第7話 銀髪の美少女①「王都の噂」
川を下っていくガリオの姿を、遠くから静かに見つめる美少女がいた。
腰まで届くほどに長い彼女の銀色の髪が、風に揺れてサラサラとなびいている。
そんな幻想的で美しい彼女の足下には、多くの獣の死体が転がっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ガリオが谷底に転落してから、10日ほどが経過した。
その間、ガリオはあの現場に他の冒険者などがいなかったか調べてみたが、いまだ見つかっていない。
事故があった翌日、ガリオは自分が住んでいるブングラスの町の冒険者協会に確認を取ってみた。しかし───
「昨日あの周辺に出かけた冒険者は、ガリオさん以外いないはずです」
ガリオの期待とは裏腹に、冒険者協会は何の情報を持っていなかった。
そして、不可解な点はもう一つある。
あんなに瀕死だったガリオを救おうとするならば、超高価な回復ポーションを使うか、高度な回復魔法をかけるしかない。
そのどちらにしても、ガリオは後で目が飛び出るほどのお金を請求されるはずだ。なのに───
「なぜ誰も何も言ってこないんだ? 先を急ぐ旅人が偶然あの場を通りかかって、超高価な回復ポーションを惜しげもなく使ってくれたとでもいうのか」
もしくは、高度な回復魔法が使える旅人だったという線もあったが、ガリオはすぐに否定する。
あまりに都合がいい想像だったからだ。
「でも実際誰が治してくれたんだろう。まさかこの俺に『始祖精霊様の奇跡』が起こったっていうんじゃないだろうな」
始祖精霊とは、精霊界と人間界を創造した『始まりの精霊』だと言われており、その2つの世界の創造こそが、最初の『始祖精霊様の奇跡』として精霊教会により位置付けられている。
始祖精霊を崇め奉る精霊教会では、この世界で起こった奇跡的な現象を『始祖精霊様の奇跡』と呼んでいるのだ。
「あの人影が始祖精霊様だったりして……。そんなことある訳ないか」
ガリオとしては、今回のことが『始祖精霊様の奇跡』と言えるくらいに、奇跡的な出来事であったのは間違いないと思っている。
だが、彼自身は精霊教会の敬虔な信徒でもないので、そんな自分を始祖精霊様が救ってくれたとは本気で考えていなかった。
「本当に誰だったんだろう」
色々調べてみたが、結局ガリオは自分を助けてくれた人の手がかりを掴むことができなかった。
ガリオが命の恩人探しをしている一方で、世間は『最悪の魔物が討伐された』というニュースで盛り上がっていた。
最悪の魔物コエ=ガスが出現した当初は、世界中では戦力不足を心配する声が多く囁かれていた。
なぜなら、現在人間界に召喚できることが確認されている四大精霊は、西の王国『ナイステイト王国』のケイル王子と契約した風の四大精霊ジャンナ1体だけだったからだ。
世界中で『火・土・水』属性の3体の四大精霊と契約している人間を探したが、結局見つけることはできなかった。
───大昔に一度、コエ=ガスが現れたときは、四大精霊が4体がかりで倒したらしいぞ
───貴族や商人の中には、財産をまとめて逃げる準備をしている奴がいるって話だ
世界中の国々で悲観的な噂が飛び交っていた。
しかし、西の王国のケイル王子を筆頭とした各国合同の討伐軍は、今代の最強精霊である風の四大精霊ジャンナの力を借りて、最悪の魔物コエ=ガスの討伐に成功したのである。
───ケイル王子がいなかったら、誰も最悪の魔物を倒せなかった!
───勇者だ! 勇者ケイル王子の誕生だ!
自国の王子が世界の危機を救ったとあって、西の王国内は『勇者ケイル王子』の話題で大盛り上がりだった。
ガリオが住んでいるブングラスの町は西の王国の中にあるため、王都の盛り上がり具合は、商人や冒険者たちを通してよく聞こえていた。
そして近々、勇者ケイル王子と風の四大精霊ジャンナが王都に帰還して、盛大に凱旋パレードが行われるという噂だった。
「よう、ガリオのおっさん。今日も薬草拾いのバイト、大変だな。おっさんは王都の凱旋パレードに行かないのか?」
馴れ馴れしく自分に話しかけてくる聞きなれた若い青年の声を聞いて、ガリオは内心「またか」とため息をついた。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第8話 銀髪の美少女②「見慣れぬ美少女」
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