第61話 冒険者登録の実技訓練⑥「レオンの夢とパーティへの不安」
ガリオの手を振り払う元気もなく、レオンは為すがままになっている。ただ、その表情は満更でもないようにも見えた。
「ああ。白魔法を習得するためには、必ずやっておかなければならないことだ」
「……しょうがないな。僕が強くなるためだ」
明らかに強がっているようにしか見えないレオンに、ガリオとティフォーネは顔を見合わせて、クスッと苦笑いするのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
───ドサッ!
その夜、宿のお風呂から帰ってきたレオンは、金髪がまだ完全に乾いていないのにも関わらず、子どものように勢いよくベッドに飛び込んだ。
「ンフフフ」
薄暗い部屋の中に、枕に顔をうずめたレオンのこもった笑い声が響く。すらりと伸びた両足も、嬉しそうにパタパタとベッドを叩いていた。
「今日は……ちょっと楽しかったな……」
レオンは稽古の最後に撫でられた、ガリオの武骨な手の感触と、ほのかに感じた暖かさを思い出す。
彼はこれまで、母親以外に頭を撫でられた経験がなかった。また、何の気遣いもいらない口喧嘩をすることも。
しばらくして息苦しくなったレオンは、体を反転させて仰向けになる。
そして、何を考える訳でもなく、彼はボーッと天井を眺めていた。
時折頭の中をよぎるのは、ガリオたちと過ごした放課後の稽古の思い出である。
冒険者登録のために家を出てから、こんなに気分がスッキリしているのは、レオンにとって初めてのことだった。
彼はゆっくりと右手を天井に伸ばす。
「私は……もっと強くなる」
レオンは由緒ある家庭に生まれたものの、物心がついたときには、すでに呪いの精霊に憑りつかれていた。
そして、それが原因で父親から見放され、母親と田舎の村でずっと二人で暮らしている。
彼が冒険者になろうと決意したのは、数年前、父親のもとで暮らす兄妹の姿を見たときだった。
二人の兄と一人の妹。彼らの何の不満も無さそうな輝く笑顔を見て、レオンは初めて憎しみにも似た感情を覚えた。
『それなら……冒険者になることが、一番の早道かもしれませんな』
母親の古くからの知り合いだという初老の男性に相談した時、彼はそんなことを言った。
その人はレオンが子どもの頃から、何度も家に出入りしている人である。
温和で物知りで、しかもお菓子も一杯くれる優しい紳士。レオンにとって、数少ない頼れる人だ。
『冒険者?』
『左様です。冒険者は、身分も性別も関係なく、強さのみが求められる存在。もし多くの人を見返したいと思うのなら、私が思いつく限り、今のあなたには冒険者の道しか無いかもしれません』
『……そっか』
自分を見放した父親、自分を虐めた子どもたち、自分を避ける大人たち、そして、自分を知らない兄妹。
誰からも認められなかった弱い自分が、誰もが認める強い冒険者になること。それが、今のレオンの生きる目標となっていた。
「私は……強い……冒険者に……」
力の抜けた右腕が、パタリとベッドに落ちた。しばらくして、静かな寝息の音だけが部屋の中に流れる。
この眠っている間だけは、レオンにとって何も偽ることなく、そして何も縛られることもない、本当の自分でいられる時間だった。
───冒険者登録3日目の放課後、ガリオたちはいつものように体育館にいた。
いよいよダンジョンでの実技訓練を明日に控え、今日の稽古は早めに切り上げている。
レオンの呼吸が落ち着くまで、3人は明日からのことで立ち話をしていた。
「ところでレオン。一緒に組むパーティメンバーは見つけたのか?」
「ああ。同じ白色クラスの男子二人と、3人のパーティを組むよ」
レオンがすでにパーティメンバーを見つけていると聞いて、ガリオは内心ホッとしていた。
何度か白色クラスの剣術の講義を担当したが、レオンが他のクラスメイトと仲良く話している場面を見たことが無かったからだ。
「良かったじゃないか。ティフォーネのほうはどうなんだ?」
「私も同じクラスの友達から、パーティに誘ってもらいました。私と女の子二人のパーティです。レオンさんと組む二人って、どんな男子なんですか?」
ティフォーネがレオンに質問したことは、実はガリオもちょっと気になっていた。
精霊魔法が使えない冒険者は、索敵能力が極端に低い。自分の目や耳だったり、感覚だけを頼りに魔物を探さなければならないからだ。
また、ダンジョンの中は暗いため、視界を明るくするために誰かがランタンを掲げていなければならないことも、彼らには大きな負担となってくる。
暗闇でも目が見えるように、白魔法で視力を強化できれば話は違うが、レオンはまだその段階に至っていなかった。
「僕よりちょっと年上の、確か18か19歳だと言っていたと思う。他のクラスメイトは、別のクラスの友達と組むらしくて、僕とその二人が余っていたんだ。それでやむなくね」
フッと肩をすくめるレオン。しかし、3人でパーティを組めたことに、ホッとした気持ちもあった。
パーティの人数が少しでも多いほうが、より安全に魔石集めができるからだ。
レオンの話を聞いて、ガリオは白色クラスの男子の顔を思い出す。レオン以外に、男子は他に3人いたはずだ。
「レオンのパーティの一人って、ちょっと小柄な男子のほう?」
「違う。二人ともガッチリした体格のほう。小柄なやつは、別のクラスのパ―ティに行ったよ」
「……そうか」
ガリオの中に、少しだけ不安がよぎる。
レオンのいうガッチリした体格の二人は、剣術の講義に少し真剣さが足りない印象があったからだ。
木剣の打ち込みも手を抜いていたし、ガリオのアドバイスも聞き流しているような感じがした。
そんなガリオの不安が顔に出たのか、レオンが彼の表情を見て苦笑する。
「ガリオさんの不安も分かるよ。だけど、僕らには他に選択肢が無いんだ。彼らも実技訓練になれば、必死になってくれるはずさ」
「確かにそうだな……」
レオンの言うとおり、友達でもない限り、他のクラスの若者が白色クラスのレオンたちとパーティを組むのは難しいだろう。
この冒険者登録には、金貨1枚という大金を協会に支払う必要があるし、この期間中オルソの街に滞在するのもタダではない。
レオンもこの冒険者登録へ参加するにあたって、母親の負担にならないように、自分で必死にお金を貯めたのだ。
そんな金銭的な負担も考えて、さすがにあの二人も実技訓練だけは真面目に取り組んでくれるはずだと、レオンは考えている。
「そんなことより、ガリオさんが冒険者登録した時は、どんな感じだったんだ? ちゃんとパーティを組んでくれる相手はいたのか?」
どんな想像をしているのか、レオンはニヤニヤした顔でガリオのほうを見ている。
しかしレオンの予想に反して、ガリオはニヤッと口の端を上げると、やれやれといった感じで肩をすくめた。
「俺が冒険者に登録したときは、講義とか実技訓練とか受けていないんだ」
「───ッ! ど、どうしてッ! ガリオさん、契約精霊いないはずじゃ……」
「冒険者になるためには、講義と実技訓練を受ける以外に、もう一つ方法があるんだ」
「あッ! 確か、冒険者レベル5以上の人の推薦があれば……」
「そのとおり。俺は15歳の時に、俺の剣の師匠から推薦してもらったんだ」
「ず、ズルいぞッ! どうしてガリオさんだけッ!」
「レオンさん、まーまー」
顔を真っ赤にして不満をぶつけるレオンを、ティフォーネが苦笑しながらなだめようとしていた。
ガリオは胸を張って「ハッハッハ」と勝ち誇ったように笑っている。
そして突然、彼の脳裏にヤギュウ師匠が推薦人に決まったときの光景が蘇った。
『ハッハッハ。残念だったな』
『ヤギュウちゃん、ズルいぞーッ! じゃんけんで白魔法使うなんてッ! リーダーも何とか言ってやってッ!』
『グーグー。スヤスヤ』
『そんなセコいこと考えるのは、おめーだけだッ!』
『ガリオ。やり直すように言ってくれたら、白魔法の極意を教えよう』
『……別に誰でもいいんだけど』
思わず涙が込み上げそうになり、ガリオは慌てて頭をブンブンと左右に振る。
そんな彼を、ティフォーネとレオンは不思議そうな顔で眺めていた。
───そして、ガリオたちの運命を左右する実技訓練が始まった。
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
題名は、未定。
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