第6話 出会い⑥「謎の美少女」
ケイル王子は最後まで気づくことが無かった。
彼が所持している西の王国の国宝である「紫の魔石」の中で、何かがドロリとうごめいたことに。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はっくしょん!」
暗闇に包まれた谷底で、ガリオは寒気を感じて目を覚ました。彼の体は、すっかり冷え切ってしまっている。
「あれ? 俺、死んだはずじゃ……」
固い地面の上で寝ていたために、こわばった体をゆっくりと起こす。
暗闇の中、ガリオは座ったままで手足を動かして確認するが、痛みは無い。
狐につままれたような感覚に、ガリオは少し混乱していた。崖から落ちて死にそうになったのは、夢だったんだろうか。
腰に下げた小さなバッグから、ライターを取り出して火を灯す。
オレンジ色の光に包まれて少し安心したガリオだったが、自分の体を見てみると、全身が赤黒く染まっているのに気づいた。
「うわっ!」
服の特に背中側が血で固まっていたせいで、自分が血だまりの中に倒れていたことは分かった。
血まみれの獣の死体の上にでも倒れていたのかとも思ったが、足元にそんな死体は見当たらない。
自分が流した血かとも考えたが、自分の体にはかすり傷一つもないのだ。
「???」
ガリオは立ち上がり、もう一度自分の体を確認したが、足もちゃんとある。
幽霊になったわけでもなさそうだ。
その時、ガリオの頭の中に、気を失う前の最後の記憶がよぎった。
「そういえば、誰かいたような……」
意識を失う直前、誰かが目の前にいたようだが、彼ははっきりと思い出せないでいた。
だがもしも、その人が回復魔法か回復ポーションで瀕死の自分を助けてくれたならば、体に傷一つ残っていないのも説明がつく。
「その人はもういないみたいだな」
ガリオは周りを見回してみるが、そこは暗闇が広がるばかりで、人影はもちろん明かりの一つも見えない。
ここがガリオが毎日来ている森の中であるのは、間違いないようだ。
「お礼しなきゃいけないのに、申し訳なかったなあ」
ガリオは最後に目にした人が、死ぬ直前にあった自分を救ってくれたのだと考えた。
そして、町に戻れば何か情報を得られるだろうと思いなおす。
ガリオは、近くに落ちていた薬草が入った自分のバッグを発見した。
そして、慣れた手つきで足下の大き目の枝を拾い上げて、松明を作り出す。
「これでよし」
自分の体は血だらけなので、ぼやぼやしていると森の獣や魔物が襲ってくるかもしれない。
それを思い出したガリオは、ブルッと体を震わせた。
少し離れた場所から、川のせせらぎが聞こえてくる。
ガリオは自分が崖から落ちた位置を大まかに把握し、気合いを入れる。
「早く山を下りよう。ここがタトール川なら、迷うことはないはずだ」
ガリオはでこぼこした地面に悪戦苦闘しながら下流へ急いだ。
「……」
川を下っていくガリオの姿を、遠くから静かに見つめる美少女がいた。
腰まで届くほどに長い彼女の銀色の髪が、風に揺れてサラサラとなびいている。
そんな幻想的で美しい彼女の足下には、多くの獣の死体が転がっていた。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第7話 銀髪の美少女①「王都の噂」
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