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13 影の役割

「『影の役割』を持つ者は、普通の人にはない能力を持って生まれてくるの。わたくしは、ラウラレ界へ行ける能力と、この世界の者ではない人間を見分ける能力。例えば魔力を持つ者。死者。死者の多くは、怪しい魔法で操られている場合が多いわ。そして……渡り人を見抜くことができる」


そう言うとロザリオは、三人をじっと見つめた。


「この世界の者でない人物を見つけた場合、わたくしの任務はその存在の理由を探り、危険だと思った場合は王族直属の内務部門に連絡します。その後は『影』の仕事ではないため、その者に処遇については関与いたしません」


「……危険じゃないと判断した場合はどうするんですか?」


おりかは、ここは最年長の自分がやり取りをするべきと判断し質問していく。


「その者がいるべき世界に戻します」


「今まで渡り人に会ったことはあるんですか?」


「ないわ」


「…………」


「ないけれど、生まれ持った能力と訓練で見抜くことはできる。今回あなたたちがこちらへやってきたのは、一昨日ではなくて? 体が今まで感じたことのないような感覚に襲われたわ」


「はい。一昨日です」


「誰にも怪しまれず? 誰かになにか変な質問はされなかった?」


「怪しまれてはいないと思います。話したのは案内所の女性、宿の受付の人、宮殿の案内係。あとは……」


「私は街の屋台のような場所で、観光客や街の人たちと少し話しました。でも、特に変な質問はされていません」

花音が自分の状況を伝える。


「そこでなにを話したの?」


「えっと、おいしい食べ物を情報とか。あとは、宮殿の見学にはプレシャスパスがいいとか。そういう情報を教えてもらいました」


「そう。プレシャスパスの存在は、宮殿マニアや王族ファンの一部の人しか知らない情報ですものね。よく聞きだしたわ。ところで、あなたたち、宮殿マニアには見えないし、王族に興味をなさそうなのに、なぜプレシャスパスが必要だったのかしら」


「…………」


「こちらの世界に来た目的と関係するのかしら。あー、もう頭の中がまとまらない。なんのためにどうやってこちらの世界に来たの? この前ラウラレ界へ行った時には、グラダナスさまはなにもおっしゃっていなかったわ」


ロザリオの言葉に、三人はなにも答えられないでいた。


そんな無言の三人にロザリオは少しいらだった声で言う。


「あなたたち、わたくしが見つけなければ、内務の兵士に殺されていたかもしれないのよ。渡り人を狩るといわれている魔妖犬も、昨日からあなたたちの存在に気づいていたようだし。兵士以外にも渡り人を狙っている組織もあると聞くわ。そんなことも知らずに、なんの防御もなく宮殿に出入りするなんて、自殺行為だわ。ねえ、自分たちの危機的な状況を分かっている?」


「分かってなかったです……。じゃあ私たちは、ロザリオさまに見つけてもらってよかったってことなんですよね」


「そうよ。今のところはよかったと思うわ。でもこちらに来た目的によっては、命の保証はできないわ。さあ、目的を教えて」


少し強い口調になってきたロザリオを落ち着かせるように、セイラが部屋の窓を開けてバルコニーから風を入れる。

そして、バルコニーにワゴンを運び、テーブルになにかを並べ始めた。


「みなさま、いったんお茶とお菓子の時間にいたしましょう。こちらは、王宮専属のパティシエが作ったスペシャルなケーキでございます。よろしいですよね、ロザリオさま」


ロザリオは苦笑いをしながらうなずくと立ち上がり、窓からの風に金の髪をなびかせた。

伯爵令嬢の気品とその迫力ある美しさに、三人は今の状況を忘れて見とれてしまった。


すると莉央がつぶやいた。


「リフォアナさまみたい……」


「リフォアナ? それはどなた?」


「ラウラレ界に君臨するビーナス、ですかね」


「わたくしその方とはお会いしたことはないわ。……その方が今回あなたたちをこちらに?」


「みなさま、まずはケーキを召し上がってはいかがですか。先ほどオーブンで温めましたので冷めないうちに。お話はその後で。ロザリオさま、少し落ち着いてくださいませ」


「そうね。ごめんなさい。さあ、バルコニーに出ましょう。昨日の宮殿のお茶会でふるまわれた特別なケーキよ」


ロザリオは三人を庭が見渡せるバルコニーのテーブルに案内した。


まっさきに席に着き目を輝かせたのは花音だ。


「うっ。おいしそう。異世界の王族専属パティシエが作ったケーキを食べられるなんて。夢のよう」


「あなたお名前は?」


「花音です」


「ケーキがお好きなの?」


「はい。ただケーキはもちろんですが、おいしいものならなんでも大好きなんです。広場の屋台で食べたお肉を柔らかく煮てそれをカリっと焼き上げた料理は絶品でした。あと、薄いクレープのような、あ、クレープってこちらの世界でもあります?」


「ないわ」


「えっと、小麦粉を水に溶いて薄く焼いたものなんですけど、それに砂糖をまぶしてさっと焼いてそこに果物をのせて、私のいた世界では食べたことないクリームがのっていました。それも倒れてしまいそうになるほどおいしかったです。屋台にはもっと食べたいものがありました!」


「そう、なのね。わたくし屋台のものを食べたことがないので分からないけれど。今度食べてみようかしら」


ロザリオがそう言っている間にも、花音はケーキを口いっぱいにほおばる。


「お、おいしい……。今まで食べたケーキの中でも群を抜いておいしいです。おいしいです。ロザリオさまっ」


「それはよかったわ」


そんな二人の会話に、場の雰囲気もほぐれてきた頃、部屋のドアがノックされた。

セイラがドアを開けると、そこには執事の男性が立っていた。


「ロザリオさまにローズベリー伯爵家のソフィアさまよりご伝言が届いております。こちらです」

と、一通の封筒をセイラに手渡した。


「セイラ、中のものを」


ロザリオがセイラから受け取った封筒の中に入っていたメモにさっと目を通すと、厳しい口調で言った。


「セイラ、窓を閉めて。みなすぐに部屋の中に入って」


「どうされました?」


「ソフィアから連絡が。王族の警備隊の魔妖犬もなにかに反応しているらしく、街の中を巡回しているらしいわ。ここは大丈夫だけど念のため。邸宅全体に結界がはられているので魔妖犬は反応しないわ。でも事態は動き始まっている。そろそろあなたたちの話を聞かせてもらうわ。思ったより急がないといけないかもしれない」


「少しだけ時間をいただけませんか。少し三人で話す時間をください」


「分かりました。ではわたくしとセイラは席をはずします。十分たったら戻ってきます。それでよろしいかしら」


「はい」

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