」


「ものすごく光ったのね。一瞬?」


「はい。一瞬でした」


「それが軍部が感知したなにかしらのエネルギーに関係しているかもしれないわね」


ロザリオのその言葉に、花音が反応する。


「でも、もしそうだとしたら、これからあと二つのギャロファーを格納する時も、エネルギーが発生してしまうってことですよね? それって……」


部屋の中に沈黙が広がる。


ギャロファーが格納されるたびに、エネルギーが発生してしまうとしたら、そのたびに衛兵が動いたとしたら……。そこにいつも三人の誰かがいたら……。


すると莉央のライフがカタッと動いたかと思うと画面が光り出し、リフォアナの姿が現れた。


「それは困ったわね」


「あらリフォアナさま。登場が遅くては?」


ロザリオは立ち上がり膝を軽くまげて挨拶をする。

その言い方にリフォアナがぷっと笑うと、三人もつられて笑顔になった。


「エネルギーが枯渇しているギャロファーが、箱におさめられた時にエネルギーを放出するなんて思いもしなかった。どうすればいいかしら」


大きな問題の話なのに、リフォアナの言い方はなんとなくワクワクした感じが漂っていた。


「二つ目のギャロファーまではこのままの計画でいけると思います」


「えっ」

ロザリオの言葉に思わず花音が声をあげる。


「ロザリオさまがそうおっしゃるなら大丈夫なのでしょう。今回のことで多少は警備は厳しくなるでしょうけど、まだ私たちが動いていることは誰にも知られていないし」


「そうなのです。二回目もエネルギーが発生してしまうと、確実になにかが起っているとして軍部が動きだすでしょうから、問題は三回目なのです」


ロザリオはソファから立ち上がり、リフォアナに近づきじっと目を見る。


リフォアナはその視線を受け止め言った。


「三回目のチャレンジには、王宮の誰かの手助けがないと無理かと。そう思いませんか? ロザリオさま」


「そう思いますわ。でも、わたくしのほかに誰か協力してくれる者がいるか。今すぐには思い浮かびません。今回ギャロファーの件がなぜ起こっているのか、誰の仕業なのか。どちらかの国を陥れるためなのか、破滅させるためなのか。なにも分からない状況でラウール王に報告するのは尚早かと思います。できるなら、穏便に解決することが一番かと」


リフォアナはロザリオの言葉に意味ありげに微笑みながらうなずく。

そして莉央のほうへ顔を向けた。


「ところで、今回は大変だったわね。よく一人で乗り切ったわ」


莉央はイスに座ったまま首を横にふった。


「リフォアナさんのおかげです。あの時、リフォアナさんが抜け道を教えてくれなかったら、私は衛兵に見つかっていたと思います。それで……あの……リフォアナはどうしてあの棚の後ろに抜け道があるって分かったのですか?」


「『誰か』が教えてくれたの」


「誰か?」


「ええ。あの時、あなたのそばに誰かがいて、棚の後ろに抜け道があるって私にライフを通して伝えてきたのよ」


その場にいた全員が、『ん?』という表情になった。


おりかがおそるおそる莉央に聞く。


「誰か、いたの?」


「……いないです。誰もいないです」


「だって……リフォアナがいたって……」


二人の様子を見ていたリフォアナは、言葉を選ぶようにしてロザリオを見て言う。


「そう。実際にはいなかった。でも、念のようなものが私に話しかけてきたんだと思う」


「それって……」


ロザリオの息をのんだようだ言葉に、リフォアナは目に力を込めてうなずきながら続ける。


「そう。こちらの世界に、この計画を知っていて、協力してくれようとしている『誰か』、もしくは『なにか』がいるんだと思う」


こちらの世界に、今回の経緯を知っていて、助けてくれようとしている者がいる?


そんなことはあり得ない。


ロザリオはこのことを誰にも話していないし、セイラが外部に漏らすとは思えない。

とすると、誰が? 

ロザリオは混乱でリフォアナに言葉を返せない。


「だからロザリオさま。その誰かを探し出すことが、三回目の成功のカギを握ることになると思うのです」


そうか。

その誰かが分かれば、協力をお願いできる。


そしてその誰かは、きっと宮殿内にいるのだ。

って誰?

宮殿に王族付きの魔法使いでもいるというの?


「分かりました。リフォアナさま。ただどうやってその誰かを見つければいいのか。少し考える時間をいただきたいと思います。わたくし、ちょっと混乱してしまって。万が一宮殿内や王族にその誰かがいたとしたら、それは心強い味方であるかもしませんが、敵になる可能性もあると考えられるので、慎重に行動しないと」


莉央、花音、おりかは驚きでなにも言えなかった。

自分たち以外にこの計画を知っている者がいるなんて。

しかも宮殿に。


「では私はそろそろエネルギー切れ。ロザリオさま、どうかよろしくお願いします」


リフォアナの姿はだんだん透明になっていき、ふっと部屋から消えていった。


リフォアナがいなくなったあと、誰も言葉を発しなかった。


しばし部屋に静寂の時間が流れたあと、ロザリオが立ち上がり、わざとスカートの裾を整えるバサバサという音をたて、部屋の止まった空気を動かす。

そしてバスケットの中からおいしそうなパンを取り出す。


「まあ、いろいろ考えることはあるけれど、仕方ないわ。やるしかないんだもの。さ、夜ごはんを食べましょう。お腹が空いたわ。これセイラが持たせてくれたの」


バスケットの中にはパンだけでなく、ハムやチーズや野菜なども詰められていて、それを見た三人の表情に笑顔がともり、部屋の雰囲気が一気に和らいだ。

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