6.相対する者、走る者
誤字脱字、誤用などありましたら申し訳ありません。
宜しくお願い致します。
大量に湧いて出たアンデット。三百体以上とは言ったが、まさか五百体もいるとは思わなかった。
現在は倒した五百体のアンデットの躯を、まとめて浄化するために集めたところだ。
《封緘》でまとめて躯を収納し浄化を掛けながら、戦闘前に保護していた少年を開放する。
「うわっ!」
「扱いが手荒になってしまってすまない。一応確認するが怪我や体の不調はあるかい?」
「い、いえ、大丈夫です。あなたが来なければ死んでました。助けていただいてありがとうございます」
「いやいや、肩慣らしには丁度いい相手だったからね。礼には及ばないよ。それよりまずは自己紹介でもしようか。私の名前はブラックドッグ、墓守だ」
この世界に墓守という職業がなくとも、私が墓守であることに変わりはない。
幸い目の前の少年は墓守という職業に疑いを持っていないようだ。
「俺の名前はクロウです。近くに俺の住んでる村、ハイテ村があって、俺は猟師の父と森に狩りに来ていたんです」
「……何があったのか、聞いてもかまわないかな?」
「はい。……あれは父と森に入って、しばらくしたときでした」
*
「おかしい、動物たちの気配が遠い」
「全然いないね、これは入り口付近の罠はハズレかなぁ」
「……最悪罠は全て放棄する。不測の事態に備えよう。出口と村までのルートは頭に入っているな?」
「まず最短で森を抜けて、それから村まで戻るだけでしょ?目をつむってたって楽勝だよ」
森で狩りの準備を進めていた父さんは、森の異変を確かに感じ取っていた。
対して俺は、今日は獲物が少なそうだなとしか思っていなかった。
もし何か化け物が出ても父さんと二人なら倒してやれる、駄目でも足の速い森を熟知した俺たちなら逃げ切れると思っていたんだ。
「……何か居るな。ここからは何かあったら合図する」
ほどなくして父さんは何か見つけたらしい。警戒しつつ移動していたがここからはより集中して周囲の様子をさぐりながら進んでいた。
この先は確か開けた場所があったはずだ。一度だけ休憩に立ち寄ったことがある。
父さんが立ち止まり、『待機』と『様子見』の合図を出す。
視線の先を追うと開けた場所にいたのは人間だった。着ている服や体の汚れ具合からして野盗だろう。野盗の男は何かを待っているような感じだ。
そろそろ日が沈む。普段の狩りならもうとっくに村に戻っている時間だ。
ただ俺たちは待つのには慣れている。余計なことは考えず、男の挙動を観察し続ける。
そしてその時がやって来た。
野盗の男の前に、顔面をすっぽり覆うマスクを被った男が突然現れた。
当然俺も父さんも周囲の警戒をしっかりしていた。
マスクの男が現れるときも、瞬きすらしていなかったのに、本当に何時の間にかそこにいた。
「遅せーよ! いつまで待たせんだギギラァ!」
「詳細な時間指定はしてねーな。日が暮れる頃、としか言ってねえ。つか態度がでけぇ、自分の立場分かってんのか?」
野盗の男は舌打ちして黙り込む。
それにしてもあのマスク、ギギラと呼ばれていた男の存在感は異常だ。
怒っている森の獣たちでもここまで嫌な感じはしない。あの男が現れてから俺も、父さんも冷汗が止まらず息が詰まる。俺達には気づいていないのが救いだ。
「それで、例のモンは?」
「ほい、アンデットを集める魔道具とアンデット除け、あと保険ね。集める方は斥候用と本丸用の二つ。斥候用は本丸用と違って数も少ないし質も低い。森の南東にある、崖近くの平地にしまってある。本丸用はどこでも使用可能だ。別の空間に保管してあるアンデットを召喚するタイプだから到着を待つ必要もねえ」
「そいつはいい、奇襲に打って付けじゃねえか」
「そんじゃ、数日後また来る。ちゃんと死体は残しとけよ」
「うるせーな、心配しなくても村の連中は若い女を除いて皆殺しだ。死体はいらねぇし、そっちが引き取ってくれんなら万々歳だ」
「お仲間にもよろしく」
ギギラとかいう男は、野盗の男と取引をした後消えた。
やはり最初に現れたときと同じで一瞬で移動できる何かを持っている可能性がある。
それにさっき話していた中で出てきた『村』ってもしかして……
俺は不気味な男が消えたことによって安心してしまった。
そして二人の話の内容思い出して動揺してしまう。
このことを早く村のみんなに知らせようと焦ってしまったのかもしれない。
父さんから合図が出ていないのに、俺は一歩、たった一歩だが後退してしまった。
結果、俺は地面から露出していた木の根に足を取られバランスを崩し、音を立ててしまった。
「誰だ!!」
後悔しても遅い。どうすればいいか父さんに目を向ける。
父さんの行動は早かった。俺に小声で「あの男は元村人のバルガ。お前は村へ急げ」と呟き、相手に姿を見せ、近寄っていく。お互いに武器を抜いており、これから殺しあうのは確実だと俺でも理解できた。
「久しぶりだな、バルガ。村を追放されて何処に向かったかと思えば、こんなところで何をしている」
「……猟師のおっさん、確か…クダリとかいう名前だったか?まぁ、質問に答える義理もねぇ、それにてめぇはここで殺す」
父さんがバルガという男の気を引いている間に、俺も村へ向かい始める。
父さんは俺なんかよりずっと強い。俺が居なければ、相手を倒せなくとも逃げるのは難なくこなせるだろう。
俺ができるのは結局、父さんを信じて、できるだけ早く村へ向かうことだけだった。
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