4. Encounter of undead
小説を毎日書いてる人に尊敬の念を抱く今日この頃。
宜しくお願い致します。
もうすぐ日が沈む。
この世界での目標を定めたはいいが、このまま進むべきか迷う。
地下施設を出発するなら、アンデットが活発に動き出す夜に移動することになる。
不幸中の幸いだが、アンデットになったことで夜目が利くようになったらしい。
思えば地下施設の暗闇で電気を付けずとも周囲が見えていたのは夜目が利いていたからだろう。逆に日中は日の光が眩しくて半眼になってしまいそうだ。
地下施設で夜明けを待つ場合、施設を荒らしたヤツか、施設の主が戻って来る可能性も出てくるし、出発してしまって問題ないだろう。
アンデットと出会えるならそれも良し。例の二人どちらかに遭遇したとしても別に良し。
よく考えたらこの体の時間制限も定かではないし、出発一択で良かったと思う。
*
「早速か……どれ、この体の試運転でもしようかな」
施設を出発して十分。私は運よくアンデットと遭遇することができた。しかも四匹と数も多い。
一匹は大きな体躯を持った猪のアンデット、残り三匹はその子供だろう。親に比べて体格は大きく劣っている。
軽く袖から手を出し、猪達との距離を無造作に詰める。
同時に猪達が突進してくるが、回避はギリギリまで行わない。
相手に自分の手が触れた瞬間、前世で馴染み深い能力を行使する。
前世で所持していた能力の一つである《封緘》。
手首から先で対象に触れていなければならないが、瞬時に対象を漆黒の棺に閉じ込める便利な能力だ。前世では迷者の捕獲から物資の運搬までこの能力を頻繁に使用していた。
突然前方を走っていた大型の猪が消えたことで他三匹に動揺が走る。
対照的に私は《封緘》が無事発動したことに安堵していた。
最悪身体能力のゴリ押しでなんとかなるが、使い慣れた能力があるのとないのでは戦闘スタイルはガラリと変わる。
前世の私の戦闘スタイルは徹底した近接格闘。
所持しているもう一つの能力《浄化》の力を拳に纏わせて、相手を叩く脳筋スタイル。
相手防御力や特殊能力が厄介なら、《封緘》で捕獲してから浄化の力を流し込んで封殺。遠距離から一方的に攻撃してくる敵は、対策が無いわけでは無いが苦手である。
今度は《浄化》を___?
拳に《浄化》の力を纏わせると、極僅かだが手に痛みが走った。
急遽《浄化》を解除し、跳躍して三匹と距離をとる。
忘れていたが今の私はアンデット。自分の体に浄化を使えばダメージが入るのは当然である。通常のアンデットに使用した場合より浄化の効くスピードがはるかに遅いことが気に掛かるが、答えが分かるわけでもないので一旦思考を保留する。
前世までの私なら《浄化》と《封緘》、そして鍛えられた肉体以外に武器は無い。だが現在の肉体ではまだ試していない手札が多くある。
地下施設で見つけた手記、その中にあった私の基本性能のページ。そこには使用可能な私の“スキル”が一覧として記載されていた。
スキルは前世には無かった知識だが、要は“魔力”というものを消費して使用する能力らしい。
私の魔力量はどの程度か調べてみたが、アナスタシアの肉体はとある龍種と融合しているらしく、魔力量は潤沢でありガス欠の心配はなさそうで安心した。
さて、肝心な現在使用可能な手札をまとめると、スキルは《回復魔法》《氷魔法》《氷獄魔法》の三種、技術的な方面では魔力による身体強化を使用することができる。
戦闘ができる能力が揃っているが、実はそれよりも肉体性能の方が色々とおかしい。
アンデットという特性上《浄化》や《光魔法》のような能力が苦手ではあるが、痛みを殆ど感じず夜目が利き、脳のリミッターなどお構いなしに桁外れのパワーを行使できる。そのうえ、アナスタシアと融合している龍種の特性で火・氷・即死の三属性を無効化するハイスペックぶりだ。
魔力による身体強化は、今も使用してアンデットをあしらっているので問題ない。あと試せるのは《氷魔法》と《氷獄魔法》なのだが、後者は手記を見る限りデメリットがある上、この敵では明らかなオーバーキルになってしまう。
アンデット達と距離を取り、《氷魔法》を放つ準備をする。
相手は三体。氷柱で串刺しにするイメージを固め、使用する魔力を調節。能力を使用する感覚で……
「放つ!」
私の足元から地面が凍っていきアンデットの下から氷柱が現れ、三体同時に串刺しにして宙に浮かせた。
おお……便利だ。前世では遠距離攻撃の手段を持っていなかった私は少し感動してしまう。前世では大量のアンデットや少し離れた場所のアンデットはグレイクロスが《聖炎》で対処していた。年老いてからはあまり激しく動くことができなくなり、遠距離からの攻撃手段を羨んだものだ。
後は一体ずつ浄化を掛けていくだけの消化試合だ。
浄化が自分に掛からないように、慎重に力を込めていく。
「どうか安らかに、お休みなさい」
浄化が終わる。私は浄化の済んだ躯達を《封緘》で保管する。
これで後は適当な土地に埋め、再度祈りを捧げるだけ____
「何だ……?」
アンデットの気配、それもかなり多い。一体何処から____っ!?
突然私の立っている地面がひび割れ、大量のアンデットが這い出てくる。十体そこらではない、最低でも三百体以上のアンデットが湧いて出た。
あっと言う間に視界がアンデットで埋め尽くされる。殆どが下級のゾンビとスケルトンだが、この量のアンデットは明らかに異常だ。周囲に墓地などがある場合ならいざ知らず、これだけのアンデットが同時に、同じ場所から発生するとなると人為的に設置されていた可能性が高い。
私は即座に戦闘を開始する。手始めに近くにいたスケルトンを封緘で閉じ込め他の接近しているゾンビ達を《氷魔法》を使用し氷漬けにする。
しかし周囲のアンデット達は襲ってこない。というより此方を見てすらいない。
先程のアンデットは私を狙っていたが、このアンデット達の狙いは間違いなく私とは別だ。
どういうことかと戦闘を一時中断すると、アンデット達は一斉に走り出す。
「私が目的ではない……?」
視界はアンデット達で埋まっており周囲の確認ができない。私は魔力で体を強化し、上空に思いっきり跳んだ。空から地上を見下ろして原因を探す。
「術者……いや、子供か!?」
アンデット達が進む方向の先では子供が走って逃げていた。
幸い距離はあるため会敵していないがそれも時間の問題だ。
私は身体強化を全開にして子供の元へ向かった。
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