14.行ってきます
誤字脱字、誤用などありましたら申し訳ありません。
宜しくお願い致します
バルガの遺体の浄化が済んだ後、私は野盗の拠点を見つけてから村へ戻った。
その後クロウ少年とサラクを呼び、村を出て再び野盗の拠点へ向かう。
拠点は森を抜けた奥にある崖下にひっそりと存在している。入口こそ手狭だが内側はかなり広い洞窟となっており、野盗達がある程度生活できていたのも頷ける。
三人で洞窟内を探索していくが、洞窟内は確かに生活跡があるのに物が少ない。
部屋のような空間はいくつか存在するが、見つかるのはゴミばかりという有様だ。
「何もないですね」
「いや、決めつけるのは少し早いな。ブラックドックさんよ、気づいてるか」
「ああ、恐らくアンデットだね」
「どうする? 俺が行くか?」
「いや、私が先行するよ」
洞窟の最奥部、他の空間より一段低い位置に存在する狭い空間。
気配は一つ。生者の存在に気付いているのか、少し離れているのにガシャガシャと鉄が擦れるような音が響いてくる。
正直サラクでも倒せるクラスのアンデットだろうが、今回ばかりは私が先行した方が良いと判断した。
恐らく二人もこの先にいるアンデットが誰なのかは分かっているだろう。
だが頭では理解できていも体が言うことを利かないこともある。
「いくよ」
私は扉とも言えないような、木でできた壁を破壊し部屋に踏み入る。
そこにいたのは、予想した通り一体のアンデット。
そのアンデットは手錠を掛けられ、壁と繋がれながらも此方を睨み、食い殺そうと前進を続ける。
左胸辺りにある刺し傷と複数の打撲痕から既に死亡していることが伺える。
「父さん……」
少年がアンデットの名を呼ぶ。
だがアンデットは声にならない呻きを返すだけ。
「俺がやる、退いてくれ」
サラクがアンデットを殺すために前に出ようとするのを左手で制し、その必要はないと首を振る。
「これ以上遺体を傷つけるわけにはいかない。私が直接浄化するよ。……クロウ少年、それでいいかい?」
「……」
少年は答えない。
だがこれは仕方のないこと。
可能性として考えていたとはいえ、実際に肉親の死、それもアンデットと化した家族が目の前に現れたのだ。
動揺が表情に出ているだけではなく、心には大きな痛みと喪失感が突きつけられているのだろう。
私は項垂れている少年の元に歩み寄り、力なく垂れさがる手を取った。
少年が目を合わせてくれたので、落ち着けるようにゆっくりと話し出す。
「クロウ、よく聞きなさい。今は様々な感情が渦巻いて、これから親御さんをどうすればいいのか判断することは難しいだろう。だから今回だけ、君が決断できるように手伝わせてもらえないか」
「お、俺は、俺は……」
「信じてくれ」
少年と出会ったときに交わした言葉。
あの時は一方的に信じさせたが、今回は少年の言葉を待つ。
少年は目を閉じ、数秒ほど悩み沈黙する。
まだ父親に関する答えは出ていないだろうが、目から迷いは消えている。
少年はしっかりと私の目を見返し、口を開く。
「信じます」
言葉は少ないが、少年の目はそれ以上の、全幅の信頼を語っていた。
「後悔はさせないよ。少年、ことが済んだら壁を二回叩きなさい」
「? 何を___」
既に条件は満たしているため、私は《封緘》を発動させる。
そのまま続けて、壁に繋がれたアンデットを《封緘》で捕獲する。
「……どうするつもりだ?」
突然少年ごとアンデットを回収した私にサラクは尤もな疑問を投げかける。
隠すつもりは微塵もないので続けて話し始める。
「私の《封緘》は触れた対象を閉じ込めることができる。だがその性質上ゴーストなどの触れることができない存在は閉じ込めようがないのさ」
「……それで? それが何の関係があるんだ?」
「逆に、一度閉じ込めてしまえばどんな存在も私の《封緘》からは逃れられない。例えば、本来なら浄化後は霧散して天に消えてしまう魂でさえも、外に出ることはできない。……普段は魂を縛るような行いは絶対しないんだけどね。今回だけは特別だ」
サラクは私がこれから行うことを理解したのか、安堵の表情を浮かべる。
「……俺も、なんていうのは野暮か。邪魔しちゃ悪い」
サラクは本当にクロウの父親_クダリと仲が良かったのだろう。クダリの死を信じていなかったし、思えばいつもクロウ少年を気に掛けていた気がする。
この野盗の拠点へ来る際も、私が呼んだとはいえ二つ返事で同行してくれた。
私達は洞窟をでて村へ向かって歩き出す。
「できるだけゆっくり帰ろうか。後ろは見ないから、泣いてもいいよ」
「こんなところで泣くわけねえだろ。だけどまあ、ゆっくり帰んのは賛成だ」
二人で、少年が前を向けるように祈って。
*
この空間には覚えがある。
ここに入ったのは今回で三回目。
だけど今回はここに俺を入れた理由が分からない。
四方の壁は前回、前々回とは違い透けていなかった。
分からない。父さんのことも含め、何も考えられないが、ただ信じて待つ。
待つ。
「クロウ」
__この声は、
声がした背後を振り返る。
「父さん!」
そこにはアンデットになり血を流していた父さんではなく、最後に森で別れた時の恰好の父さんが立っていた。
けれど確かにそこにいるのに、父さんの存在は希薄になっていた。
泣いている場合ではない、そう思っても涙は溢れてきて父さんの姿を更に滲ませる。
「ごっ、ごめん、ごめん父さん。あの時、俺が、俺が失敗しなければ父さんは死ななかった!」
「クロウ……まず泣き止め。確かにお前はミスをしたかもしれない。だがな、その程度のミスで俺がどうにかなると思うか? 実際俺が死んだのはアンデットがお前を追った事実に動揺してヘマしただけだ。さっさとバルガを始末してお前を追いかければ済んだことなのにな」
「それでもさぁ……」
「まあ、少し時間を貰えたんだ。あれから何があったのか話してくれ」
「……うん」
____それから、今回の一件について話して、
____それから、今までの思い出を語り合って、
_____それから、俺のこれからについて、話した。
「寂しいか?」
「当たり前だよ。でも頑張るよ」
「……本当に立派になった。お前ならこれからどんなことがあってもやっていける。……これからは母さんと共にお前を見守っている」
「うん」
「……もう行け。別れが惜しくなる」
「うん」
俺はあの人に合図を出すべく壁に近づき、腕を振り上げる。
「頑張れよ」
背中に、尊敬する父からの応援が刺さる。
また泣きそうになるのを堪え、壁を二度、寂しさを振り切るように叩く。
「行ってきます」
振り返った俺が最後に見たのは、父さんの笑った顔だった。
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