9.最悪の日
誤字脱字、誤用などありましたら申し訳ありません。
宜しくお願い致します。
胸に渦巻くこの不快な感情が何なのか、馬鹿な俺でも分かる。
だがいつからこの感情が俺の中にあったのか、それはどれだけ思い出そうとしても分からなかった。
「あああぁっ!! 畜生! 畜生! 糞クソクソクソ野郎がぁぁあっ!!!」
何もかも上手くいかない。俺の人生はいつもそんなことばかりだった。
村を追われた後も、俺は必死に生きてきた。
少し離れた港町で働き、見下されても、野盗に成り下がっても、必死に生きていた。
でも現実はいつだって俺を見放すんだ。
仲間ができて、最低な自分でも何かを成せるんじゃないかと期待した。
だが野盗になってまだ季節は一回りもしていないのに、既に俺たちは限界が近い。
商人の奴らも馬鹿じゃない。
やりすぎると大陸の端にある村なんかに商人は来なくなるし、当然護衛を雇うため襲撃の成功率は下がる。
とうとう俺たちは最果ての森に生っている果実や動物を狩って食いつなぐ程困窮した。
「よぉ、村人にやられた毒は抜けたのか? 騒いでんのはどうでもいいが、計画を知った村人は本当に始末したんだろうな」
「うるせえっ! テメェからぶっ殺すぞ!!」
「お前が毒で動けねえっつーから全員足止め食らってんだろうがよ。騒ぐ元気があるんならさっさと準備進めろやボケ」
極めつけは仲間割れだ。
まだ完全に分裂するほどではないが、このグループは常にこんな状態で互いに罵り合いながら、何とか共に生きている状況だ。
「分かってんだよ……っ」
いつもいつも悪いのは自分だって、俺も分かっっているんだ。でも、いつも駄目なんだ。
いつもいつも我慢ができない、このどす黒い怒りの感情が、自分じゃ処理できないんだ。
握りしめた拳から血が滴り落ちている。それでも手から力は抜けてくれない。
何処かに振り下ろすまで、この拳は開いてくれないのだ。
幸い、チャンスはある。このどうしようもない感情を晴らすためのチャンスは外部からもたらされたのだ。
憂さ晴らしの手段も手に入れて、後は実行するだけだった。
思わぬ邪魔が入ったが、邪魔者は殺してやった。
息子もアンデットをけしかけて排除した。
邪魔者のせいで思わぬ足止めは食らったが、この怒りは全てあの村にぶちまける。
俺の原点、始まりを消して、潰して、踏み越えて。
「再出発だ」
呟きは誰にも届いておらず、返事もなかった。
あの森で狩人を殺してから一日が過ぎようとしていた。
既に日は沈みかけ、アンデットを放つ絶好の機会がやって来る。
俺たちは村から少し離れた地点までやってきており、後はアンデットを出現させる魔道具を起動させるだけ。
だがここまで来ても不安が胸の奥底にある。
また、上手くいかないのではないか。
魔道具だと渡されたが、それが本当に魔道具かどうかも俺には確かめることができない。
些細な心の動きさえ、今の俺には怒りの種となる。
「ホントに効くのかよ、コレ」
首から提げるアンデット除けの魔道具を身に着けながら毒づく。
「お前が毒で寝ている間、効果は試してある。問題は無かった」
「そうかよ、ならそろそろアンデットを放すぞ。他の奴らが我慢できずに、村へ突っ込んで行きそうだ」
不安を感じているとしても、引き返せる一線はとうに超えている。
迷いを振り切り、怒りに身を任せ、俺は魔道具を起動した。
「一旦離れろっ! アンデット共が襲ってこないのを確認したら好きに奪え!」
地面に設置した魔道具が赤く発光し、半透明の赤黒い物体が出現する。
その物体はどんどん大きさを増していき、丘のような大きさになると、半透明だった物体が突然どす黒く染まる。
注視するとその空間にはみっちりとアンデット共が格納されていた。
「うげぇ、あれ全部アンデットかよ。変な出現の仕方だなぁおい」
「いや、つーか数が多すぎやしねーか? どこまで広がんだよコレ」
次の瞬間、アンデット共を閉じ込めていた赤黒い物体が四方に弾け飛ぶ。
同時にアンデット共が行動を始めた。
足が潰れているにも関わらず凄い速さで這いずっていくもの、獣のように走り出すもの。血を撒き散らし、叫んで彼方を睨むもの。
様々なアンデットが蠢いているが、理解できないことが一つある。
「おい……おい! どうなってんだ! アンデット共が村の方へ向かってねえぞ!」
「こいつら何処向かって……っ!」
アンデット共は村に向かわず、東へ向かい始める。
「東には何も……村人が逃げたのか?」
「……取り敢えず村へ向か_____」
その時だった。
アンデット共が向かった東の方で轟音が響いたと思ったら、俺たちの目の前に何かが飛来し着弾した。
「____っっなんだぁ!!」
「照らせ! 一体なんなんだ畜生!」
土埃が晴れる。
松明の光に照らされたのは、子供のアンデットにしか見えなかった。
しかしただのアンデットでないことは直感で理解できた。
目には意思の光が灯り、アンデット特有の濁った瞳をしていない。
そして何より服や体に一切の汚れや破損がない。
「君たちが野盗で間違いないね」
鈴の音のような声。なのに何処か貫禄を感じてしまう。
何が起こっているのか分からないが、俺たちは目の前の子供が敵だと判断し戦闘態勢をとる。
仲間の一人が剣で切りかかるが、その姿が瞬時に消える。
「は?」
「まず一人」
その後も一人、また一人と音もなく消えていく。
駄目だ、目で追えねぇ……っ!
「なんだ、なんだよ……何なんだよ!!! 誰なんだよてめえはよぉ!!!」
「一旦、さようなら」
また上手くいかないのか。
子供が俺の体に触れたと感じる前に、俺の視界と思考は黒く染まった。
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