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21 カギが、カギが開かない

「びっくりしたー。まさか宮殿でロザリオさまに会うなんて」


 休憩室に戻った瞬間、おりかが驚きの声をあげた。


「しかも、第二王子の婚約者。どうなってるの? そんなの聞いてなかったよね」

 花音が続ける。


「でも、昨日の時点でそれを私たちに言う必要はありませんでしたよ」

莉央が冷静に返す。


「私たちが怪しまれているってことではなかったと思う。部屋の調度品とかテーブルとか、ちょっと触ってみたけど、そういう疑念とか悪意は感じられなかったから」


「え? 花音能力使ってたの?」


「いや。使ったっていうほどのことじゃなくて、ちょっと触って分かる範囲で感じてみただけ。もし、私たちを怪しんでどうにかしようとしていたら、その気持ちが部屋のあらゆるものに反映されると思うから」


宮殿に鐘の音とトランペットの音が響き渡る。

二度目の王族の挨拶の時間だ。


三人は再度地下に倉庫へ向かう準備をした。


「もうギャロファーを置く場所の目安はついてるから、倉庫の中へは莉央が一人で行けるよね。花音はさっきと同じように廊下の周辺で見張り役。私は倉庫の入口の前で待つわ。なにかあった時は……なんとかするわ」


「なんとかって……。不安です」


莉央は胸のあたりで指を組んで下を向いている。


「大丈夫よ。莉央が私たちの中では一番能力が高いのよ。自信持って大丈夫だよ。このギャロファーは莉央しかそこに置けないのよ。逃げられない。いざとなったら、魔法の力を使えばいい」


おりかは励ますように莉央の背中をさする。


「き、緊張して、いざとなったらどんな魔法を使えばいいのか分からなくなる気がして……。怖いです。今までこんな場面に遭遇したことないし」


「誰もないよ」


花音もそばにきて莉央の組んでいる手をに自分の手を添える。


「魔法が思いつかなかったら、私を呼べばいい。『ぶるーとす』と私とでなにか描いて助けるから」


外から大きな歓声があがる。王族の挨拶が始まったようだ。


「時間がないわ。早く」


花音が扉を開け、三人は足早に廊下を進み、地下への階段へたどり着く。

莉央とおりかは階段をおりていく。

花音は階段が見える廊下のすみに体を潜ませる。


莉央とおりかが倉庫の入口の前にたどりついた。


「莉央、私はここで待つ。ライフは持ってるよね。ライフの画面の明かりがライト替わりになると思うから、それで照らして」


「あぁスマホみたいですもんね。分かりました」


足もライフを持つ手も震えてる。

でも、もう行くしかない。

中に人の気配はない。ゆっくりと進む。

この部屋の奥に小さな扉があるはずだ。


(あった)


普通のドアの半分ぐらいの大きさの扉が莉央の目の間に現れた。

引いてみる。

動かない。

押してみる。

動かない。


(カギがかかってる。どうしよう)


すると、倉庫の入口が開き、外から薄い光が入ってきた。


(どうしよう。誰か来た。おりかさん、止められなかったの?)


「本当にここに落としたのですか」

男性の声がする。


「そうなんです。昨日買った記念のキーホルダーを落としてしまったんです」

おりかの声だ。


「でも倉庫に入りこむことはないと思いますよ」


「ですかね。でも念には念を。お手数をおかけしてすみません」


「うーん。ないですね。さすがにこれ以上奥に転がるとは思えませんし。もうよろしいでしょうか」


「はい……。あきらめます。すみませんこんなところまで。ありがとうございました」


二人の足音が遠ざかり、倉庫内は再び闇に包まれる。おりかと誰かのやり取りの間に、莉央の緊張が少しおさまった。


(よく分からないけど、おりかさんがなんとかしたんだわ。大丈夫。大丈夫。それで、カギよね。カギがかかってる。落ち着け。魔法でカギをなんとかすればいいのよ。でもどうやってなんとかする? どんな魔法を使えばいい……。考えるのよ自分。落ち着け。王族の挨拶は十五分ぐらい。もう時間がないわ。あぁぁ、どんな魔法を……)


その時、ライフの画面がかすかに光った。

すると目の前にリフォアナが現れた。


「私が見えるのは三分。それ以上はパワーを感知される恐れがあるわ」


莉央の目から涙がぽろぽろとこぼれる。


「泣いている時間もないわ」


「……はい」


「状況は?」


「カギがかかっていて扉が開かないんです」


「そう。分かった。莉央、指から魔法の糸を出してみて」


リフォアナに言われた通り、右手の人差し指から糸を出す。


「いいわよ。そのままその糸を鍵穴に通すイメージで。そうそう。あなたは糸を操れるんだかから。そうしたら、いい、ここからが大事よ。鍵穴の中で糸を膨らませては光をはじかせるの」


パン。鍵穴の中でなにかがはじける音がした。


「さ、扉を押して」


すると、トンと扉が開いた。同時にリフォアナの姿が消えた。


莉央は中腰になり、急いで扉の中へ入った。

中は立つと頭が天井についてしまうほどの高さしかない小部屋になっていた。

その奥に古い箱のようなものが置いてある。


莉央はライフで照らしてみた。

それはがっちりとした木箱で、ふたの上下の部分には複雑な模様が彫られていた。


(これはリフォアナに見せてもらったギャロファーを置く箱の証。間違いない)


そして、ふたの真ん中には石を置くようなくぼみがあった。


(ここにギャロファーを置くと箱が開くのかしら。きっとそうだわ。それでこの中にギャロファーを入れるのね)


莉央が箱の上をそっとなでると、ふたに積もったほこりがさっと落ちた。

そしてすぐに立ち上がり小部屋をあとにした。


倉庫の入口にはおりかはおらず、一階へあがると廊下に立っていた。


「莉央っ。よかった無事戻ってきたっ」


おりかが莉央を抱きしめる。


「ごめんね。驚いたでしょう。私が倉庫前にいたら、さっき会ったオルビスさんが来たのよ。びっくりだった。オルビスさんの前じゃ能力使えないし、どうしようかと思ってとっさに出たウソが、『キーホルダーを落とした』だったの。もう自分の語彙力のなさが泣けるわー」


「はい。驚きましたけど、おりかさんを信じていたので不安はなかったです。あの、花音さんは?」


「なんかオルビスさんに気に入られて、キッチンに連れていかれたわ。花音がおいしそうにお菓子を食べているのを見て、もっとおしいもの食べさせてあげたくなって、花音を探していたんだって。そしたら私が階段の下にいて」


「じゃあ花音さんは……」


「よろこんでついていったわ」


莉央とおりかは顔を見合わせて苦笑いをした。


「場所は確定できた?」


「できました! あの文様が彫られている木箱がありました」


「よし。よくやった莉央」


「はい。ただ、私一人の力でなく……」


「ん? どういうこと?」


「リフォアナさんが出てきたんです。ライフから……」


「リフォアナがっ!?」

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