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19 『光の間』の壁の秘密

そこには、黒いマントのようなものを着ている人たちが並んでいた。

壁の鏡を割っている。


遠くから「ほかの鏡は割るな」という男性の声が聞こえる。

鏡が割れる。


その先は、暗い空間があるようだ。

細い道?

でもここは宮殿の広間。壁の中に道なんて……。


するとそれまで真っ暗だった空間に光がさし込んできた。


あ、これ壁の反対側の部屋の壁も開いたんだ。

ということは、この細い空間は壁と壁の間、広間と広間の間にある空間ってこと?


視えている場面が変わる。


その暗く細い空間を誰から走っている。

まるで逃げているよう。


じっと目をこらすと、その人物は……きれいなドレスを着ている女性と女の子。

緊迫した空気が伝わってくる。


逃げているんだ。この人たち。

この空間は逃げ道?



突然、花音は腕をぐっとつかまれ、現実の世界に戻される。


おりかの声だ。


「花音、警備の衛兵が見回ってるわ。一度部屋から出るわよ。立てる?」


「立てない……力が……」


すると莉央がすかさず花音の背中にまわり、魔法でエネルギーを流し込んだようで、花音の意思には関係なく体が動きだした。


「いったん庭園まで行って、観光のふりをして部屋に戻りましょう」

莉央はそう言うと花音の腰に手を当てて歩きだした。



『群青の間』に戻ってくると、花音はソファに横になった。


(入り込んでしまったわ。リフォアナに気をつけるよう言われていたのに)


おりかがコップに水を入れて持ってきてくれた。


「大丈夫? なにか視えていたんだね。石の置き場はあった?」


花音はコップを受け取ると一気に水を飲み干した。


「視えたわ。あの板の部分は出入口になっている。隣の部屋との間に細い空間があって、道のようになっていると思う」


「ギャロファーの置き場は?」


「置き場自体は視えなかったけど、空間はあるからギャロファーを置くことはできると思う。ん? 莉央、なに涙くんでるの?」


「視てる間、花音さんの影が薄くなっていくようで、私怖かった。訓練の時みたいに、ちゃんと魔法の糸を花音さんに巻いておけばよかった……。気がつかなくてすみません」


「なに言ってるの。私が入り込みすぎたのがまずかったの。リフォアナにそこを注意するよう言われていたのに、こっちに来て初めて視るから緊張してそのことを忘れちゃって。次からは気をつけるし、深く視る時がきたら、もちろん莉央に巻いてもらうわ。魔法の糸をね」


「はい……。はい……。よかった……戻れて……」


莉央は花音の横に座り、しくしく泣き始めた。


「泣いている時間はないよ。もう十一時になる。次の場所に行くよ。今度は莉央の出番だから気合入れて」


おりかは、しんみりしてる二人にはおかまいなしに声をかけた。


警備が薄くなる時間だ。

今度は地下室へ向かわないと。


「花音、大丈夫。動ける?」


「平気。さっき莉央の魔法でエネルギーを入れてもらえたみたいだから動けるようになった」


廊下や宮殿全体に大きな鐘の音が響き渡る。

そしてトランペットのような楽器の音が高らかに鳴り響いた。

王族の挨拶が始まる合図だ。


庭園には大きな拍手と歓声が広がっている。


そしてそんな喧噪とは反対に、宮殿の中は静まりかえっている。

三人は廊下に出て地下への階段へ向かう。


「あった。階段。今私が靴を下に落とすから、それを拾いにいくってことで莉央と私は、下におりるね。花音はここで見張っていて。誰か来たり、なにかあったら声をかけて」


おりかの指示に従って花音は待機、莉央はおりかと階段をおりていった。

地下の廊下は薄暗く、空気はしっとりと湿っているようだった。


ロザリオから教えてもらった道順をたどりっていくと、奥に大きな木の扉が見えてきた。


「これじゃないですか? ここが倉庫みたいですね」


莉央が扉を押しててみると、扉はギギっと音をたてて開いた。


「開きましたっ。おりかさんっ」


「入ってみよう。莉央、あ、ちょっと待って。暗いからライト的なものを描くわ」

おりかはそう言うとバッグから『ぶるーとす』を取り出して、ささっと明かりがともったランタンを描いた。


「すごいです。魔法みたいです」


目を輝かせる莉央の手を引っ張り、二人で倉庫の中に入っていく。


「ロザリオさまの話だとこの倉庫の奥に……」

とおりかが言いかけた時、かすかに花音の声が聞こえてきた。


「靴は見つかりましたかあー」


戻ってこいという合図だ。


おりかと莉央は、慌てて倉庫から出て、走るように階段をのぼった。

すると花音の隣には、親切そうな衛兵が心配そうに立っていた。


おりかが

「すみません。宮殿のすごさにはしゃいでいたら、思い切り靴を飛ばしてしまって」

と言うと、

「靴は見つかったようですね。もしまた靴を落としてしまったら、私たち衛兵に声をかけてください。地下は倉庫になっていて、あまり出入りがないので、ネズミとかいるかもしれませんからね」

と言って去っていった。


「焦りましたよ」

花音が胸に手を当てて口をとがらせ続ける。


「でも今の衛兵さんの言葉で倉庫ってことは確定したね。どうでした? ギャロファーを置く場所は特定できました?」


「倉庫には入ることはできたんだけど、ロザリオさまが言っていた奥の小さな扉までは確認できなかったわ」


「でも、ありそうでした。奥に扉が」


三人が廊下でコソコソと話をしていると、一人の男性が近づいてきた。衛兵の服装ではない。かといって観光客でもなく、貴族のような装いだった。


「こんにちは」

と花音を見て挨拶をしてくる。


「あ、はい……こんにちは、どこかでお会いしました?」

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