19.お触り厳禁アンデット
本日(9/3)4回目更新
宜しくお願い致します。
周囲の建物よりも大きい三階建ての建物。
所々壁や柱に傷があり、あちこちが鉄で補強されていて周囲から浮いているここが、傭兵ギルドだと聞いてきた。
外見通り、建物の中へ入っていくのは武具を身に着けた者ばかりだ。
あまり入り口付近で立ち呆けていては迷惑となってしまうので、傭兵ギルドの中へと歩みを進める。
私がギルド内へ入ると、一人、また一人と視線を此方に向けてくる。
そればかりか、「迷子か」「親は何処だ?」「美人さんだ~」など心配の声が上がってしまい、自分が原因で騒ぎが起きそうになっているので、足早にギルドの職員らしき女性がいるカウンターへ向かう。
「すまない、個人識別証の登録を頼むよ」
「承った。登録料は持ってるかい?」
「ああ、銀貨一枚、確認を頼む」
「確かに受け取ったよ、発行までに少し時間が掛かるから、空いてる席に腰かけてな」
「では適当な席で待たせてもらうよ」
職員の女性は私を子供と侮ることなく、自分の職務を淡々と行ってくれた。
最近は嬢ちゃん、嬢ちゃんと、子供扱いされたばかりなので少し安心する。
「おい」
空いている席に座ると、周囲のざわつきが収まっている。
「おい、こっち向け」
ん? 私か?
私が呼ばれているのかと、後ろへ振り向き声の主を確認する。
そこにいたのは無精ひげの生えた男だった。
後ろに一人若い男を連れており、此方を見下すというよりは何処かイラついている様子だった。
頑丈そうな装備と左手には盾を身に着け、腰には私の頭ほどあるハンマーを提げている。
「どうかしたのかい?」
「どうもこうもない、お前のようなガキ、それも女が傭兵だと? 冗談だろ? 傭兵をなめるのも大概にしろよ」
まぁ、此方の外見は正しく女子供。そんな存在が自分と同じ職業に就こうとしている。
その事実だけで、傭兵という職業が貶められたと感じてしまったのだろう。
「元気がいいね、良いことだ。でも一つだけ訂正させてもらうと、私はもう齢八十八になる。とても子供であるとは言えないかな」
一つ隣に座っていた傭兵の男が飲み物を吹き出す。
絡んできた男は一瞬、私の年齢に驚いたようだったが直ぐにそれを嘘だと思い込み、再び食って掛かる。
「苦しい嘘だな、そういうところが子供だと言うんだ。傭兵というのは基本戦えないと話にならない、時には薬草一本採取するのにも命懸けになる!」
「それは理解できるが、実力があれば問題ないだろう? なら心配に及ばないよ。自分の身ぐらい自分で守れるさ、体も自由に動くことだしね」
「このっ……それに、お前みたいな女子供が傭兵やってたら自分もできると勘違いしたガキどもが出てくるだろうが! ……親が居ないのならおとなしく孤児院にでも入って市民登録でもしてこい、それでいいだろうが」
「心配してもらっているのは分かる。だが私にも事情があってね、市民登録では駄目なんだ。幸いこの街に長居するつもりも無いし、見逃してくれると嬉しいね」
すると男の後ろに控えていた、灰色の髪をした若い男が我慢が効かないと言わんばかりに前に出る。
「お前いい加減にしろよ!? お前みたいなのがいるとこっちが迷惑するって言ってんだよ! ゴチャゴチャ言ってねぇでさっさと出ていけや!」
既にギルドに登録する意思表明はしており、登録料も支払い済みなので、今ギルドを出ても後で個人識別プレートを受け取るだけで良いのだろう。
別に後でまた来ても良かったはずだ。
だが目の前の若者は実力行使に出た。この体に許可なく触れて、排除しようとした。
男が掴んだのは私の右肩。力は込められていたものの、特にいやらしい触れ方でもなかった。
なのに心に浮かんできたのは不快感、アナスタシアの感情なのか確かではないが、此方も実力行使に出る。
激しい動きは見せない。派手な魔法も使用しない。
相手に傷が残るような攻撃は極力避ける。
放つのはただの左ジャブ。
魔力による身体強化を込めた渾身の一撃を顎に掠らせる。
相手の視界外からのアッパーカットや左フックで落とすことも考えたが、今回は周囲に悪い印象を与えたくないので左ジャブを正面から、最短距離を通す一撃をノーモーションから繰り出した。
真横からならいざ知らず、前後から様子を伺っていた者達には私の動きがよく見えなかったはず。
正面からのジャブだったが上手く入ってくれたようで、男はよろめいて膝をつく。
直ぐに立ち上がれない男の様子から、完全に誤魔化すことは無理かもしれないがこれはこれで、先程の無精ひげの男に納得してもらういい材料になっただろう。
「世の中にはどうやっても分かり合えない人間もいる。私達がそうだと決めつける訳では無いが、少なくとも今、建設的な話し合いはできないだろうから、お互い不干渉で行こう。その方が時間を無駄にしなくて済む」
「テメェッ……!」
「それとも、君の言う女子供と事を構える気かい? それは君達が気にしていた印象とやらに影響が出るのでは? それこそ、私をどうにかしたとして君たちに利があるとは思えないけれど」
「……いや、力があるならもう何も言わねえ。さっさとお前がこの街を出ていけることを祈ってやるよ。おい、立てるか」
此方を射殺さんとばかりに睨みつけている男に肩を貸し、無精ひげの男は傭兵ギルドを後にする。
これ以上騒ぎを起こしたくは無いが、確認したいこともあったので先程会話の最中に飲み物を吹き出していた男の、隣の席へ移り話しかける。
「やあ、こんにちは。お隣良いかな」
「うぇ!? どうぞどうぞ!」
「ありがとう。それでいきなりで悪いんだが、少し聞きたいことがあるんだ。聞いても?」
「あー、さっきの事? ごめんね、あいつも普段あんなことで突っかかる奴じゃあないんだけど、過去にちょっと色々あってね、子供にはかなり厳しいんだ。後ろにいた若いのが居なければ話し合いで済んだかもしれないのに」
あれを話し合いと呼べるのかは疑問だが、やはり先程の騒動は、私の外見と行動の不一致が一因となっていた様だ。
「あ、俺はサニーって言うんだ。さっき絡んできたのがアル、お嬢ちゃんに手を出したのが新入りのグウィ。あの二人はお覚えなくていいよ、別にパーティー組んでるわけでもないし。よろしくね」
「私の名前はブラックドック、今は旅をしている最中さ」
サニーという男は先程の男たちとは違い話しやすい男だった。お嬢ちゃんとは呼んでいるが、此方を下に見ているようには微塵も感じない。
私はサニーから話を聞くことにした。
月見バーガーがすき。だけどビックマックはもっとすき。
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