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25 花園

「ロ・ザ・リ・オ」


サイラスが満面の笑みでロザリオに近づき、手の甲に軽くキスをする。

無言のロザリオ。


「いきなり今日お茶会を開くなんて驚いたよ」


「夕べ思い立ってしまったら、もうどうしても今日お茶会を開きたくなってしまって。気まぐれで申し訳ありません。わがままなわたくしを許してくださる?」


美しくウエーブした金色の髪を高い位置でポニーテールに結ったロザリオの美しさはひとしおだった。


そんな彼女から「許してくださる?」なんて言われてしまったら、サイラスはもうなにも言えなくなる。


「全然かまわないさ。今日はオルビスが、新しいデザートの試食会をパティシエと行う予定だったんで、ちょうどよかった」


「ありがとうございます。サイラスさま」


ひざを少し曲げてのお礼の挨拶に、サイラスは抱きしめたくなる衝動を抑える。


「ところで、オルビスさまが今話しているのは、先日ご紹介いただいた旅行者の方かしら」


「うーん。そうかな。こちらへよんでこよう」


そう言って、そばにいた給仕係の女性に、オルビスたちをここによんでくるよう声をかけた。


しばらくするとオルビスが花音を連れてやってきた。


「ロザリオさま! 本日はお茶会を開催していただきありがとうございます。ご令嬢のみなさまに、新作のデザートを食べていただけて光栄です」


「それはよかった。そちらは?」


「花音さまでございます。覚えていらっしゃいますか? 先ほど偶然宮殿内で花音さまにお会いしまして、私がぜひとお誘いしたのです」


花音は、ロザリオに深く会釈をした。


「確か……ほかにもいとこの方がいらしたわよね。その方たちは?」


ロザリオが二人がいないことになにかを察知してくれたのだろうか。

花音は莉央の状況を伝えたいがサイラスがそばいるため、どうしていいのか分からずに言葉につまってしまった。


するとロザリオが

「花音さま、このお庭にはここでしか見ることができない花があるの。せっかくお茶会にいらしてくれたのですから、ぜひお見せしたいわ」

そう言って花音の手を取り、庭園の奥にあるという花園へ案内しようとした。


そしてサイラスも当たり前のように一緒に行こうとしたが、ロザリオは後ろを振り返り

「サイラスさまが私以外の女性の方と花を見ることは悲しい気持ちになりますので……」

とうつむいて言うと、サイラスは頬を少し赤くして、「二人でどうぞ」と見送った。



花園へ向かう途中、ロザリオが何人もの令嬢たちに挨拶を受けていたので、二人は道々は話すことができなかった。

そしてやっと人気のない庭園の奥へとたどり着く。


そこには、空間の色が赤やピンク、黄色にオレンジに染まる夢のような景色が広がっていた。

いくつものアーチにはバラのような花が巻きつき、色分けされた花々が咲く花園エリアだ。


そしてそこを抜けると青々とした芝生が敷き詰められた小さな広場のような場所があり、その中心に緑の蔦が巻きつくガゼボがあった。

そのまわりにも、色とりどりの花々がこれでもかと咲き誇る。


そのガゼボの下は大理石のような大きな石が、膝ぐらいの高さに円を描くようにぐるりと積まれて、ベンチになっていた。


二人はそこに腰をかけて早歩きで乱れていた息を整える。


「なにかあったようね。さっき花音とおりかが話しているのを見たわ。莉央は?」


「それが、莉央が倉庫に行ったきり連絡が取れないのです」


「連絡が? あなたたちが持っていたライフ、だったかしら、それがあれば話せるのでは?」


「ライフがつながらないのです」


「…………」


「あの倉庫周辺で高濃度のエネルギーが感知されたとかで、衛兵たちがやってきて倉庫や階段やその周辺が閉鎖されてしまって」


「なんてこと……。ギャロファーがなにかのきっかけでエネルギーを発してしまったのかしら……」

ロザリオは手で口を押えた。


「莉央が衛兵に見つかった様子はないそうです。きっとどこかに隠れているか、魔法でなんとかしているか。それで、莉央が戻ってきた時のために、おりかは部屋で、私は庭園で待つことにしたのです」


「そうだったのね。…………でも、あなた、すごく楽しそうにしてたわ。莉央のこと全然心配してないみたいに見えたわ」

ロザリオが少し訝しむように花音を見る。


「あ、は、は。莉央はいざとなったら魔法があるし、今私たちが騒いだり下手に動いたりして怪しまれたら、それこそ任務が実行できなくなるし……。

まあ、おりかほどは心配してないかもしれないけど……。それに庭園にいたのは」


「しっ。静かに。なにか物音が聞こえるわ。わたくしたちの会話を盗聴しているのかも」


ロザリオの表情が厳しくなる。花音も耳をすませる。確かにとぎれとぎれに音が聞こえる。

なにか大きな石や岩でも押しているような重々しい音。


花園には風が吹いて花びらが舞っていた。

花々からの香しい空気があたり一面に溢れ、遠くからのお茶会で演奏されているピアノやヴァイオリンの音色が風に混じる。


「音、止まりましたね」


「ええ。でも……」


すると、足元のほうからはっきりとゴリゴリという音が聞こえてきた。


二人は顔を見合わせ音のするほうをじっと見た。

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